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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
一章:旅立ち
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24・敵2

『シオ、おそらく口が上手くて器用なタイプだ、予想してない変な手を使うかもしれない、あと後ろ腰に何かある。とにかく、気をつけて』


 とりあえずシオールにはそれだけ言っておけば、挑発の言葉を無視して細かい所作に注意を払ってくれるだろう。

 返事はせずに、シオールは相手にむけて一歩前に出る。即座に相手はまた小剣を投げてくるが、シオールの槍に叩き落された。ただそれは本気で攻撃する気で投げたものではなかったようで、次に男は両手を後ろに回すと腰から抜いた小剣を今度は両手に持った。

 しかもおそらくは、二本づつ。すぐに手を下したから確信はないが、そう見えた。

 相手は左手分の小剣をまず投げる。それをシオールが弾く、やはり二本。それと同時に向こうが走り込んでくる、そして、槍の間合いに入る前にもう片手分を投げる。シオールはそこでも二本の刃物を落とした。

 ただ、そのせいで槍の間合いの中程までに入られた。

 シオールはすぐに槍を引き、柄をまわして相手を叩こうとするが、それを低くしゃがんで避けた男は、その低い体勢のまま両手を腰に回して剣を抜いた。今度のは投擲用ではない、しっかり手に持って攻撃するための短剣だ。

 抜いた動作からそのまま流れるように体を伸び上がらせ、短剣はシオールの喉を狙う。勿論、シオールは避けたが、懐まで入られた段階でどうしても不利だ。槍の柄を回し、相手をけん制しながら距離を取ろうと後ろへ下がる。だがその柄を短剣で挟んで止められた。


「くっ」


 そこでシオールは相手を蹴る。相手はそれを避けて後ろへ引き、結果的に槍は自由になる。すぐさまシオールは柄を回して相手を叩こうとしたが、それを避けて男の上半身が大きく逸らされる。そこからまるで風をうけてしなった枝が戻るかのように大きく上半身を後ろから横へと揺れるように回していき、そのまま前へ戻ると同時に片腕だけを大きく伸ばしてシオールを斬ろうとした。

 それをシオールはギリギリで避ける。アルスが息を飲むくらい、本当にぎりぎりだ。

 当然シオールは柄で相手を叩いてけん制しつつ下がろうとするのだが、相手は上半身を左右に揺らしてそれらを避け、そこから短剣で斬りつけてくる。

 なんだかぐにゃぐにゃした動きで避けては斬りつけてきて、そのやたら不規則な動きはおそろしくタイミングが取り辛い。ただ、目の前で見ているシオールよりも、離れて見ているアルスの方がまだ、相手の動きが分かる。

 だから、相手の目が完全にこちらを見ていないのを確認して、アルスが動いた。


「うえっ」


 アルスの投げた袋――点火石入り――が飛んできた事で、敵は間抜け声を上げて大きく飛びのいた。

 それを見てシオールも後ろへ下がり、槍に優位なだけの距離が取れた。男はそれで拗ねたように顔を顰めると、大きく肩を上げて溜息をついてみせた。


「なんだよ、折角の勝負中に卑怯じゃない?」

「あいにくこっちは子供なんで、それくらいは許してもらいたいかな」


 アルスが言えば、男は一度目を丸くしたあとに笑いだした。


「うん、いや、そうだな。俺がそっちを見てなかったのが悪い。なんだぁ、ご主人様は何もせず見てるだけじゃなかったんだぁ」


 ケラケラと笑う男には余裕がある。

 というかアルスの見たところ、相手からはこちらを始末しなければならない、という程の強い殺気を感じない。まるで、こちらにちょっかいを出して遊んでいるような雰囲気だ。


「そりゃぁ、やれる事がある時ならね」


 言えば、男はあからさまな笑い声は止めたが、不気味な笑みを顔に張り付かせたままアルスを見てくる。


「うんうん、そうだね。じゃぁ、部下をちゃんと助けようとする偉いご主人様の坊やのために、今日はこれくらいにしてあげようか」


 言いながら相手は両手に持っていた剣を腰に戻す。やっぱり、向こうはこちらを殺すつもりがない、というか殺せとまでは言われていないのだとアルスは思った。


「ま、俺がここにいたのは、ちょっと興味があったからだし。助けてやったお礼は、また今度もらいにくるよ」


 それを最後の言葉として、男は大きく後ろに跳び、藪の中に入る。直後に走り去る音が聞こえたが、それもすぐ聞こえなくなる。アルスは相手の逃げ足の早さに呆れると同時に安堵した。


「シオ、追わないでいいからな」

「はい」


 動きをみた上でもシオールより確実に強いとまでは思えなかったが、とにかく何をしてくるか分からないのが不気味だった。男が動いている間に見えた左腰の何かはやはり籠っぽく、結局それに何が入っているのかも分からなかった。

 ふと見れば、シオールは男が投げた小剣を拾っていた。毒が塗ってある可能性もあるので刃は触らず、布に包んでいるのはさすがだ。向こうの様子からするとその可能性はないだろうが用心に越した事はない。

 ただ、アルスとしては、男が最後に残していた言葉にも微妙に引っかかりを覚えていた。


――助けてやったって……今回殺さず見逃した事か? それともやっぱり奥の手みたいなのがあったのか。


「とりあえず今日は、すぐ村に帰ろう」


 なんだか嫌な予感がした。

 そしてやはり、嫌な予感というものは的中する、しかも最悪な形で。

 村に近づくにつれ、アルスの耳には大地を揺るがす大勢の人間の足音と怒声が聞こえてきていた。それは確実に、戦いの音だった。


次回はシオール視点。

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