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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
一章:旅立ち
34/61

33・道

 村の東に広がる森がどれくらい広くて抜けた先がどうなっているのか、定期的に森に入っている村の戦士達も完全には把握していないし、ある程度調べてみたアルスも知らない。ただ、地図で見た知識はある。その地図を作った時にいた村人達もこの中はいる。問題はその知識が二十年前のものだという事だ。

 とはいえ幸いな事に、シオールと森の奥へ行ってみて印をつけておいたのがここで役に立った。

 婆様達の洞窟から森へ逃げれば、自然と山の裾野沿いに進む事になる。その途中でアルスは自分がつけた印を見つけた。勿論、印と言っても他人が見てすぐ分かるようなものではない、ちゃんと動物の爪痕に偽装してある。


「このまま向こうに行けば、道がある筈だ」


 当然レガン達は道へ向かうのを反対してきたが、大抵の人間にとってはなんの目印も目標もない森の中、とりあえずマーナや女性陣がこちらについてくれたのもあってどうにか道を目指す事にはなった。だが、問題はその道に出てからだった。


「おい、このあとって……」

「あぁ、連中がここを使ったんじゃないか?」


 道には、多くの人間や荷台が行き交った跡があった。しかも全部新しい。

 アルスは道の先、方向的に森を抜けられる方に目をやる。道は森を抜けるところまで続いてはいなかった筈だが、そのまま森をつっきれば丘があって、キシェナから帰ってきた父達が通るところへ出ると思われた。

 そこまで考えたところで、シオールが小声で言ってきた。


「キシェナ方面から帰ってきたサリド様達を待ち伏せして追いかけ、門を閉じ切る前に村を攻めたのでしょうか」

「多分、そうだろうな。うちの村襲うのにゼラ本人が来ないとは思えないから、キシェナを落としてからゼラが本隊を引き連れてきて、予めこの道の先で待機してた部隊と合流したんじゃないかな」


 シオールにそう返しながら、アルスは頭の中に覚え込んだ地図と風景を照らし合わせて考えていた――どうやらまだ、自分達には運は残っている。


「よし、向こうに行こう」


 大き目の声で森をぬける方とは逆を見てそう宣言すれば、レガンがそれより大声で反応してきた。


「向こうへだと? 向こうは何があるんだ?」

「まず、あっちへいけば森をぬけられて、キシェナ方面へ続く丘があるんだ。そこで連中は父上達を待ち伏せしたんだと思う。で、向こうはその逆だから、多分事前に来て今日まで奴らが潜伏してた場所があるんじゃないかな?」


 そう返せば、今度はレガンとジェアが同時に言ってくる。


「そら、危険だろ」

「危険じゃないか?」


 さすがに今回はこちらに反発しているだけではないとアルスも分かっているから、ここはちゃんと説明する。


「でも意表はつける。まさか向こうも、自分たちから逃げるために自分たちがいた方向へ向かうとは思わないだろ? 足跡も連中のと混ざって誤魔化し易いし、追手もそっちを探すのは後回しになると思う」

「あのな、そう簡単に……」


 言いかけたレガンを押しのけて、真剣な顔でジェアが見てくる。


「まずは時間稼ぎ、という事か?」


 やはりレガンよりはジェアの方が年上な分、考えてはくれる。というか彼も村を離れて少し冷静になったのかもしれない。


「まぁそうだね」

「だが、連中が待機していた場所なら食料やら予備の資材を守る兵、もしかしたら予備部隊がいるかもしれない」


 その懸念はもっともではあるが、今回はその心配はないとアルスはほぼ確信している。まぁその説明は後にするとして、とりあえず根本的な部分で訂正の必要があった。


「えー、勘違いしてるみたいだから言っておくと、別に彼らがいた場所までいく訳じゃなく、今のところはあくまでその方向へ行くってだけだからね」

「だが鉢合わせる可能性はある」

「それは否定しないよ」

「ならっ」


 喧嘩腰で横から話に入って来たレガンをジェアが手で制す。アルスも『まぁまぁ』と彼をなだめてから、その先は殊更ゆっくり説明する事にした。


「えーとまずさ、うちの村を攻めるのに予備戦力を残して行く、なんてなめたマネはさすがにないと思うんだ。ってことはつまり、連中が潜んでいた場所には今はだれもいないか、いても留守番か荷物守の極少人数だけだろうって事さ」


 一応村を囲んだ長期戦を見越していたのなら、待機所に予備戦力を残しておくなり、資材や食料を大量に置いてあることもの考えられるが、今回それはないとアルスは見ている。そもそも囲むつもりがあってそれだけの兵を連れてきているなら、門を攻めつつも森にも部隊を送って村人が逃げないようにしている筈だ。それがなかったという事は、門を突破する前提で、村を囲む程の兵は連れてきていないと考えられる。


「だから安全だというのか?」

「安全とはいわないよ、もし奴らの待機してたところまで行ってしまったとしてもどうにか出来るだろうってだけの事さ」


 あくまでもアルスが目指しているのはそっち方面であって『そこ』ではない。とはいえまだ目指すつもりの場所が正解なのか分からないから、ある程度見通しが立つまでヘタな事はいいたくなかった。


――さて、どう説得しようか。


 ここでまた婆様に頼むのも手ではあるが、婆様に頼り切るのも問題だ。なにせ婆様達が毎回アルスの意見を推してくれるとなれば、婆様にもアルスにも反感が集まる。こういう集団で一番怖いのは喧嘩別れで分裂する事だ。出来るだけは説得でどうにかしたい。アルスは大きく息を吸って話を続ける。


「とにかく重要なのは、向こう方面なら、おそらく追手が来たとしても探すのが後回しになる可能性が高いって事だ」

「時間を稼ぐだけでは最終的には意味がないんじゃないか?」

「その間に父上達が敵を撃退すれば村へ帰れる」


 それにはジェアが辛そうな顔で口を閉じる。多分彼も、その可能性が低い事を察しているのだ。


「ただそうでない場合も考えて、向こうへ行こうと言ってるんだ。現状とにかく奴らに捕まり難い道を選びながら、逃げられそうな場所を探ってる」

「結局は、時間稼ぎをしながらのいきあたりばったりなのか?」

「いや、一応いくつか考えている目的地はある。とはいえ不確定要素が多いから、もう少し確認してから皆に相談したい」


 そう付け足せば、ジェアは暫くじっとこちらの顔を睨んでから、大きくため息をついた。


「分かった。つまり、ある程度逃げる先には目処がつけてあって、それを確認出来るまでまずは逃げて時間を稼ぐ、という事なんだな?」

「え、あぁうん……そんなところ」

「なら、行先はお前に任せる」


 なんだか急にあっさりそんな事を言われてしまって、却ってアルスの方が困惑した。


「おい、俺はまだ納得していないぞっ」


 そこで話に入ってきたレガンに、ジェアが向き直った。


「うちの馬鹿親父は馬鹿だが強いのは間違いない」

「お……おぉ」


 唐突すぎる内容にレガンが思わず困惑して固まった。さらにジェアは続ける。


「アルスの奴隷は確かに強いが普通に戦えば親父が勝つ。まぐれじゃあの親父には勝てない。だがアルスはそれでも勝たせてみせた。つまりだ、そういう無理をどうにかしたことがあるアルスなら、ここで任せてみてもいいと俺は思う」


――これって、ちょっとは認めて貰えてるって事かな。


 そこで目があったマーナが、見せつけるようににっと笑みを作る。

 ちらと横を見るとシオールもこちらを見て僅かに口元に笑みを浮かべていた。

 なんというかちょっとこそばゆいというか照れ臭い感じはあるが、とりあえずアルスとしては自分の知識を総動員して最善と思われる行動をするだけだ。ただ、任す、という言葉は嬉しいだけじゃなく責任が覆いかぶさってくる訳だから腹に重い物が溜まる感覚もあった。

 そんな時、誰かが声を上げた。


「あれ見ろよっ、村の方だっ」


 それにつられてアルスが見たのは、空へと立ち上っている煙。それは確かに村の方から上がっている。その煙の意味をアルスはすぐ理解した。


こういうぐだぐだ揉めてるシーンは短くしたいんですが……これでも下書きからかなり削ったんですよ。

次回はゼラの話がちらっと。

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