25・二度目1
二度目だ、とシオールは思った。
音を聞いて森の出口近くまで行ったアルスとシオールは、今まさに村の門を敵が打ち破ろうとしているのを見た。そしてシオールには、攻めてきた敵の掲げる旗、兵士達の姿に見覚えがあった。
――俺は二度、同じ連中に滅ぼされるのを見る事になるのか。
このクリス村の戦力はかなり高い。全体的にシオールの村より強い戦士が揃っているし、シオールより強いと思える人間が何人もいる。六英雄と呼ばれるだけあってサリドやクォーラ達は特に強い。だが……あの男はきっと、この村最強であるサリドより強い。
――さすがに三度目はないか。
一度目は運良く命は取られなかった。だが今度は戦って生き残れるとは思えない。それでも出来るだけはするつもりで槍を握りしめれば、暫く黙っていた今の主である少年が唐突にこちらを振り向いた。
「シオ、森をぬけて北から村へ入ろう。うまくすれば婆様達の方に避難してる人たちがいるかもしれない」
アルスは怯えた様子もなく、しっかりとこちらを見て冷静にそう告げた。
今、目の前では戦闘が行われている。しかもおそらくは味方が不利な状況で。確実にあの場には彼の父親がいて、命の危機に晒されている可能性がある。それでも冷静に正しく判断を下せるこの少年に、シオールはまた感心した。
彼に従えば、前とは違う結果になるかもしれない、そんな思いが湧く。
「分かりました。アルス様の指示に従います」
シオールの返事を聞いてすぐ、アルスは走り出した。森の中を山に向かって進めば大回りになるが村の奥側、老司祭の洞窟近くから村に入れる。道と言える程の道はないからかなり歩きずらいが、それでも何度か行って比較的歩きやすいルートは見つけてあった。ただし、ひたすら森の中を行くのではなく時折村の外近くまで出て、村の様子を確認しながらになる。それでも出来るだけ急ぐ。
幸いな事に、森の中へ敵は来ていないようだった。北に行くにつれて戦いの音が遠くなっていくところからして、まだ敵は村の中まで入りこんでいないのかもしれない。今は村の入口での攻防に敵も味方も全力を注いでいるのだろう。
やがて、森を抜けて山のふもとの小川に出た。ここから小川沿いにいけば、老司祭達の洞窟につく筈だった。
「この辺に敵はいないかな」
「大丈夫そうですね」
ここから洞窟までは身を隠すものがないため走り出す。そうして途中の岩場を上がれば、一気に視界がひらけて洞窟傍の広場が見える。
そこに人影は……あった。
複数人、ただし遠目でも体の大きな者はほぼいない。おそらくいるのは基本的に非戦闘員、老人や女子供なのだろう。けれどアルスは彼等に声を掛けるのではなく、即その場で伏せた。シオールもそれに続く。
「シオ、皆の傍に怪しい気配とか、違和感とかを感じるか?」
「多分……大丈夫です。いるのは基本、戦士ではない者ですが、ここの護衛の戦士方もいますので囮とは思えません」
「そっか……まぁ、まだこっちに敵は見てないしね」
幾分かほっとした声でそう言った後、アルスは立ち上がって走り出した。シオールは周囲に警戒しながらその後につく。どうやら本当にまだこちらには敵はきていないらしく、顔が完全に判別できるくらいまで近づくと、向こうで数人がこちらに向かって手を振ってきた。
その中の一人、サリドの部下、ドゥトスがこちらに向かって走って来た。
「アルスロッツ様」
彼女が目の前に来たところで、アルスも足を止めた。
「ドゥトス、状況を教えてくれないか? 敵はナグラックなのか? 父上は帰って来てるのか?」
「はい、敵はナグラック族です。サリド様達を追ってやってきました」
「……なら現在、父上達は戦っているって事だな」
「そうです」
「戦況は?」
それには、感情をあまり顔に出さない彼女が僅かに顔を顰める。
「私は……敵が来た段階で、戦士以外の方々をここへ連れて行くようタナ様から命令を受けました」
だから戦況は分からない、という事だろうが、彼女の表情が暗い段階で最悪の状況を考えた話をされているのだろうと予想出来る。
「母上は?」
「サリド様を待つと……」
さすがにアルスもそれには即返事を返さず息を飲む。けれど彼が黙っていたのは極僅かな時間だけで、すぐ落ち着いた声で聞き返した。
思ったより長くなったので分割。




