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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
一章:旅立ち
35/61

34・浄化の火

 赤い炎が高く上がる。それは途中から黒い煙となって空へと昇っていく。

 その下ではゼラ配下の戦士達が火を囲み、座り込んで地面に頭を擦り付けている。


 前のように相手の集落を燃やした後にする宴のための炎とは違って、戦闘が終わった後に消し去るものをまとめて燃やす浄化の炎には、まず皆で祈りをささげる事になっていた。なにせ一番最初に燃やすものは敵味方双方の死体であるから、死んだ戦士達に対する祈りだ。勇ましく戦った上で命を落とした戦士は浄化の地へのぼる事が出来る。それは敵味方関係ない。浄化の地では争いはなく、生前の名声によって格が決まる。だから死した戦士には味方だけではなく敵にも敬意を示すべき――この考え方は、脳筋的なナグラックの掟の中でもゼラは割と気に入っていた。


「戦士達に安息を」

「「「戦士達に安息を」」」


 ゼラが告げれば、火の回りの者達が揃って同じ言葉を復唱する。

 それが祈りの終わりの合図で、炎の番の者がもう一つの台に火をつけた。こちらは戦勝祝いを捧げるための炎で、主にこの戦闘で壊れた残骸類を積み上げて燃やしている。前は全部まとめて燃やしていたが、最後にまとめて燃やすようになってから燃やす死体の数が増えたため戦勝祝いは別の炎を囲んで行う事になった。その方が戦士達も気持ちよく宴を楽しめるからだ。実際、祈りが済んで立ち上がり、そちらに向かう連中の顔は完全に切り替わっていて楽しそうだ。

 ただ今回、宴を楽しむ戦士の数は少ない。戦闘にほぼ参加しなかった連中は、逃げた村人を探しに行かせたからだった。


「さて、こちらは行くか」


 ゼラは隣りに控えていた忠実な部下に声を掛けた。

 本来ならこの後の最初の杯を掲げるところまでが頭領の仕事だが、今日はやる事が多すぎるからそれはネイズに任せた。

 浄化の炎に背を向け、ゼラはこの村の村長の家に向かう。そこをゼラの寝床兼、仕事場としたからだ。


「ケイラ、ある程度の集計は出ているか?」


 歩きながら聞けば、申し訳なさそうに現在部下の中で一番忠誠心が高くて真面目な男は答えてくる。


「まだ整理しきれてはいませんが、出来るところまでは」

「問題ない、今の時点では全部出来ていなくて当然だ」

「はい、申し訳ございません」

「謝るな、お前が懸命にやってくれていることは分かっている。焦らず出来るところから処理していけばいい。お前も今日はちゃんと休んであとの仕事は明日以降にしろ」

「はいっ、ありがとうございます」


 実際ケイラにはかなり負担をかけているのが分かっているから、ゼラとしてはこれ以上頑張りすぎて貰っても困る。真面目な男だから彼は命じた仕事を全部完璧にやろうとしてしまう。彼への仕事を減らしたほうがいいのは分かっているが、そうできる余裕がないのがゼラにとっては悩ましいところだ。頭を使う仕事を頼める人間が配下にいなさ過ぎた。


「そういえば、ゼラ様はあの浄化の炎について、周囲の連中が言っている噂を聞きましたか?」


 暫くしてケイラにそう聞かれたから、ゼラは思い当たる事を言ってみた。


「あぁ、捕まえた人間で使えない者、逆らった者をを生きたまま炎に入れる、という奴か?」

「そうです。ゼラ様の事を残虐だと強調したい奴が作った酷い作り話です」


 どうやらその噂はケイラとして相当ムカついているらしい。ゼラは別に怒りなど湧かないが。


「それで俺を更に恐れるならそれもいいさ」

「ですがっ、ゼラ様は相手の苦しむ様を見て楽しむようなイカレた連中とは違うではないですか!」


 思わずゼラはククっと笑う。そういうイカレた連中に心当たりがあるからだ。


「まぁ確かに、そいつらと同列にされるのは嫌だな」

「そうです、ゼラ様は敵であっても戦士を侮辱するようなことはしませんから!」


 自分を別に高潔な人間だとは思った事などないからケイラがそこまで怒るのは分からないが、敵でも味方でも、逃げずに自分の役目をまっとうした人間には敬意を示すべきだとゼラは思っている。

 戦いは好きだが、別に敵を憎んでいる訳でも、殺したくて戦っている訳でもない。死者は等しく浄化の地へと送り出すべきだ。

 特に今回の戦いでは、少なくともゼラが手を下した者は皆、敬意をもって送るべき人間ばかりだった。……そう、惜しむ気持ちが残るくらいには。


次回はまたアルス達の方の話。

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