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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
一章:旅立ち
24/61

23・敵1

 アルスが婆様達の洞窟から家に帰ったのはいつも通り日が落ちてからだが、やはり父サリドは帰ってはいなかった。それどころか結局その夜の内に父は帰ってくる事なく、いつ帰ってくるか分からない父を待っていても仕方ないので、アルスとシオールは翌朝起きるといつも通り森へ向かった。アルスとしては確認しておきたい事もあったので、今日はそれだけ確認したらさっさと村に戻ってもいいくらいのつもりだった。


「シオ、今日は特に、誰か隠れて見てるやつがいないか、注意していてくれ」


 森に入る前にそう言って、辺りの注意をシオールに任せた。そうしてアルスは昨日、お茶をするのに火を焚いたところに向かった。


――さすがにあからさまに触ったあとを残したりはしていないか。


 ここへきている偵察の人間は、見てすぐわかるような何かしていた跡は残していかない。だから逆に、明らかに何者かが来た跡を残しておいたら向こうはどうするかと考えたのだ。そのために、父達が使っている広場ではなく、ちょっとだけ奥へ入った目立たないところ、しかも奴等が来ていた場所の近くで火の跡を残した。


――他にも偵察に来ている連中がいると見るか、自分達が来ているのに気づいている者がいると見るか。もしくは何組も偵察部隊がいるなら、仲間が残した跡と勘違いして消していく可能性も……。


 ただあり得る可能性として、それを確かめるために隠れて見ている者がいるかもしれない。シオールに周囲の警戒をするようわざわざ言ったのはそれもあってだ。そして嫌な事に、そういう予想は大抵当たる。


「アルス様、今日もこの辺りで少し休憩しましょうか」


 シオールがそう言ってきた段階で、アルスはぞわりと肌を震わせた。勿論、普段の彼がいつもきているここでそんな事を言う筈がない。つまりこれは、隠れているだろう者にわざと聞こえるように言っている。


「そうだな、お茶にしようか」


 言ってアルスがしゃがめば、シオールが荷物を下す。シオールは槍だけを持った状態でしゃがむと、極小さな声で言ってきた。


『後ろのアシャの木の影です。おそらくは一人』


 アルスはシオールの肩ごしにそちらをちらとだけ見て、荷物から鍋と点火石の入った袋を取り出すと鍋を昨日と同じくシオールに渡した。勿論、その間も意識は言われたアシャの木の影にある。


「じゃ、お前は水を頼むな」

「はい、承知しました」


 シオールは立ち上がる。片手に鍋を、もう片手に槍を持って。そうして彼がアルスから離れて水場に行くのとほぼ同時に、気配が動いた。

 アルスは気づいてすぐその場から飛びのく。

 それより早くシオールは振り向く。即、槍が届く。アルスに聞こえたのは鉄同士がぶつかった澄んだ音、そのあとに放り出された鍋が地面に落ちる音、そして何かが地面に刺さる音だった。

 音が終わった時、シオールはアルスの横にいた。そして彼の槍の先端は敵がいる場所からアルスを守る位置にいた。相手の姿は見えない。


――短剣、を投げられた?


 槍の穂先付近を見てみれば、おそらく投げられたであろう小さな刃物が地面に刺さっているのを見つけた。そしてそれに気づいたのとほぼ同時に、アシャの木の影から人影が出てきた。


「やっぱり気づいてたんだね。うん、腕は良さそうだ」


 若い、とは言っても成人はしていそうな男は、姿は見せたが近づき過ぎずにすぐ足を止めた。赤茶色の髪の色、鉄色の瞳――炎の部族、ナグラックの人間の可能性が高い。


「あれ、ってぇ、子供かぁ。なぁんだ期待してたんだけどなぁ」


 それにむっとしたのか、シオールが殺気を纏う。男の表情が一瞬で真顔になった。


「うん、クリス村の人間だね」


 この男は、わざとこちらの言葉で話しかける事でそれを確認したという訳だ。だからアルスも相手に言ってみる。


「そっちはナグラックの土の民の人間かな?」


 男が片眉を跳ね上げる。


「ふぅん、ただの無知なガキじゃないね」


 そっちも、ただの下っ端じゃないな――と心の中で呟いて、アルスはじりじり動いてシオールの後ろに行く。

 今まで見たところ、相手はそれなりの手練れだがシオールが負ける程の腕ではないと思える。ただ相当要領がいいタイプの人間みたいだから、腕以上に厄介な手を使ってくる可能性はありそうだ。あと少し気になるのは、左腰にただの道具入れとは思えない大きめの籠のようなものを下げている事だ。今はマントに隠れてよく見えないが、マントの上からでも明らかに何かあるのが分かるくらいだから不自然に大きい。戦うには確実に邪魔になるだろうそれが何なのか分からないのが不気味だった。


次回は出てきた人物とシオールとで軽い戦闘。

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