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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
一章:旅立ち
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39・決めるべき事

 クリス村は森の中にある湖のほとりにある。

 水場が近くて土地も良い、周囲の広大な森を切り開けばかなりの収穫が見込める。当然開墾は困難だろうが、労働力は用意できる見込みがあるからそこは気にする必要はない。この村を落とした事で、ゼラの前には大量の選択肢が広がった。勿論それは良い事だが、一気にやる事、考える事が増えたとも言えた。


 外では宴が行われている中、ゼラは族長の家にいた。その中で一番広い部屋のおそらく族長の椅子に座り、ケイラと彼の部下二人、ゼラの事務処理用の部下数人で話し合いをしていた。

 まずは、ケイラの部下の報告を一通り聞くところから話し合いは始まった。


「……食料や金になりそうな物に関しては十分見込んでいた成果が上げられたと思いますが、やはり戦士以外の村人をほぼ全員捕まえられていないのが痛いですね」


 そう締めた報告に、ゼラは一応確認する。


「隠れている者はいなかったのか」

「はい、どうやら早い内に村の北に戦士以外を全員集めて、戦っている間に逃がしたようです」


 潰した部族の人間は基本奴隷にする訳だが、彼等は労働力として使ってもいいし売ってもいいと、戦果としてもかなりの割合を占める。


「捕まえた戦士共も、こちらにつくと言い出す者はほぼいません」

「そいつらはいつも通り、ランクをつけて分けておけ。かなり使える奴がいるなら、あとで俺が直接会う」

「はい、了解しました」


 勝利が確定すれば、基本下っ端の戦士達はそこで仕事が終わるが、上の人間や戦う以外の役目の者はそこからが忙しくなる。こちらの損害と死者の確認、あとは奪ったものがどれだけあってどう分けるか、今後この地をどうするか、決めることは山ほどあった。特にここのように大きな村を手に入れたのなら、まず村の中から周囲の調査も時間をかけてしなくてはならない。今回は一般の村人がいないからそいつらに聞く訳にもいかないのも痛い。


「逃げた連中が捕まらない場合、他から人間を連れてくる事になる。ウロドに言っておけ、村人全員補充する必要があるかもしれないと」

「はい」


 この村は人が住むにはいい場所だから、村人を捕まえていたなら管理の人間をおいてそのまま暮らさせておくつもりだった。勿論、農作物や家畜、狩猟の獲物は基本、こちらのものになるが。とはいえ元の村人がいないのなら、他で獲得した奴隷達を労働力として連れてくるだけだ。いやいっそ、土の民の拠点としてこちらの非戦闘員を全員連れてくるのもありだろう。


――奴らが放棄したんだ、完全にこの地が他人のものになっても文句はいえんだろ。


「ゼラ様、報告があります。入ってよろしいでしょうか?」


 部屋の出口に立つ男に目をやれば、恰好からして各地との連絡役に残してきている者だと分かる。急いで馬を走らせてきたのか、まだ息が整い切っていない。


「いいぞ、入って報告しろ」


 男は入ってきて、部屋の中央程まできてから跪いた。


「キシェナのウロド様からの伝言です。複数の部族からゼラ様と話したいという申し出がきているそうです。もし受ける気があるならゼラ様にはキシェナに戻って来て欲しい、との事」


 ゼラは少し考えた。おそらくこの村が落ちた事で、自分のところが襲われる前にどうにかしようと慌てて接触してきた連中がかなりいるのだろう。


「……仕方ない。すぐに向かうと伝えろ。ケイラっ」

「はいっ」


 呼ばれた青年は、急いで前に出る。


「まず、エニから連絡があったら、一旦全員村へ戻るように言っておけ。そこからバンダーに十数人選ばせて改めて追跡に行かせろ。残りはエニと一緒にこの村の警備につかせる」

「つまり、エニ様にこの村を任せるのですか?」

「いや、エニはあくまで警備の責任者だ。この村自体の管理はお前に任せる、いいな」

「はいっ」


 ケイラは嬉しそうに返事を返したが、それで頑張りすぎてもらっても困る。彼の様子を見て、状況によっては止めてもらうためにエニを置いておく意味もあった。


「捕まえたここの戦士共でランクが黄以下の連中はそのまま村の維持のために働かせろ。青、黒、の奴等は拘束して隔離だ。エニが帰ってきたら村の中を調べていつも通りリストを作るように言っておけ。キシェナでの話がついたら、またなにかしらの指示を出す」

「了解しました」


 ナグラック族の価値観の中で、周りから認められるくらいの腕もあって尚、考えて行動出来る人間は希少であるから、ケイラを一か所にずっとおいておくような余裕はない。近くにいて貰って、何かあった時にゼラの代理として仕事を頼めるようにしておきたかった。


「あとネイズに伝えてこい、奴と奴の部隊は明日朝一でキシェナへ戻るから飲み過ぎるなと」

「それは、向うで戦いが始まりそうなのですか?」


 典型的なナグラックの男である戦闘狂ともいえるネイズを連れていくといったからか、ケイラが真剣な顔で聞いてくる。


「いや、多分、戦いはない。ただ脅しとして戦力を見せつける必要があるかもしれないからな」

「成程」


 どうせネイズをここに置いておいても役に立たないし、むしろ邪魔になる可能性もある。そういう意味でも彼を連れて行った方がいいと判断した。

 とはいえ、ネイズはあれでも上に立つ人間としての自覚はあるから抑えが利く方ではある。それくらいナグラックの人間は後先考えず突っ込むタイプばかりだ。

 その辺りがゼラとしては頭が痛いところで、これからはある程度頭がある人材をどうにかしないとならないのは分かっていた。


次回はアルスの話に戻ります。

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