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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
一章:旅立ち
13/16

12・試合1

 当日はやけに気持ちよく空は晴れていて、おかげで思った以上にギャラリーが多かった。全然まったくちっとも嬉しくないが。

 だっからここじゃやりたくなかったんだけどな――というアルスの思いとは別に、知っている顔、特に見たくない顔はずらりと揃っていた。マーナなどはこっちと目が合うと横にいるミーナとテイナも共に手を振ってきて、アルスは反応に困ってしまったが。


「ま、お膳立てはうまく行ったけど、ここからはお前次第だ」


 一対一の試合中に口を出す事は出来ないから、アルスに出来るのは戦う前の状況を作るところまでだ。勿論戦う時の作戦も考えて打ち合わせてあるが、それが実際に役立つかは全てシオールに掛かっている。

 二人が広場の中央で対峙すれば、その間にアルスの父サリドが立って皆に大声で告げた。


「一本勝負。勝敗はどちらかが降参するか、戦闘続行不可能になるか、俺が止めるまでだ」


 それに同意の証として、審判役であるサリドと二人がそれぞれ拳同士を合わせた。シオールは年齢からすれば背は高いと言っても、やはり戦士として実績がある父やクォーラと並ぶと小さい上に細くてやたら頼りなく見える。

 そこから勝負する二人は距離を取って、それぞれの武器を構えた。シオールは槍だけ、クォーラは盾と剣。盾はウチの村では主流の丸盾で足元まで防げるほど大きなものではない。クォーラの普段使っている剣は他の者達の剣より大きく幅広で重いためそれが『剛剣』の名のもとになっているのだが、今回は試合であるから剣は普通サイズ、刃を潰した訓練用のなまくらだ。当然シオールの槍も先は丸めてある。それでも当たり所が悪ければ命を落とす可能性はあるので安全とはいえない。

 ちなみに村では名のある戦士はこの剣と盾のスタイルが普通で、槍を持つのは下っ端の役目になる。槍持ちも盾を持つ事が多いのだが、それは戦場での話だ。この手の一対一の戦いで槍を使うなら盾を持つ意味はあまりない。特に相手が接近戦用の得物なら、槍の間合いの広さが盾以上の防御となる。だからと言って勿論槍が全てにおいて有利とは言わないが、剣と槍の試合にしたかったのは優位性が分かりやすくていろいろ策を考えやすかったから、それといつもの武器である事でクォーラを油断させるためだった。


「はじめっ」


 サリドの声が響いてすぐ二人は前に出た。とはいってもすぐつっこんでいく事はしない。歩いて接近し、槍の間合いに入る前にクォーラは足を止める。そこですかさずシオールが一歩踏み込んでけん制の攻撃を相手の足元にしかける。クォーラは横に飛びのく。そこへ更にシオールの槍が同じく足元を払って、クォーラは今度は後ろへ飛びのいた。


 まずは基本の作戦は、相手の足を徹底的に狙う事。

 ガタイがいい……つまりそれなりに体重がある相手に対しては足を狙うのは基本だ。しかも盾で防げない足元の攻撃は相手に歩いたり飛んだりする事を強要する。体力の差をカバーするため、向こうにはこちらより多く動いて貰おうという訳だ。


 ただ勿論、勝負でこのやり方は非難されても仕方ない。


 今回はクォーラの方が圧倒的に格上だからあからさまに文句の声を上げる者は今のところいないが、ギャラリーとしても見てて面白くない展開であるから皆不満そう――というか白けた顔をしていた。


――だよなぁ。見ててもつまらないもんな。


 格下のシオールだからまだ許されているが、延々と続ければさすがに文句が出るのは確実だ。だから相手が疲れるまでこれを続けたりはしない。というか、短気なクォーラがこの展開に我慢出来る筈がない。


「このガキがっ」


 案の定、足元の攻撃を後ろに飛んで避けるのではなく、斜め前に飛んで避けるとそのままクォーラが強引に突っ込んできた。周囲からわっと声が上がる。つまらないものを見せられていたのもあって明らかに歓声だ。

 シオールも前に出る。踏み込みと同時に槍を伸ばせばそれは盾で受けられる。クォーラはそのまま盾で槍を叩き落そうとしたが、それより先に槍は横へ逃げていく。シオールが槍を棒術のようにくるりと回したからだ。そしてその回した勢いのまま、穂先があるのとは反対側の柄先でクォーラの足を盾がない右横から叩く。


「チッ」


 舌打ちをしたもののクォーラはそれを避けなかった。槍刃のない方だから当たっても構わないと判断したのだろう。あとはシオールの腕力や使っている槍を見て、そこまで重い攻撃ではないと思ったのもあるか。

 その判断をするだけあって、叩かれてもクォーラはよろけたり、足を引いたりという事はなかった。その様子にも周りから歓声が上がる。そして避けないという選択をしたのなら、当然そのままクォーラは剣を振り上げてとびかかってきた。

 その剣を避けて、シオールが後ろに飛びのく。と同時に叩いた柄を戻して、今度は穂先のある方がクォーラの足元を叩きに行く。大振りをからぶったせいで足を止めてしまったクォーラは、仕方なくそこから即後ろへ飛びのいた。


「くそっ」


 一定以上の距離がある状態で相手の足が止まれば、槍側がそのままの距離を保つのは容易だ。クォーラが前に出ようとすれば足を狙いつつ後ろに下がる。その繰り返しパターンに入る事になる。


――やってる事は基本中の基本だ。徹底して足元を狙う事と、距離を詰めさせない事、あとは……。


 勿論クォーラも戦士としては優秀であるから、意図には気づいている。いつまでも同じ事を繰り返してはくれない。だからこのパターンだけで勝てるなんて思ってはいない。それにこれだけで勝ったとなれば、いくら格下だからといっても周りが認めてくれない可能性が高い。それは、分かっていることだった。


連続更新は今日まで。

次回はシオール視点の戦闘で決着がつきます。

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