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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
一章:旅立ち
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47・谷の夜2

「ま、いろいろ言ったけどさ、そもそもシェノンさんが情報収集しているのは俺達の地域を手に入れる為じゃないと思うよ」

「……何故そういえる?」


 ジェアが少し驚いた声で聞いてくる。


「いやだって、話をしている時の彼女、俺と同じなんだよね。新しい事を知って、それについて考察するのが楽しくて仕方がないって顔」


 セルマもそうだった……と考えたらちょっと顔が引きつりそうになったが、にかっと笑みを浮かべてアルスはシェノンを見た。


「そうですよね?」


 ずっと無表情だったの彼女が、そこでほんの僅かに笑みを浮かべる。


「あぁ……その通りだ。信じる信じないはそちらに任せるが、我々は別にお前達の地域を手に入れたいとか、その手の野心は持ってないから安心してくれ」


 まだ会ったばかりではあるが、自分と同類の匂いというのは分かるものだ。というか、本人に興味があって熱心に聞いているのか、仕事だから熱心なのかくらいは分かる。両方というのも考えられるが、ジェアに言った通りそれならそれでいいというのが結論だ。


「アルス、だったか、お前の考え方は面白いな」

「そうですか? でも現在、俺達はなりふり構っていられる状態ではないので」

「確かに、そうだろうな」


 呟くようにそう言ってから、彼女はアルスに向き直る。


「そういえば、お前の部下のそっちの奴と私は約束したんだが」


 言いながら彼女は視線をシオールに向ける。


「私の聞きたい事に答えてくれたなら、お前達が逃げるのを手伝う、とな」


 『手伝う』というのならこちらに一定時期同行してくれる――と解釈していいのだろうか。個人的には歓迎したいところだが、さすがに返事は簡単に出来ない。とりあえず一応後ろを向いて、シオールに確認する。


「確かにそんな事を一方的に言われましたが、返事はしていないので、約束した、とまでは思っていません」


 まぁそんなとこだろうね、とそれ自体は予想した通りだが、さてどうするか。アルスが考え込んでいると、少し意地悪そうにシェノンが言ってくる。


「もし、私の所属しているところがお前達を利用するつもりだったとしてもお前ならそれに乗るんだろ? なら、返事に迷う事はない筈だ」


 そこはまさに痛いところを突かれた訳だが、アルスもここで即答する訳にはいかない事情がある。


「ま、そうなんですけどね。俺だけじゃなく皆に関わる事ですから、約束するなら条件をきっちり決めた上で他の皆の許可も取らないと」


 シェノンが片眉を跳ね上げる。アルスは笑顔のまま言葉を続ける。


「だって、助けてくれるって事はある程度一緒についてきてくれるって事なんでしょう? その道中でこっちにいろいろ聞くつもりなんじゃないですか?」

「そうだな、そのつもりだ」

「ならやっぱり、皆の許可が必要ですね」

「お前がこの集団のリーダーではないのか?」


 アルスはわざと大げさに手を左右に振って返す。


「ちっがいますよ~。今のところ谷に下りて逃げるって案を皆に認めてもらっただけで、俺が決定権を持ってる訳じゃないですから」

「……成程、それなら確かに許可が必要か」

「そーゆー事です」


 シェノンはため息をついてつまらなそうに視線を逸らす。彼女としては許可がないとへたにこれ以上話を聞けないと思ったのだろう。勿論そんな勿体ない事をする気はない。


「ただ、折角こうしてじっくり話せる機会に何も聞けないというのは勿体ないので、皆の許可が取れるまでは、そちらの質問にこちらが答えたらこちらからの質問にそちらが答える、という事にしませんか? それなら話だけですから許可はいいかなと」

「あぁ、それでいいぞ」


 つまらなそうにしていたシェノンが、それでまたこちらに向き直って口元に笑みを浮かべる。そこでアルスは、黙って見ているだけだったジェアを見た。


「一応、話すのに許可が必要そうな事は言わないつもりだけど、ジェアが言わないほうがいいと思った時は止めてくれるかな」

「……あぁ、分かった」


 アルスは一応、知識欲に関しては自分で抑えが効かない自覚はある。それとこう言っておけばジェアも真剣に話を聞いてくれるだろうという思惑もあった。あとは彼が見張っていたという事で、皆の許可なく好き勝手に話した……訳ではないという言い訳も出来る。


――ま、全部皆というよりレガン対策だけどさ。


 彼女と勝手に約束するのも、自分が勝手にしゃべるのも、ここにジェアがいる段階で文句を言ってくるのはレガンだけだろう。ただ形式として婆様にも許可を取らないとならないし、とにかく船頭が複数いる今の状態で波風立てずにこちらの意見を通すのは気を使う。なにせ現状、仲違いして分裂なんて出来る戦力の余裕はないのだ。


次回ちらっとシオール側の話。

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