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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
二章:族長争い
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2・可能性の話2


「それより考える事はいくらでもあるんじゃないですか。とりあえずそろそろ、方針を変える時期なんじゃないかと思いますけどね」

「……というと?」

「今までのような単純な略奪路線でいくのはそろそろやめ時だという事ですよ」


 ゼラが顔を向けると、ウロドもこちらを見ていた。

 常日頃、いいたい事があれば何でも言ってみろとは言ってあったが、きちんと言葉にして彼が自分の意見を言ってきたのは初めてだ。先を促すように黙って彼の顔を見ていれば、やる気のなさそうに見える男は、それでも真っすぐこちらを見て言ってきた。


「今までは他部族を潰して奪って支配すればそれで済む話だったのでしょうけど、名前だけで恐れて向こうから頭を下げてくる段階になったら、有力者を皆殺しにして支配じゃすぐやっていけなくなりますよ。今回使者を送ってきた連中をどうするつもりですか? 土地も人間も配下が増え過ぎたら管理しきれなくなります」


 勿論ゼラがそこを考えていない訳はない。


「だろうな。ただでさえうちには、戦闘以外が出来る奴が少ない」

「分かってるなら、戦士だけじゃなく管理する人間も取り立ててやるべきです」


 彼の言いたい事もゼラは分かっていた。


「向こうから配下になるといってきた連中は、ここのように殺さずそのまま族長に管理させておけばいい、という話だろ?」

「……分かってるじゃないですか」


 それでいつも通り不貞腐れた顔でそっぽを向いた男に、ゼラは僅かに笑って告げる。


「クリス村を潰せばこの辺りの連中がこぞって頭を下げてくるのは予定通りだ。そういう連中の有力者は生かしておいても脅威にはなりにくい。なにせ戦いもせず屈した連中が、こちらに対抗する勢力を立ち上げても誰もついてこないからな。だから今まで通り血縁まで皆殺しにする必要はない」


 それを聞いて本来平和主義の男は、幾分かほっとした顔をした。……やる気はなさそうに見えるのに誰よりもいろいろ考えているのだから本当にこの男はおもしろい。


「それなら、この辺りの連中は喜んで貴方の配下に入るでしょうね」

「そうだな。だが、ここら一帯全部を配下にしてからが問題だ」


 この辺りの中心であったクリス村とそこの六英雄を倒したとなれば、彼等頼りだった連中は戦いさえせず降伏する。そうなると一気に支配地域が増える。


「点在する村々や大勢の奴隷を支配下におくなら、俺達も固定の拠点を作らないとならない」


 肘掛を叩いていたゼラの指が止まり、彼はその手を握り締めるとそれを見つめた。

 ナグラック族で遊牧民のように常に移動生活しているのは草原の民だけだが、一か所に定住して村を作っているようなところもない。ナグラック族の活動的に一か所にとどまれば報復される恐れがあるし、農耕をする訳でもないから定住する理由がないのだ。勿論非戦闘民もいるから拠点はあるのだが、他部族を襲いつつ各民ごとに拠点は定期的に移動して変えていた。


「成程。そこまで考えていたのですね」


 ウロドはため息とともにそう呟いた。頭の良い男だから、ゼラがその辺りまで考えている事はある程度予想していただろう。こちらを見ていた男はまた書類の方に視線を戻した。


「幸いここまででも使える労働力はかなり確保できたし、今回自ら頭を下げてきた連中にも労働力の提供を要求する予定だ。次の戦いに備えるためにも、せいぜい立派な拠点を作ってやろうじゃないか」

「次の戦い、ですか……」


 呟いて考え込んだウロドに、ゼラは言う。


「あぁ、こっちがこれだけ派手に動けば我らが現族長様が黙っていないだろうからな。もっとも、奴は気が短いから、拠点より先にカタがつくかもな」


 考えただけで、唇が自然と楽し気に歪む。そう、本番はこれからだった。

 現在のナグラックの族長は洞の民の頭領であるグストという男である。各集団の頭領をやっている者の中で一番年上だが、若過ぎる者が多いだけでまだ引退を考えるような歳ではない。次の族長も自分だと思っているに違いなかった。

 ゼラがクリス村を落として一気にこの辺り一帯を支配下に置いたとなれば、こちらを妨害するために必ず何かしらの手を打ってくる筈だ。


「もしかしたら『炎の宴』の前に次の族長が決まるかもしれないぞ」


 同族同士では戦わない、という前提は常に守られていた訳ではない。最終的には強い者が正しい。ナグラック族とはそういうものだ。


次はナグラック側の別の民の話。

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