22・キシェナ
中立地帯として様々な部族の交流の場となっていたキシェナを攻撃するのなら、当然そのキシェナの市場を利用していた部族全てを敵に回す事になる。だからこそキシェナは今までその地位を守っていられた。
だが、キシェナの役目がそのまま続くのならばどうだろう。
「本当に……この条件に間違いはないのでしょうか?」
これからの事を話し合うために呼ばれたキシェナの代表――この村に一番多いリグ族の族長である男は、侵略者であるナグラック族の若い頭領に怯える瞳で恐る恐る聞いてきた。まぁ、怯えるのは当然だ、なにせゼラは潰した部族の族長や中心となる人物本人は勿論、その身内まで全て殺してきていたのだから。
ただキシェナではその必要はない。
それはこの村の者が商売人気質で戦士がおらず、部族の誇りよりも実質の活動に問題がなければ文句を言わない連中だと分かっているからだ。だからキシェナはいつも通り奪うのではなく、この村自体を利用するつもりだった。
怯える族長に、ゼラは薄く唇に笑みさえ乗せて答えた。
「あぁ、間違いない。この村は以後こちらの配下に入ってもらうが、今までと同じように市場は開いて貰って構わないし、その売り上げをこちらに寄こせとも言わない。どこの部族の人間も出入りは自由だ、村の住人の行動も、外からきた人間の行動も規制はしない。勿論、こちらに対しての敵対行為とみなす行動をしてきた者は相応の目にあってもらうし、村の中で戦闘行動を起こそうとした者は厳しく取り締まる。その辺りは前より締め付ける事になるが、基本的には今まで通りにしていれば何もしない」
キシェナ自体も一応戦力を持ってはいるが、盗賊やちょっとした諍いを収めたりするための人員程度で全部外からの雇われ者だ。外部の敵からキシェナを守ってきたのは周辺の部族間の協定で、キシェナが攻撃されればそこにいた、もしくは近くにいた他部族の戦士連中がこぞって戦う事になっていた。
けれど今回はそれだけでは止めらない程の戦力がキシェナを取り囲んだ。ゼラはその上でキシェナに降伏するよう持ち掛けた。もともと戦う事を好まない商人気質のキシェナは、そこであっさりと降伏したという訳だ。
ゼラが降伏勧告と共にキシェナに出した条件は、こちらの配下に入る事。ただし、キシェナとしての活動は今まで通り。とはいえ勿論、『配下』である限りは、それに伴う義務と権利が発生する。
「我らの配下となるからには、今後この村はこちらが責任をもって外敵から守る。そのため常にこちらには我が部隊の一部を置く。また他部族との戦闘のため、一時的にその部隊を置く事もある。その滞在における負担をそちらで持ってもらいたい。……なぁに、お前達が今まで自衛のために使っていた費用を回してもらえばいいだけだ。そっちも何かあった時に頼る相手が明確に決まっていたほうが楽だろ。それに、我々の部隊なら戦力的に不安はないと思うが?」
早い話、守ってやるからそちらの戦力は捨てろ、その分こちらの兵を養え、という話だ。当然、配下になれと言った段階でそれくらいは向こうも覚悟していただろう。それにこちらの目的が戦力をキシェナに置く事であると分かれば、向こうもある意味安堵する筈だ。あとは部隊を置く上での不安を取り除いておいてやればいい。
「あぁ、ここに置く連中にはちゃんと規律を守るよう言い聞かせてあるから安心しろ。略奪や暴力等、犯罪行為を行った奴はこちらで処分するから言ってくれ」
そこまで言うと、族長である男は明らかに安堵した顔をした。キシェナとしては、村の独立性を失う代わりにこちらの庇護下に組み込まれる事になる。メリットとデメリットがはっきりしている分、降伏した側の待遇としては文句はない筈だった。
――問題は、周りの連中だな。
協定違反であるから協力してゼラ達に制裁を加えるべき、という声は当然上がる。だが、キシェナが今まで通りに利用できるのなら別に構わない、という連中もかなりいる筈だ。特にこちらと戦いたくない連中は後者の意見になる。確実に揉める。
だから協定通り、キシェナを利用する全部族がこちらの敵に回る――という事態にはならない。せいぜいそれなりに大きい部族のいくつかがこちらを攻めようとするだけだろう。そして当然だが……こちらは大人しく攻められるのを待っているつもりはなかった。
次はまたアルス側の話。




