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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
二章:族長争い
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3・岩の民

 ナグラック族は現在6つの集団に分かれて活動していて、しかもそれぞれの活動場所は割合離れている。それは他部族を襲って暮らすその性質ゆえ、活動範囲が被らないようにするためだった。

 洞の民、土の民、川の民、岩の民、砂の民、草原の民――それぞれ自分たちの活動地域の特徴が名前の由来だが、厄介な事にその活動地域、縄張りとでもいうべきその境界はあいまいだった。そのため度々ナグラック族内での戦いは起こっており、特に『炎の宴』が近い時期は起こりやすかった。


「へたをするとあの小僧、宴まで待たずに戦いを仕掛ける気か」


 岩の民の頭領であるドーレアは、椅子に座ったままそう呟くと目を閉じた。


「かもしれないですね。自信があるのでしょう」


 側近のパイラがそれを聞いてすぐに言ってくる。


「クリス村を落としたのは大きいな」

「えぇ、それであの周辺の小部族達は一気にゼラのものになりそうです」

「そうだな」


 クリス村の六英雄の名は、離れたこの地域の人間の耳にも入っていた。土の民が何度も落とそうとして諦めたという話も伝わっている。それだけ強いところが負けたとなれば、そこより弱い連中は戦わずに降伏する可能性が高い。


「……だからグストも焦ってるんだろう」

「左様ですね」


 草原の民がゼラについたという話が出た頃は余裕でいた洞の民の頭領のグストは、続いて砂の民もがその下についたと聞いてこちらに使者を送ってきた。そして今回、キシェナ、クリス村をゼラが続けて手に入れたと聞いて再度使者を寄こした。用件は当然、自分につけ、というものだ。一度目はまだ、今までの実績から自分がどれだけ族長にふさわしいかをアピールする程度の内容だったが、今回は具体的な条件案をいれた正式な同盟の申し込みだった。それだけ切羽詰まってきているという事だろう。


「どちらにつくかは、もう決めてらっしゃるのですか?」


 ドーレアは使者が持ってきたペイル板を椅子横の台に置いて、ため息と共に返した。


「正直に言えば、どちらにもつきたくない」

「それはつまり、勝ったほうにつく、という事でしょうか?」

「それが理想だが……」


 そういう訳にもいかない。

 グストの事だ、懐柔しようとしているうちはいいが、返事を先延ばしにしたり、ゼラと接触を取ろうとすれば、即こちらを襲撃して強引に配下にしようとするだろう。

 そして現状の戦力では、こちらはグスト率いる洞の民には勝てない。


「あの若造が動き出した時には予想できた事態だ、暫く我らは身を潜めるさ」

「そうですね。そのために準備をしてきましたから」


 この事態を予想していたから、ドーレアが率いる岩の民はある程度の期間他を襲わなくていいようにこつこつと備蓄を進めてきた。なにせ岩の民には食料を保存出来る洞窟がある。その場所は勿論他の民には秘密であり、一か所ではない。

 ちなみに洞の民にも同じようなものがあって、その規模はこちらよりもずっと上である。それがあるから近年は洞の民、グストのところがトップでいられたのだ。


「では、そろそろ我らは身を隠すとしますか」


 含みのある笑みを浮かべて、パイラが聞いてくる。


「あぁ、グストからの使者が出て行き次第、移動開始だ」


 岩の民は他に比べて人数が少ない。だからこそ身軽で移動が容易い。その利点を使って暫くは岩の民全員で身を隠すつもりだった。こちらの読みでは期間はそこまで長くはならない。グストやゼラがこちらを襲ってくるだけの余裕がなくなるまででいいのだ。


「暫くは高見の見物といこう」

「ですね。そして、互いに余裕がなくなってきたところでどちらにつくか決めればいい」


 いくら彼等に余裕がなくなっていたとしても、漁夫の利でトップを勝ち取ろうなんて気はドーレアにはない。自分は族長が出来る器ではないし、それだけの力もない。それにそもそもそこまでの野心もない。

 だから、一番必要とされる場面でこちらを売り込むのが目的だ。


「せいぜい高く売ってやるさ」


 ドーレアが呟いて喉を鳴らせば、パイラも同意した後に笑い声を上げた。


次回はアルス達側の話。

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