32・残念だ
地面に倒れた男の姿を見て、ゼラは剣を払ってついた血を飛ばした。
後ろではナグラックの者達の歓喜の声が上がっている。逆にバリケードの向こうで見ていた村の連中の方は静まり返っていた。
――随分、満足気だな。
死んだ英雄の顔、その口元は笑みを浮かべているように見えた。
おそらくは、村人を無事逃がす事が出来たと確信してこの男は逝ったのだろう。ゼラも、ここの連中がそのために時間稼ぎをしている事は分かっていた。
「うおおぉぉっ」
そこで、静かだった連中の方から、一人の女戦士が出てきて剣を振り上げて向かってきた。ゼラはそれを、抜いたままだった剣で切り捨てた。
女戦士の体が地面に転がる。
死ぬだろうが即死ではない。まだ息があるそれをゼラは足でひっくり返して顔を見る。歳はサリドと同じくらい……それで大体は察したが一応聞いてみた。
「もう決着はついたのに何故だ?」
女戦士は口を開く。
「どうせ私は殺される。なら、戦って死んだ方が……サリド様、と同じ剣で死ねる……」
女はそこで息絶えた。どちらにしろ殺されると分かっていた、サリドの妻だろう。
「決着がついたのに仕掛けるとは、約束を破ったな!」
「そうだ、一対一の勝負を汚した!」
そこでナグラックの者達から非難の声が上がる。だがゼラが手を横に出せばその声も止まった。
「いい、これはただの自殺だ。非難する程じゃない」
そう言って部下達の方を見て、彼らが大人しくなったのを確認してから村の連中の方に目を移せば、まだ成人前だろう青年に肩を支えられた老人が歩いて前に出てきた。足が悪いという、あれがここの族長だろう。
「我々の負けだ。降伏する」
そうして、積み上げた障害物の向こうにいた連中が次々出てきて武器を地面に捨てる。すぐにナグラックの者達が出て行って彼等を拘束する。ゼラは、族長の前に行って、彼に聞いた。
「あんたが族長で間違いないな?」
「あぁ、私が族長のギナンだ」
「悪いが、あんたや、英雄と呼ばれた連中とその身内には死んでもらう。だがそれ以外の連中は殺さないと約束しよう。抵抗しなければ乱暴もしない、部下達にはそう言ってある」
それからゼラは族長の肩を支えていた青年――いや、もしかしたらまだ少年という歳かという者に声を掛けた。
「お前は、族長の身内か?」
瞳に怯えが見えるものの、少年は真っすぐこちらを見て言い切った。
「そうだ、俺は、族長ギナンの息子だ」
聡明そうな顔、年相応にまだ華奢だが真面目に鍛えているのが分かる体、正直惜しいな、とゼラは思った。だが、この場で生かす訳にはいかない。
「そうか……残念だ」
ゼラが剣をゆっくり振り上げ、直後、その剣先を斜めに走らせる。
二つの首が地面に落ちた。
今回も短めですみません。
次回はアルス側の話。




