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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
一章:旅立ち
29/60

28・戦いの中2

「どこかで粘ってる連中がいるのか?」


 いつもならほぼ制圧が終わって、村の中をくまなく探す段階になってから報告がくる。そうでないという事は、どこかでまだ敵が粘っていてしかもかなり手こずっている状況だという事だ。ゼラはそう判断した。


「うん、村の北になんか大きな板の壁みたいなのを築いてて、そこに立てこもってるみたい」


 おそらく門が破られた場合、そこで守れるよう普段から準備がしてあったのだろう。そして現状、まだ耐えているというのなら、当然、その要は決まってる。


「例の六英雄様ががんばってるのか。六人のうち殺せたのは何人だ?」

「死体を確認したのは二人だって」

「なら、まだ四人残っている可能性があるか。そいつらが防御に徹しているなら面倒だな」

「そう、無理して突っ込んではかなりやられてるみたい」


 そこで馬に乗っていた一人の男が馬首をこちらに向けて言ってくる、楽しそうに。


「俺が行ってこようか?」


 ゼラは片眉を跳ね上げてその人物を見る。この男はネイズ、ナグラックの砂の民の頭だ。つい最近一対一の勝負をして負かした事でゼラの下についた。そういう理由であっさり自分についただけあって、強さこそが正義というナグラックの男らしい単純明快な価値観の人物だ。

 ゼラは手に持っていた兜を被って言った。


「いや、俺が行こう」


 言えば、ネイズはにやりと笑みを浮かべ、エニがぱっと顔を輝かせる。周囲にいた他の側近達は一斉に跪いた。

 今のゼラは前のようにただの一戦士ではないから、村の入り口を突破しても先頭に立って戦う訳にはいかない。だが、部下達が苦戦する程の強敵がいた時は別だ。そういう時に出て行く人間でないとナグラック族で上にはいられない。


――どうせ今回は出て行く事になると思っていたからな。


 部下達に手柄を取らせるため、既に名声を得ている強者は基本、こちらが押している戦場では積極的に前に出て戦わない。その代わり強敵がいた場合や不利な状況になったら先頭に立って戦う。それがナグラック族の戦士の掟だ。


「敵は英雄と呼ばれてる奴だろ、俺にもやらせてくれよ」


 純粋に強い者と戦いたいだけのネイズは、そう言いながら浮かれた様子で馬を寄せてきた。彼も立場的に今回は殆ど戦いに参加できず不満だったのだろう。すっかり共に行く気満々の男に、ゼラは告げる。


「いや、手っ取り早く一対一の勝負で終わらせる。お前の出番はないな」

「ちぇ……つまんねーの」

「その方がこれ以上敵も味方も死人を出さずに早く終わる」

「は、負けるとは思ってねぇって顔だな」

「当然だ」


 ネイズは不満そうながらも、肩を竦めて後ろへ下がった。

 ゼラは傍で指示を待っているエニに言う。


「先に行って向こうへ伝えておけ。あとは代表同士の戦いで決着をつけよう、とな」

「はい、兄さまっ」


 エニはすぐに馬首を返すと村の中へと消えていった。ゼラは周囲を見回してから、一人隅に控えている男に声を掛けた。


「バンダー」


 呼ばれた男は顔を上げた。


「森に逃げた連中や、潜んでる連中はいなかったんだな」

「はい、俺が見た時はいませんでした。もっとも、森の奥までは行ってませんので、既にそこまで逃げていたら分かりませんけど」

「さすがにそこまで時間があったとは思えん、ここ数日で奴等が森に部隊を置いて備えている、という事はないと確認したんだろ?」

「そうですねぇ、ま、今森にいるとしたら、たまたま森のちょっと奥まで行っていた者がいた、とかじゃないかと思いますよ」


 飄々(ひょうひょう)とした態度の男に、跪いている他の部下達が苛立ちを見せる。この男の父は元奴隷だったが、戦闘での功績が認められてナグラック族の一員となった過去がある。そのため態度の悪さもそうだが、彼の事を元奴隷の家と見下す者もいて余計に反感を買いやすい。


「お前、なんだその態度は、それに許可なく勝手に頭を上げていいと思っているのか」


 真面目なケイラは特にバンダーを嫌っていて、いつも言葉がとげとげしい。


「構わんさ。どの道顔を上げないと話が聞き難い。そんな細かい事でどうこう言うのは面倒だから気にしなくていいぞ」


 ゼラが言えばバンダーはにかっと笑ってそこから恭しく下を向き、ケイラはより深く頭を下げる。


「ともかく今は、まず村の中の制圧が最優先だ。村に入った連中から、老人や女子供の姿を一切見ていないという報告も入っている。どこかへ隠れているか逃げている可能性があるから、どちらにしろ制圧後に周囲を探す必要はあるだろう。ただ一応、家の中は隅々まで探せ、中に隠れている可能性もある」

「いつも通り、族長の家族は見つけたら全員殺してよいのですね」

「あぁ、今回はそれと六英雄の家族もだ」

「了解しました」


 そうしてゼラは村の中へ向かった。


――英雄全員を殺すのは勿体ないが、仕方ないな。


 正直なところ、ゼラとしては英雄と呼ばれるだけの人間ならこちらの配下に加えたい気持ちもある。だが彼らが村を潰した自分に本心から従う事はないだろう。

 その子らも、自らこちらの下に来るなら生かしておいてもいいのだが――英雄視されている者の子というのは、使える人間程親の仇に膝をつこうなんて思わない。命欲しさに寝返るようなのはまず使えない無能というのが世の道理だ。


 だから基本は、殺しておくのが後々の面倒もなくて一番いい。


て事で、次はまたアルス達の話。

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