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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
一章:旅立ち
19/20

18・頭領交代

 赤い炎が夜の闇の中、周囲を照らしている。

 炎の部族といわれるナグラック族は戦で勝った日の夜は大きな火を焚き、それを囲んで神に勝利の杯と歌を捧げるのが伝統となっていた。勿論、実際はただの戦勝祝いの宴で、命を懸けて戦う戦士達に対して多少のハメ外しを正当化するための建前にすぎない。戦った戦士達は、その時だけは好きなだけ酒を飲んでいい事になっている。


 だが勝利に沸くその宴の中、彼等を束ねる頭領のいる天幕の中は静まり返っていた。


「死んだな」


 毒入りの酒を飲んで倒れた男が動かなくなったのを見てゼラがそう呟けば、その男に一番近い位置に座っていた若い女が立ち上がって死体のところに行く。


「はい、兄さま、間違いなく死んでいます」


 念入りに調べた末に彼女がそう告げれば、他の者が次々に立ち上がってゼラの前に集まり、跪いた。


「ゼラ様、今日から貴方様が我らのかしらです」

「ゼラ様、我々は皆、貴方様に命をささげる覚悟が出来ております」

「我々は貴方様に忠誠を誓います」


 ゼラは座ったまま持っていた杯に口をつけるとそのまま中の酒をあおった。これにも毒が入っていたらおもしろい事になるだろうなと思ったが、幸い酒はただの酒だった。飲み干して、口を拭うと彼は立ち上がる。


「お前達のその言葉、後悔はさせないと俺も誓おう」


 全員がそこで頭を更に低く下げる。遅れてその列の最後尾に跪いた妹が、誇らしげにこちらを見た後、皆と同じく頭を下げた。


「親父の死は明日の朝皆に伝える。酒を飲んで寝たまま起きなかったとでも言っておけばいいだろうさ」


 怪しむ者もいるだろうが、それを問いただそうとする者はいない。戦闘に明け暮れるナグラックの者にとっては強い事こそが正しいとされる。たとえ肉親だろうが勝って生き残った者が認められる、実に単純明快だ。

 勿論、力ない者が頭領を殺し、今日から自分が頭だと言っても成立はしない。ゼラが皆に誰よりも強いと認められていて既に幹部連中を味方に付けているからこそだ。

 それに、こちらが父を殺さなければ父が自分を殺しただろう。ゼラが功績を上げるたびに父は口では褒めていたがその目は全く嬉しそうではなかった。兄達が不幸な事故で全員死んだのもゼラのせいだと、次は自分の番だと父は分かっていた筈だ。


 父の計算違いは、幹部連中だけではなく、娘のエニまでもがゼラについていた事だろう。用心深い父は飲食時は毎回エニに毒見をさせていた。そのエニが毒を入れるとは考えなかったらしい。今までそれで大丈夫だったから安心していたのもあるだろうが。


「ともかく、これでやっと非効率で馬鹿馬鹿しいやり方を変えられる」


 呟けば、跪いた者の内一番若い男が少しだけ顔を上げてこちらを見てきた。彼の名はケイラ、早い内からゼラに忠誠を誓ってくれた人物だ。ただ暴れる事だけが好きな馬鹿共とは違って、今の行動が後々どう影響するか考えられるだけの頭がある。

 その他の者も、幹部とはいえ大半は若い。ゼラが不用と判断した有力者達について、その身内で一番使えそうな人間を選んで接触し、自分に付くように約束を取りつけてからその人間が家長になれるように手を回したからだ。世代交代させずそのまま取り込んだ連中は一応ゼラから見て『使える』と判断した者ではあるが、そうではない者、ただゼラを恐れて頭を下げているだけの者もいる。それはそれで利用価値があるから置いているが、いずれはいなくなる予定だ。


「これからは戦い方が大きく変わる。まず、火矢は基本的には使わない」


 それには驚きの声が上がって一人が聞いてくる。


「浄化、しないのですか?」

「しない、とは言っていない。最後にいらないモノだけ浄化すればいい」


 ナグラック族が炎の部族と呼ばれる理由は火の神ティエルペを信奉しているからだが、その神の教えに従って敵を浄化するという名目で戦いには火矢を多用していた。『我が神に捧げるため、敵を燃やし尽くせ』というのがナグラック族戦闘開始時の号令の常套句だが、それをいつもゼラは忌々しい思いで聞いていたのだ。


「いいか、なんでもかんでも燃やすから、折角勝っても得るものが少ないんだ。火矢など使わなくても戦いには勝てる。燃やさなければ勝った後に相手の貯蓄してきたモノ全てが手に入る。降伏してきた奴は殺さず捕まえておけば使い道はいくらでもある。それで最後にいらないものだけを浄化してやればいい」


 言い切ると幾分かざわつきはしたが、それでも否定する声はあがらなかった。不満そうな顔をしている者はいるが、それは想定していた人間ばかりだから構わない。

 ナグラック族の名は恐れられてはいるが、その割には部族としての勢力はそれほどではない。理由としてはこの効率の悪い戦い方のせいで大人数を養えないため、少数集団に分かれて別々に暴れているからだ。

 だからまずゼラが目指すのはナグラック族を一つにまとめる事。父がいる間はへたに進言も出来なかったが、自分が上に立ったからには今まで考えていた事を実践していくだけだ。


「まずは、『炎の宴』までに他の連中が文句を言えないだけの実績を作るさ」


 ゼラのその言葉に、その場にいた者達がごくりと息を飲んだ。


という事でもう一方の主人公サイドが動き出しました。

ここからはちょっとづつこちらサイドの話が入ってきます。

ただ一章はアルス達の方がメインなのでゼラ側の話は合間に入る感じです。


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