50・正解
太陽は森の中にいる今、木々に隠れてもう見えない高さまで落ちていた。
肩にいる相棒を指で撫でながら、バンダーは部下の報告を聞いていた。
「バンダー様、二班が帰ってきました。……見つからなかったそうです」
「そうか、もう日が落ちる、今日は一旦村に戻るぞ」
「いいのですか?」
「いいんじゃないかな、見つかるまで帰ってくるなとは命令されてないし、そろそろ一度見つかってないって報告にいかなくちゃならないからね」
「はぁ……」
部下はまだ納得していないようだったが、村が落ちてから四日、追跡部隊として改めて出てからでも三日目になる。そろそろ不足してきた物もあるし、これ以上追跡範囲を広げるなら一度上に確認をとった方がいい。もしかしたら中止になる可能性もある。
なにせ、三日掛かって見つからないのはゼラにとっては想定外の筈だ。手を抜いているとかわざと調べてないところがある――なんて事がないのはつけてくれた連中がが証明してくれるだろうが、老人や女子供連れの集団を偵察専門の部隊が見つけられないなんて普通ならありえない。雨のせいで足跡が追いにくくなったというアクシデントがあっても、追う側の半分以下の速度でしか移動できないだろう大所帯の集団を見つけられないとなれば、何か想定外の事態が起こっていると思うべきだ。
――どこかの村に匿ってもらったか、もしくは捕まったか、と考えるのが普通だろうけど。
だが後者はまだあるとして、前者の可能性は限りなく低い。クリス村はこの辺りで平和にやってきた連中のまとめ役のようなところだった。そこが落ちて尚、こちらに敵対しようなんて思えるような気合のある連中はいないだろう。実際、そういう連中がこぞって使者を送ってきたからゼラは一度キシェナに戻る事になった。
――となると、どこかの連中に捕まったか、もしくはあとで交渉材料として使うために匿うふりをして受け入れられたか。
あとは、逃げて山に登ったか、森の誰も立ち入らないような奥地まで行ったか……そうなると道に迷うか、化け物の餌食になって全滅している可能性が高い。ただ、あの少年達がいるとすればそんなつまらない死に方はしていない気もする。雨の事といい、彼等は何か『持っている』気がするのだ。
「さて、我らが頭領様はどう判断するかな」
他部族の元にいるのならいずれ分かるし、そもそも追っても無駄になる。またこれ以上追跡の範囲を広げるなら、危険と言われている領域に入る必要がある。そうなれば許可も必要だし、準備もし直さないとならない。
それでも尚追跡するか、諦めるか。
そういえばまだあの男は、ここまで盛大に獲物を逃がした事がなかった。意地になって追わせるか、諦めるか、あの男にとってこれは初めての選択となるかもしれない。
――少しは面白くなってきたかな。
あそこであの少年たちを見なかった事にしたのは、やはり正解だったとバンダーは思った。
「……という訳で、暫く彼女が俺達についてきてくれる事になったんだけど、いいかな?」
レガンとジェア、マーナとミーナ、あとは当然婆様達と六英雄の奥方達。現在ここで発言力を持っている人間を集めて、アルスは皆にシェノンが暫く同行する事、彼女に自分たちの事を教える代わりにこの先の道案内と、夜に動物除けの結界を張ってもらえる、という話をした。
「まず、その女は信用出来るのか?」
予想通り、そう聞いてきたのはレガンだ。彼は寝る前にも一応文句を言ってきてはいたのだが、その時は彼も限界だったらしく『後で話を聞く』と言って寝てしまった。起きてからはジェアがアルスから話すから、と抑えていてくれていたらしい。おかげでアルスは起きて軽く食事をとったら即話し合いだ、と言われた訳だ。
「見た通り彼女は遠いところから来た人間だ」
皆の顔を見渡しながら言えば、すぐにレガンがつっかかってくる。
「なら何故俺達の言葉が分かるんだ」
うーん、レガンはやっぱ馬鹿じゃないんだよな――なんて思いつつ、ここは正直に話すところだろうとアルスは考えた。
「まず、彼女のいたところは俺達、というか俺達がいた地域からすれば、かなり技術が進んでいて文化レベルが高い」
「何故そう言える」
「彼女の服を見なよ、俺達じゃ布からして作れない。それにそもそも、戦士でもない女性が一人で遠いところからここまで旅してきた……なぁんて事は俺達の常識じゃ無理だろ。動物避けの結界とか、彼女はそれを可能にする手段を持ってる」
「……確かに」
前者はともかく、後者の理由はレガンでも納得できたらしい。
「で、彼女の属しているところは、定期的にこのあたりに人間を送って調査していたらしい。俺達に同行して話を聞きたいっていうのもそのためだ」
「それで、言葉も分かると?」
「みたいだよ。なんか会話を記録する方法があって、片っ端から聞いた話を記録しておいてあとで解析するんだってさ」
「会話を記録……だと?」
「だから言ったろ、彼女は俺達よりも技術が進んでる土地から来たって」
レガンは思いきり顔を顰めているが、彼が理解できない技術をシェノンが持っているという事だけは理解してくれたらしく、そこは黙った。あーあれだ、自分が分からないと認めている事についてなら、レガンみたいなプライドが高くて頭の固い人間は割と大人しくしてくれるものである。
次回でこの章は終わりです。




