44・旅の神官2
「お前はナグラックが他部族を潰して回っていると言ってたが、ただ潰しているだけではなく、潰した村を吸収しているのではないか?」
案の定、シェノンの発言は説明の先をいってくる。
「最近の勢いを見ると、俺もそう思います」
「あと多分、キシェナは戦闘なしで交渉だけで降伏させたのではないだろうか」
それはアルスも可能性として考えていた事ではある。
「何故そう思うのです?」
「戦闘があったのなら、まず戦闘が起こった段階で他の部族がキシェナを助けようと動く筈だ。対策を話し合う前にまず援軍を出せという話になるだろう。そんな余裕もなくあっさりキシェナが落ちたなら交渉だけであっさり降伏した、と考えた方が自然だ」
「確かに……そうですね」
それがすぐ思いつくあたり、本当に彼女は頭の回転が速い。
「あと、そのゼラという人物が本当に優秀なら、キシェナの役割的にただ全部奪って終わりにするより市場としての機能は残しておこうと考えるんじゃないか? つまり、かなりいい条件をつけて降伏勧告した可能性がある。だったらキシェナがあっさり降伏してもおかしくない」
「えぇ……その可能性は高いと思います」
「あともう一つ、キシェナで戦闘があって落としてすぐクルス村を襲うのは、兵の疲労的にも、後始末に掛かる手間を考えても、少々厳しいと思う」
話している内に彼女の瞳がどんどん興味深そうに輝いていく。これは知識をつける事が楽しくて仕方ないタイプの人間だとアルスは思う。
「そうですね、ただウチを襲った向こうの部隊の何割かは村から少し離れた森の中に予め待機させていたようです」
「つまり、少なくとも本隊の他にそれなりの規模の二つの部隊を持っていて、おそらくキシェナに1隊残して、本隊だけが移動して待機させていた部隊と合流後、お前達の村を襲った、という事か」
「……おそらく、そうだと思います」
この辺りの事を聞いた話でしかしらないくせに、アルスが考えていた可能性の話をぽんぽん出してくる彼女には感心するしかなかった。というか、アルスの方も聞いてて楽しくなってきていた。
「でもそうなると、そのナグラックの連中は相当の戦力があるな。それは確かに、逃げるしかないか……」
そうして、溜息をついて彼女が呆れたように言った結論に、アルスは苦笑した。
「……はい。そういう訳なんです。村を囲める程の兵はいなかったようですけど、キシェナにも部隊を置いてきてるのにうちの村の戦士たちと戦って勝てるだけの戦力があったのは確かです」
彼女が敵ではないなら、彼女の持つ知識と頭はこちらにとって有益だ。さすがに一緒に来てくれとは言えないが、皆が無事下に下りられたら少しは余裕が出来る筈。彼女がいつまでここに留まるのかは知らないが、今のうちに出来るだけ話をしておくべきだとアルスは思った。
「で、アルス。その人……何者?」
「え? うぁわっ」
そこで後ろから声がしてアルスは驚いて振り向いた……ら、目の前にマーナの顔があった。アルスが驚いたのを見て顔を引っ込めてくれたが、今度はシェノンの事を胡散臭そうにじろしろ見だす。
「旅の神官様で、俺達とは全然違うところから来たようなんだ」
「確かに……まったく知らないところの人、でしょうねぇ」
見ただけで違う文化圏の人間と分かるから警戒するのは分かるのだが、マーナはシェノンに対してやたらと攻撃的な目でじろじろ見ている。幸いな事にシェノン自身はそれを気にしていないみたいだが。
「彼女、旅をしてるって事だからさ、出来ればこの先の土地の話とか聞けたらなって。彼女もどうやら俺達のいた周辺の情勢に興味があるみたいだから、情報交換って事ならお互いに益があるだろ?」
やけにシェノンを敵視しているようなマーナを宥めるためにそういえば、彼女は今度はこちらを睨んできた。
「アルス」
「え? 俺?」
「あんた、結構女に騙されやすいタイプだったのね」
何を言われたのか分からなくて、アルスは硬直した。
「え?」
だから遅れて聞き返したら、マーナが何かいうより先にくすくすと押し殺すような笑い声が聞こえてきた。アルスはマーナとほぼ同時に、笑っている人物、シェノンの方を見る。
「フフ……いや、悪い。安心していいぞ、その坊やは本当に私との情報交換にしか興味がない。なにせ私の顔より服の作りの方がまず目に入っていたくらいだしな」
「そりゃぁ、すごい縫製技術だなと。布の目も細かくて表面に光沢があるし、あなたの住んでいるところはどれだけ俺達より進んだ技術があるんだろうって思うじゃないですか」
と、力説したら、シェノンは益々笑い出して、マーナがなんか気味悪そうな顔でこちらを見ている。アルスはその視線の意味がよく分からなかった。
次回は全員が下に下りてからの話。




