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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
一章:旅立ち
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31・最期

 六英雄の中でも最強と呼ばれているサリドは直感した、あぁこれは勝てないな、と。

 単純な力だけならほぼ互角、だが速さは少し向こうの方が上で、そして致命的に体力で負けている。そこはまぁ、仕方ない。なにせ自分は既にジジイと言われても仕方ない歳だ。


「どうした、英雄様」


 相手の男は余裕の声でそう言ってきた。勿論、息なんて全然乱れていやしない。こちらはもう、肩で息をして、足にもきてるというのに。


――ったく、歳は取りたくねぇな。


 この村に来た頃、自分の全盛期だったらきっとまだ笑っていられた。とはいえそれでもこの男に勝てたかは分からないが。

 相手の剣が下りてくる、それをこちらの剣で受け、気合の声を上げて横に弾き返す。もう盾はボロボロで、あと一、二撃受けたら壊れる。剣で受けても止めて力比べなんて出来る状態じゃないから勢いをつけて弾くしかない。ただこれもいつまでも続けられないだろう、握力がなくなったら剣を落とす可能性がある。


――剣を手に縛り付けとけばよかったかもな。


 そんな事を考えながら、何故か口元に笑みが湧く。こら死ぬな――そう思っているのに、死にたくないだとか、悔しいだとか、そういう気持ちは不思議となかった。


――十分時間は作れただろ。


 ゼラの軍勢を村の中へ入れてしまった段階で、サリドは出来るだけ時間を稼ぐ事しか考えていなかった。戦士以外の村人が逃げきれるだけの時間を稼げればそれで良かった。他の戦士達も皆、同じ考えだ。村はなくなっても、我らの血は消えない。それなら我らの完全な負けにはならない。


 再び相手の剣が迫ってくる、それを剣で受けたが今度はもう、はじき返すだけの力がなかった。だが踏み込んだ足がガクリと崩れて、それで体が沈んだせいでかろうじて剣を避けられた。

 とはいえ、避けただけでは相手の剣の勢いを殺せていない、距離も近いままだ。だから当然、すぐに次の一撃がくる。よろけて沈んだ自分に向けて、上から剣が振り下ろされる。


「くそっ」


 盾を上に向けて剣を受ける。ガキっ、という音と共に盾の半分が吹き飛んで行った。だがまだ使えない訳じゃない。


「うおぉぉっ」


 そのまま盾を上に押して、ぶん回す。相手は避けて後ろへ下がる。それを追うように更に盾で叩こうと振り回す。何度か手ごたえなく空振りして、突然何かを叩いた手ごたえが返ったと、そう、思った矢先――盾が完全に砕け散った。直後に盾を持っていた手が跳ね返され、後ろへ弾かれる。どうやら、盾同士をぶつけられたらしいと気づいた時には、体は完全に開いていて目の前には相手の姿があった。

 相手の剣が降ってくる。それを右手の剣で受け止めようとしたが、刃と刃がぶつかった衝撃で手から剣が離れた。もう、握力が持たなかったようだ。

 目を見開いて、サリドは銀色の刃が自分に向かってくるのを見つめた。


――アルス、残せるものはそれだけで悪いが、どうにかしてみせろよ。


 戦いを放棄した息子が、代わりに村やこの部族の歴史、他の部族の事、周囲の地系等、いろいろな知識を求めて勉強している事は知っていた。戦わないくせに村の戦士達の戦いを真剣に見て、ちゃんと動きを追えている事も知っていた。

 だからきっと、何かやれる奴だと密かに期待していた。


――信じてるぞ。


 満足気な笑みが唇には自然と浮かんで、それで全てが終わった。


今回ちょっと短いです。次回はこの後のゼラの話。

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