15・変化2
「えぇ、だってレガン達は勝手に仲間内だけで試合してるし、槍のお手本がいるこっちの方が私にとってはいいと思わない?」
と、マーナが言えば、優しいセルマはあっさりそれを肯定してくれる。
「そうだね、そうかもしれない」
彼女がこっちに来るようになってからもセルマは迎えに行っていたので、当然今は彼女の家からこちらに連れてくるだけの役になる。セルマ自身は彼女に対して気にしなくていいとは言っているが、やはり思うところがあるらしいのは見ていて分かる。
――こーゆーのに構うとあとあと面倒なのはわかってるんだけどさぁ。
だが今回は流石にマーナが気にしなさ過ぎてアルスも彼が気の毒になってしまった。だからつい、寂しそうに別れを告げる彼に声をかけてしまったのだ。
「セルマ、何なら今日はマーナと一緒にこっちに来てみる?」
「え?」
沈んだ顔をしてレガン達の方へ向かおうとしていた彼は、それを聞いて少しだけ表情を明るくした。
「どうせ向こう行っても一人で鍛錬してるだけだよね? レガン達も村の中でやってる分なら危険とかはないだろうし、たまには皆のお守りを休んでもいいんじゃないかな、とか」
勿論、言うと同時にシオールに目で謝っておくのは忘れない。
「そうよ、セルマなら絶対こっちに来た方がいいわよ。……あいつらだっていい加減保護者なしで訓練くらい出来るだろうし、来ちゃいなさいよ」
「いいのかな?」
その間、アルスはシオールと目線でやりとりをし、一応彼から了解は取り付けていた……すっごい、嫌そうだが。
「誘っておいて、だめな筈ないよ」
笑顔でそういえば、彼も嬉しそうにこちらについてくる事を決めた。
――まぁ確かに、セルマのあっちでの訓練って結局ただの保護者だしなぁ。
セルマは戦士未満の連中の中では一番年上でしかも族長の息子だ。あっちで訓練していても皆がへんな事をしないかの監視役がメインで、彼自身はひたすら一人で地味な鍛錬をしているところしか見た事がない。流石に真面目に鍛えているだけあってレガン相手でも上手く躱して大抵勝てるくらいの腕はあるが、あそこでそのまま鍛錬していても更に腕を上げるのは難しいんじゃないかとアルスも思う。
「ちなみにアルスはいつも婆様達のところへ行って、何をしているのかな?」
婆様の洞窟が見えてきたところで、セルマがそう聞いてきた。
「え? そりゃ勉強だよ。あそこにある記録達を解析したり、あとは婆様達から他の部族や、離れた土地の話を聞いたり……」
言いながらセルマを見れば、彼の明るい色の瞳がやけにキラキラと輝いている。あーやっぱこっち側寄りの人間だったか――と改めて分かった途端、口が自然と言ってしまった。
「なんならセルマも今日は俺の方に付き合う?」
「え? いやでも、鍛錬を怠る訳には……」
そう言いつつも顔は乗り気だ、絶対来たいに違いない。いつもならこういう『向こうから言ってもらいたい』という顔には気付かないふりをするアルスだが、一度誘ってしまったからには仕方ない。
「セルマの立場的に、他部族の事とか、どこで何が取れるかとか、他の水場の位置とか、そういうのって知っておいた方がいいと思うんだ。そりゃー俺みたいに毎日はちょっとアレとしても、有用な事を学ぶ時間は怠けてる事にはならないんじゃないかな」
「そ、そう、だね」
――本当に真面目なんだよなぁ。
アルスの言葉に乗り気なのに、自分の立場を優先させて迷う。根っからの真面目な善人だと思う反面、実はそうだからこそ本音では彼とあまり関わりたくなかったのだ。
「そんなに心配ならさ、体を鈍らせないための基礎訓練をやってからにすればいいんじゃないかな」
「あ、あぁ、そうだな、じゃぁ……」
明らかに頬を紅潮させて嬉しそうな彼は、そうしてその日は最初の準備運動だけシオール達につきあってから、アルスと一緒に婆様の話を聞く事にしたのだった。
次回はこの後のシオール側の話。




