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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
一章:旅立ち
28/61

27・戦いの中1

 強固に作った門というのは、強固であるために閉めるのには手間がかかる。

 本来なら見張りが敵の姿を確認した段階で閉めるものだが、敵の部隊の前に味方――部族会議から帰って来たサリド達一行がいたことで、門の責任者であるドトルは閉める事を躊躇した。そうしてサリド達を中に入れてから急いで門を閉める事にした結果、締め切る前に敵がやってきてしまった。



 一方そのサリドの方は、見捨てられても仕方ないと思っていた。一緒にいた数人の戦士たちも同じ思いだった。ただ敵との距離は微妙で、ぎりぎり中に入って閉めれば間に合いそうにも思えた。実際、そう判断したからドトルは門を開けて待っていてくれたのだろう。


――その距離もわざとだったのかもしれないな。


 最近耳に入ってきているゼラの噂からすれば、そこも計算のうちだったのかもしれない。自分たちは足を止めて敵と戦って散っておくべきだ、とサリドは何度も思った。だが自分だけでなく他の者もいた事と、村側が門を開けて待っていてくれていた事でその判断を下せなかった。


『ここは任せてさっさとお前は戦の準備をしてこいっ』


 門に入った途端、ドトルはそう言って自分たちを家へ向かわせた。サリドは走ったが、その間にもずっと門の方からは戦いの音が聞こえてきていた。


「タナっ、すぐ俺の装備を出してくれっ」


 家に入ってすぐ怒鳴る。妻はすぐにやってきた、ただしその姿を見てサリドは驚く。


「老人と女子供達は皆、婆様のほらの前へ向かうように伝えてあります」


 サリドの装備をもってやって来た彼の妻は、かつて居住地を求めて旅していた時と同じ戦士の恰好をしていた。それだけで彼女の覚悟を理解し、サリドは苦笑する。


「お前は女ではないのか?」

「私は戦士として最後までお供します、サリド様」

「アルスは……」


 言いかけて、やめた。


「いや、あいつは大丈夫だな、シオールもいる」


 すると妻である女戦士はにかっと彼女らしく豪快に笑った。


「そうよ、あの子なら大丈夫」


 その顔に目が熱くなったが、今はそんな場合ではない。すぐに彼女から装備を受け取ると戦支度をする。勿論、彼女も装備を付けるのを手伝ってくれた。一応、部族会議へも戦える格好では行っていたものの、会議中に武器を預ける必要があるため予備の武器は持って行っていないし、急いでいたため装備も一部省略していた。足りない装備をつけて、武器を腰に追加していく。


「サリドっ、いるか?」


 そこへエッシがやってきた。神速のエッシという二つ名を持つ彼は、そのすばしこさと足の速さを生かして戦場では遊撃部隊や伝令みたいな事をするのが多かった。


「いるぞ、門はどうなってる?」


 振り向けば、彼は一度苦し気に顔を顰めてから口を開いた。


「多分……もうもたない。だからお前は準備が出来次第、ドナの家の方へいけ。あそこにバリケードを作ってある」

「門は?」

「ドトルとクォーラがいる、二人とも覚悟の上だ、分かるな?」


 ドナの家は村の奥、婆様達の洞へ続く道の近くにある。もし門が突破された場合、そこで敵を出来るだけ足止めして、村人達を逃がす時間を作るというのはかねてから打ち合わせてあった通りだ。


「行きましょう、あなた」


 そう言って外に向かったタナに、サリドは、あぁ、と返して兜を頭に乗せた。








 クリス村にいる者達はかつてはリース族と言われていた者達で、この地に定住するようになってからは部族名では呼ばなくなっていた。彼等は強い戦士が揃った時に良い地を探す旅に出て、いくつもの部族との戦闘を経た後にこの地をみつけたという。


――六英雄、か。


 あけ放たれた村の門を馬上から見て、ゼラは皮肉げに口元を歪めた。

 確か、魔獣殺しのサリド、守護者ドトル、神速のエッシ、魔弓のドナ、剛剣のクォーラ、大斧のタスクだったか。その六人の名は、数多くの敵を退けた恐ろしい戦士として周辺の部族に広く知られている。それがあったからこそ近年はこの村を襲おうとする部族はほとんどいなかった。

 ナグラック族も、彼等に手を出して痛い目にあった過去が何度もあるから、この村を獲物として狙う事はなくなっていた。


 とはいえ、何度もこちらが負けた原因は分かっている。

 ようは、数と頭が足りなかった。それだけだが、それで勝てる筈がない。


 村を取り囲むクシャンの木で作られた丸太の壁は燃えにくいから、馬鹿の一つ覚えの火矢があまり役に立たなくてそれもこちらから攻めるネックになっていた。ゼラには意味がない事だが。

 実はゼラはキシェナを攻める際、既に別動隊をクリス村に向かわせておいた。そうして彼等は村の近く、とはいえ半日程はかかる場所に待機させた。その後キシェナを落として交渉を終えてすぐ、ゼラは直下の騎馬部隊を率いて村へ向かい、待機部隊と合流したという訳だ。

 後はキシェナを落としたことで付近の部族と話し合いに出かけたここの英雄様の、その帰りを狙って仕掛けた。


 この村の正面門はクシャンの木製でただでさえ燃えにくいのに更に加工されていて固く、かなり頑丈に作られている。普通に攻めればかなり厄介だ。だが奴等の英雄様を中に入れるために門はぎりぎりまで閉められない。閉めきれない間に攻めれば門をこじ開ける難易度はかなり下がる。しかも、キシェナを落として即自分達が攻められると思わなかった連中は戦の準備が出来ていない。村の中へ入ってさえしまえば勝敗は決まったも同然だった。


「兄さま、村の半分は制圧出来たって報告が来た、けど……」


 妹エニが馬を近づけてきてそう言ってくる。聞いてゼラは即、状況を理解した。


ゼラのシーンは次回に続きます。

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