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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
一章:旅立ち
42/60

41・崖の下1

 この面子の中で、身軽さ、体力、下に何かいた場合の対応力を考えれば、自分が一番適任だとシオールは思った。ついでに言えば奴隷という立場的にも、シオールが行くのが一番いい。


「いえ、ここは私が行きます」


 ただすぐにドゥトスがシオールの前に立って言った。


「こういうのは大人が行くべきです」


 彼女は僅かに笑みを浮かべてこちらを見て来た。勿論その言葉にシオールを子供だと馬鹿にする意図はない。単に、危険な役をこちらにやらせないように考えてくれただけだろう。ただここはシオールも引くつもりはなかった。


「いや、俺が行きます。俺の方が身軽ですし、正式な大人の戦士であるあなたは戦力として貴重だ」


 とは言えば当然、こちらを睨む視線も感じる。


「アルス様、許可を頂けますか?」


 自分が行くと発言した途端、アルスが険しい顔をしているのをシオールは知っていた。シオールはアルスをじっと見つめる。彼は嫌そうな顔をしてはいたが、それでも自分が適任である事は承知しているようで、小さく溜息をついてから平坦な声で返してきた。


「分かった。ただ……無茶はするな、無理だと思ったら言ってくれたらすぐ引き上げる」

「承知しました」


 それで頭を下げたシオールに、尚もアルスは言ってくる。


「ドゥトスだけじゃない、お前も貴重な戦力だ。お前に何かあった場合は、俺達の戦力は大きく落ちる。だから、無事に帰ってこないと許さない」


 それには思わずシオールの口元が緩いカーブを描く。


「分かっています。約束は守ります」


 そう答えれば、アルスはこちらから視線を逸らして背を向けた。多分、顔を見せたくないのだろう。

 出来れば今日中に全員谷に下りたかったため、そこからすぐにシオールは下に下りる事になった。

 木にいくつか縛り付けたロープのうち、一つは命綱として体に縛り付け、もう一本を持って下りる。残ったロープは何かあった時の予備だ。その間、直接手伝いをしない者達は休憩しておくように言われていたが、結局皆がシオールが下りるのを真剣に見ていた。


「では行ってきます」


 皆が固唾をのむ中、シオールはロープを持って下り始めた。


――今のところは、足場が崩れそうな感じはないか。


 斜面の岩は、足場としてしっかりしていてシオールが乗っても崩れそうな気配はなかった。急な坂を下りるというより大きな岩が積みあがっているところを下りていくような感じであるから、岩に乗る度に休憩が出来る分、思ったよりも楽だ。時折下を見て何か異常がないか確認しているが、今のところ動く影は見えない。一歩、一歩、足元を踏みしめて確認しながら慎重に下りていく。今のところは大きな問題はなく、これなら割合子供でも、ある程度の年齢なら自力で下りられそうだった。


 ただ、想定外というのは、まったく予想していなかった方向で起こる。


 順調に下りていたシオールだが、例の出っ張っていた崖の下にくぼみがあるのに気づくと同時に、岩ではない何かを見つけた。

 丁度上からは見えない場所で、それが人影だと分かった途端、シオールは咄嗟に片手を腰の短剣の上に置いた。だがその人物の全身が見えたところで、一旦、剣からは手を離してそのまま下りることにした。

 理由は、その人物が攻撃してきそうには見えなかったから。まず、服装は見た事がないもので、この周辺のどこの部族のものとも似ていなかった。更に言えばその服は足首ちかくまである裾の長いもので、風になびいてひらひらしている。勿論武器や防具のような戦うための装備は一切身に着けておらず、どうみても戦闘向きの格好ではなかった。


ちょっと長かったので分割。

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