14・変化1
あの勝負以降アルス――正確にはシオールとのセットでだが――に対する村の連中の認識はかなり変わった。
父サリドの言葉のせいもあってシオールがクォーラよりも強いとは誰も思ってはいなかったが、それでもあのクォーラとまともに戦えるのならシオールは村の戦士として認められるに値する。アルスはその主としてきちんと忠誠を誓われている――もちろんそれは試合後にシオールが跪いたせいだ――という事で、ある意味一人前扱いをしてもらえるようになった。
とはいえ一人前といっても、会議で席を貰って一応発言もしていい事になったくらいだが。あとは皆の視線が『英雄の息子なのに戦士として使えない役立たず』から、『奴隷込みでは戦力になる』に変わった感じだろうか。
一番大きいのは、レガンが何も言ってこなくなったことと、あとは……ちょっと面倒な事が一つ……いや二つ。
「それで、私が強くなるにはどうすればいいと思う?」
まずはあれ以降、マーナがやけに付きまとってくるようになった。
「現段階では、まず筋力と体力をつける事じゃないか。ただでさえその辺りは女性というだけで不利だ、とにかく鍛えるしかない」
今までなら嫌味の一つ二つ言われたら、あとは違う方向へ歩きだして別れを告げるだけで済んでいたのにそのままついてくるのだから困る。
「そんなの分かってるわよ。その上でアドバイスとかあればって話でしょっ」
どうやら先の試合でアルスがシオールを勝たせたのだと認めてくれたらしいのだが、そのせいでへんな期待をされたっぽい。
「あのな、誰かに勝ちたいっていうならそれに合わせて対策を考えたりは出来るけど、平時の訓練は本番のための積み重ねだ、ひたすら鍛えるしかないだろ」
「何よ、もう少し真剣に考えてくれてもいいじゃない!」
その言い方にはアルスもちょっとだけキレた。
「じゃぁ言わせてもらうけどさ、これまで全然鍛えて来なかった俺に強くなるための訓練方法を聞こうというのがまずおかしいと思わないかなっ」
マーナはそこで目を大きく開く。それから暫くして急に考え込む。
「確かに……そうね」
納得はしてくれたようだが、彼女はそれでもついてくる。いい加減にして欲しい。足は止めていないが不毛な会話をしているせいで歩くペースは確実に落ちていた。あぁ時間が勿体ないとアルスは思う。
「……で、どこにいくの?」
更には今更そんな事を聞いてきたから、アルスは思わず眉間を押さえた。
「婆様のところだよ」
「え? どうして?」
「あそこにはいろいろな資料があるし、婆様達から話も聞ける。この村で勉強するならあそこ以上のところはない」
そんな事も知らないのか、という勢いで言ってみたのだが、彼女は特に気にした様子はない。一応嫌味のつもりだったのだが。
「ふぅん、じゃ、あんたが勉強してる間、彼はどうしてるの?」
そう言って視線を向けた先にいるのはシオールだ。
「待っているか、俺に何かあった時すぐ駆け付けられる場所で鍛錬をしてもらってる」
「じゃぁ私も彼の鍛錬に付き合うわ。彼には槍の使い方を教えてもらいたかったし」
それには反射的に足を止めてしまった。それから、顔を引きつらせてぎこちなく彼女の方を向く。
「いいでしょ? あんたと違って彼に訓練方法を聞くのは間違ってないわよね」
「う……」
有無を言わさぬ笑顔で言われれば断りずらい。アルスは伺うようにシオールを見てみる。彼は明らかに嫌そうな顔をしていたが、困ったようにじっと見ていると溜息をついて口を開いた。
「アルス様が許可するなら、俺はいいですよ」
悪い、シオ――と目線で謝りながらも、アルスもまた一つ大きく息を吐いてから、彼女に向かい合う。
「分かった。けど、本気でシオールから教えてもらうつもりなら、鍛錬の間はシオールを師扱いして言う事に従う事。意味、分かるかな?」
「つまり、奴隷という事は忘れて彼を師と仰いで言う事聞けってことね」
「まぁ……そういう事」
「分かったわ」
彼女が本気でシオールに教えてもらうつもりならこれは譲れない。彼女なら大丈夫だと思うから言ったのもあるが、奴隷だからと見下すような態度を取るなら教える事なんか出来る筈がない。
「そういう訳でシオ、俺が婆様のところにいる間……マーナの事頼んでいいかな?」
「分かりました」
と、そんな事があって以降、マーナが訓練に行ける時はアルスが婆様のところへ行くのについてくるのがお約束になってしまった。
そしてそのせいで更にもう一つの厄介な事案が発生する。それはそこから数日後の話だった。
「そうか、マーナは今日もそっちに行くんだね」
そう、問題なのははマーナだけではなく、いつも訓練に行く彼女を迎えに行っていたセルマの存在だった。
ちょっとこのシーンが長すぎたので分割。




