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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
二章:族長争い
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4・訓練と思惑1

 シオールの槍がジェアの足元を払う。その前にジェアは上に飛んで避ける事は出来たものの、シオールが即槍を回したため穂先とは反対側の柄で下り際を叩かれた。


「痛っ」


 まともに足を叩かれたら痛い。クォーラのような筋肉こそが鎧とでもいうような体格でもなければ、耐えるのは厳しいだろう。

 とはいえシオールはかなり手加減している。ただ、力加減は落としてもスピードはそこまで落としていない。そうしないとジェアの訓練にならないからだが、全く勝負にはなっていないのも確かだ。

 それでも、最初からすればかなり良くなった。最初は本当にまったく避けられていなかったのだから。


「シオ、ちょっと休憩にしよう」


 そう声を掛けると、シオールはこちらをみて了承の会釈を返してくる。同時にジェアがその場で座りこんだ。


「いや……勝てるとは全く思っていなかったが、ここまで差があるとはな」


 クォーラとの勝負以降、シオールの強さは皆認めているが、実際手合わせした者はいないから予想以上だったのだろう。


――ま、皆に見られてへたに相手するのが嫌だからシオは森で訓練してた訳だし。


 彼としては今でも戦士未満連中の相手なんてしたくないだろうけど、そうは言っていられない現状がある。連中には一刻も早く『未満』を捨ててもらわないとならない。そのためにはレベルの高い人間に相手をしてもらうのが近道だ。筋力や体力は個々で地道にがんばってもらうとして、強い相手とやれば目と経験則での動きが大幅に引きあがる。アルスと違ってちゃんと鍛えてる彼等ならその成果は相当大きい筈だ。


「アルスロッツ様、次は私が」

「うん、よろしくー」


 ドゥトスがわざわざアルスの前に跪いて言ってくる。彼女も父は死んだものと思っているのだろう、すっかりアルスの事を主人扱いだ。


「俺はまだ疲れていませんが」


 ドゥトスと交代して、少しだけ不満そうな顔でやってきたシオールは確かに疲れたようには見えない。


「いや、疲れられても困るからさ、現状何が起こるか分からないし、戦力の要になってる面子には常に余力を残しておいてもらわないと」

「……分かりました」


 そこで納得したのか、シオールはアルスの隣に座った。

 目の前では、ドゥトスがジェアと交代した者の相手をしていた。勿論、やっぱりまったく相手になってはいないが。今ここに既に戦士として認められている人間はシオールを入れたとしても4人しかいない。彼等には昨日から警備と、訓練の相手と、休憩のローテーションで動いてもらっていた。


 アルス達が谷に下りてから今日で三日目になった。

 一応崖上を常に注意はしているが、ナグラックからの追手の姿は今のところ見ていない。諦めてくれたとは言い切れないが、皆の意見として疲れを癒したいというのが多かったためまだ移動せずここにいた。アルスとしては出来れば早く移動をしたいところだが、ずっと辛い思いで歩いてきてやっと安堵出来たからか、皆があまり動きたがっていないのは分かる。人によってはこのまま暫くここにいたいという声が出ているのも知っている。


――でも、ここじゃまだ近すぎる。


 実際この辺りはまだ距離的にナグラックの連中の行動範囲内ではあるし、連中が下に下りた可能性に気づいたらすぐに見つかる。最低でも、ナグラックの連中が行った事がない場所、違う生活圏の地域にまでは行きたい。


「ジェア、俺としては出来るだけ早くここから移動したいところなんだけど、やっぱりまだ動きたくないって方が多いのかなぁ」


 休憩していたジェアの目はドゥトスの動きを追っている。自分の番じゃなくても目だけは鍛えようとしているのだろう。


「そうだな、やっと少し落ち着いたから、ここからまた苦労して移動したくないって思ってる奴は多いな」

「そっかー、だよねー」

「だが、ここじゃまだ安心出来ない」


 言ってチラとこちらを見てきた顔からして『そう言いたいんだろ?』という感じだから、彼は分かってくれているらしい。ジェアは基本協力的だから、ついついアルスも彼に相談を持ち掛けてしまう。マーナや女性陣もアルスの肩を持ってくれる事も多く、ただそれで何かの話し合いをするとレガン一人が反対をする事になって、彼が孤立していっているのが問題だ。まだ彼には取り巻き連中がいるから一人ではないが、これは良くない状況だとはアルスも分かっていた。


次回はこのシーンの続き

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