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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
三章:森の住人
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21・北の守戦

――思った以上に地面が滑るかもしれないな。


 シオールは何度か地面を軽く蹴って足元を確認した。事前に踏み固めた土の上だと聞いていたから、滑る事を考えて履物はここの皆と同じものを作ってもらっていた。当然、訓練中にそれを履いて慣らしていたから不安はない。


「最初の対戦相手が決まったぞ」


 構えを取って足運びだけ試してみていたら、くじを引きに行ったカヤが帰ってきた。彼女は弓役として参加する。ちなみに他の守主は全員戦士として参加だそうだ。


「相手は北の守の連中、すぐに出番だ」


 参加は四組、戦いは勝ち抜き戦だから二勝すれば勝者となる。シオールを含め南の守の連中は中央へ向かい、次の対戦となる東と西の連中は戦域外へと出ていった。

 ざわめきの中、中央に各陣営の代表である四人が並んで向かいあう。

 こちらの守主であるカヤの前には向うの守主のアッダラが立ち、いかにも見下ろした態度で言ってきた。


「強い人間を連れてきたと聞いたが、まったく強そうじゃないな」


 このくらいの言葉は今のシオールも理解できる。その後も、シオールの事を子供だとか小さいだとか細いだとかいろいろ言っていたようだが、別にそれらは間違っていないので気に障りもしない。あの手のがっちりとした戦士らしい体形の大人の戦士からしたら、見た目でシオールを馬鹿にするのは当たり前だろう。


 そこから進行役が号令のような声を上げて、皆一旦後ろに下がる。戦士達がほぼ戦域の端ぎりぎり付近まで下がれば、弓役だけがそこから更に枠の外に出て木の影に隠れる。


「*****っ!!!」


 進行役が何か叫んでフィールド外へと逃げる。この男の話し方はクセが強くて聞き取りずらい。言ってる言葉は分からなかったが開始の合図だという事は分かる。シオールは走り出した。

 基本的な作戦はシオールとサナグスが突っ込んで、ローエは少し後ろで待機だ。ローエにはこちらの後ろに回り込もうとしてきた敵がいた場合の対応と、サナグスのフォローを頼んでいる。

 先頭はシオール、これも決めてあった。

 敵の三人の内、守主であるアッダラの足は遅くて真っ先にぶつかる相手はそれ以外の一人となった。大した事はなさそうな相手で、その証拠に何も考えず棒を片手に持って振り上げ、シオールを叩こうとしてくる。シオールはそれをいつも槍の柄で受けるように棒で受け、そのまま弾き飛ばした。相手は驚いていた。体格で劣る相手を馬鹿にしていたのだろう。とはいえ相手が棒を片手で持って殴ってきたのに対し、シオールは槍のように右手と左手をかなり離して持っている。いくら向うの方が力が強かったとしても、向うは片手持ちの上、こちらは両手に持った棒の中間で受けている。余程のとんでもない力の差がない限りは楽勝で止められて当然だ。

 更に言うと、この持ち方だと相手を弾いてすぐ攻撃に移れる。

 シオールは即座に相手の額を突いた、一応、大けがをさせない程度に加減はして。ただでさえ後ろに押されてバランスを崩していた男はそのまま後ろに倒れるしかない。倒れかけてから左腕の盾を前に出すあたり反応が遅すぎる。みっともなく手をばたつかせて藻掻いてみせてから、結局相手はそのまま地面に尻餅をつく事になった。


 それは、男とシオールがぶつかってから一瞬の間の出来事だった。


 観客達はあまりにもあっさりと脱落者が一人決まってしまった事に対して、すぐには対応できずにざわつくだけだった。だがシオールが即座に遅れてやってきたアッダラの方に向かい、進行役が何かを叫ぶ(おそらく脱落を告げる言葉だろう)と一気に客席から歓声が上がった。


「貴様っ」


 アッダラがシオール目掛けて棒を振り落としてくる。自分より背のある相手からの振り下ろしの一撃は脅威ではあるが当たらなければいいだけだ。勿論、それが振り下ろされた時には既にシオールはいない。相手の側面に回り込んでしゃがみ、その足を棒で叩いていた。体重のある相手は足を狙うのがセオリーだ。ただ体重差がありすぎて足でひっかけるのは効かない可能性があったから棒で勢いをつけて叩いた。この方がダメージが見込めるし、もし効かなくてもこちらに危険がない。


「うがあっ」


 獣が吠えるような声を上げて、アッダラが軽く膝を折る。倒れなくてもダメージが入れば十分だ。いくらガタイが良くて強そうでもクォーラには相当に劣る、大した敵ではない。

 そこで一旦後ろに退けば、怒ったアッダラは今度は力任せにぶんぶんと棒を左右に振ってこちらに突進してくる。聞いてはいたが、本気で力任せの能無しらしい。シオールは落ち着いて後ろに逃げながら相手と距離を取って行く。


「逃げるなっ、****っ」


 聞き取れなかった部分は罵倒の言葉だろうからどうでもいい。この手の馬鹿は怒らせて余計に馬鹿を加速させてやればいい。

 そしてこんな馬鹿相手に、余計な労力を使う必要はない。

 ある時点まで下がると、シオールは足を止める。やっと獲物に手が届くと思った馬鹿は、ぶんぶんと棒を振ったままこちらに突進してくる、まるでイノシシだ。目の前にきて、相手が思いきり棒を振り上げたところでシオールは体を低くして前に向かい、相手の脇をすり抜ける。そのまま彼の後ろに回って、棒でその背中を思い切り突いた。

 シオールが退いた先には戦域の終わりの線がある。それにアッダラが気付いたとしてももう遅い。自分が突っ込む勢いを殺しきれず、更に後ろから押された事で北の守のアッダラはあっさり枠外へと自ら出ていってしまった。


 ただやはり、馬鹿というのは馬鹿というもので。


 どうやら自分が外に出てしまった事に気づかなかったのか、アッダラはすぐに引き返してこちらに向かってこようとした。それを周りの者が止める。本気で獣のような男はそれにいろいろ怒鳴り散らかしていた。勿論、シオールにはその言葉の意味は殆ど分からなかったが。


「勝者、南の守っ」


 聞き取り難い進行役の声は、今度はどうにか聞き取れた。

 見ればサナグスの方も無事相手を外に吹っ飛ばしたようで決着がついていた。矢がいくつか落ちているのを見れば、最初の予定通りカヤは向うをフォローしていたのだろう。


 アルスの方を見れば、彼は笑顔で手を振っていて、シオールはそこで主に向けて姿勢を正して目礼を返した。


第一試合はあっさり勝利。次はアルス側から見た西と東の戦い。

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