22・西対東
北の守のアッダラは力任せしかできない馬鹿だ――そう聞いていたからアルスは勝敗についてはまったく心配はしていなかった。ただ力任せの相手とまともな叩き合いをすると体力の消耗もあるしまぐれ当たりの危険もあるから、逃げるふりで枠線の近くまで連れて行って押し出そうという方針は伝えてあった。
「とはいえあそこまで何も考えてない相手とは思いませんでした」
お疲れ、と出迎えればシオールが呆れたようにそう呟いた。
「うん俺も」
正直いくらなんでもあっさり過ぎて、見てるアルスでさえ拍子抜けしたくらいだ。対峙していたシオールなら尚更だろう。ちなみに今回のそれぞれの代表者達のうち、見た目だけならアッダラが一番強そうではあった。
そこで進行役が何かを叫んで、アルスもシオールもそちらに注目する。
「さて、次のためにもちゃんと見ておこうか」
次の戦いは西の守と東の守、東の守がまったくやる気がなさそうなところからして勝つのは西だとしても、次の相手の動きは見ておきたい。
そこに、他の南の守配下の連中から勝利祝いの言葉を受け取っていたカヤがやってきて、アルスの近くに座った。
「勝敗は決まってるが、ポートは割と面白い動きをするぞ」
初戦をあっさり勝てただけあって、彼女は上機嫌だ。
「それはたのしみ」
アルスはそう返して次の勝負に目を向けた。
開始の声と共に双方中央へ向かう訳だが、前の試合と違ってどちらもゆっくりと歩いて近づいていく。とはいえその様子は対照的で、西が悠々と余裕をもって歩いているのに比べ、東は既に三人とも盾を前に出した中腰の防御姿勢でおそるおそるという感じだ。
両者がもうすぐ間合いに入る……その少し前で、東の者達は足を止めた。完全に防御に徹する様子に、西の連中の一人が突っ込んで攻撃に行く。そいつに狙われた西の者は直前まで盾がある左手を前に出していたくせに、殴られると同時に後ろへ引いて攻撃を避けた。
その内他の二名もそれぞれ敵と戦闘状態に入った訳だが、確かにちょっと見ものではあった。
東の連中はひたすら避ける。しかも構えは左手の装備と一体化しているあの小型の盾を前に出しているのに、向うから攻撃がくればひらりとかわす。いや、よく見れば、盾で防御をしていない訳でもない。確かに攻撃を盾でまともに受けたりはしないが、かするように当てて微妙に敵の攻撃を逸らしては逃げている。
「上手いな」
ついでに言うとその感じで矢も弾いていて、確かになかなかな面白い。まぁ矢は先端にくるみ大の余計なものがついているから速度も落ちてはいるが。
とはいっても、防御だけでは勝てない。シオールが先ほどやったようにうまく枠線のところまで誘導しようとしても西の連中はそれに乗らない。時には追うのを止め、時には東の者が逃げようとするほうに回り込もうとし、行きたい方向へいかせない。
ひたすら攻撃する側とひたすら防御する側、けれどその構図は割合早く終わりとなった。
西の守主であるクォットが手を上げて一歩後ろに下がる。と思ったら彼は自分の前にいる敵――東の守主のポートではなく、別の仲間が相手をしている敵に向かって走り出した。突然やってきたクォットの一撃を、だが狙われた東の者はかろうじて避けた。けれどもその間に先ほどまでそいつの相手をしていた西の者が後ろに回り込み、しゃがんでそいつの足を引っかけて倒した。それでその者は失格となった。
――ま、そりゃ攻撃してこないのが分かってたらそうなるよね。
攻撃してこないなら一人づつ皆でかかって潰していけばいい。一対一ならかわせても、二対一、三対一ならかわし切れなくなる。
クォットとその仲間は、即座に残るもう一人の仲間が対峙してる相手に向かう。今度は三人で一人を取り囲み一気に畳みかける、さすがに即決着はついた。
そうしてとうとう、戦域の中にいる東の守の人間は守主のポート一人になった。
「ここからが面白いぞ」
カヤのその声が聞こえたと思ったら、クォットが最後の一人に向かっていく。勿論他の二人も左右から回り込むように突っ込んでいく。さすがに終わりかな、と思った直後、狙われたポートは完全に囲まれるよりも早く前に向かった。
「お」
思わず声が出る。クォットはわざと走らずに左右の二人が囲んだ後に着くようにしていたからまだ攻撃体勢に入っていなかった。それでも即反応してやってきたポートを叩こうとする。ただポートはクォットと接触する直前で足を止めてその攻撃を避けた。それだけでなく、そのままクォットの脇をするりとすり抜け、今度は全力で走り出した。
周りの観客がわっと沸く。半分は笑い声だ。
走って逃げだしたポートを西の三人が追いかける。勿論追う側の三人は分かれて先回りしたり、挟み撃ちにしようとしたりはするのだが、逃げるポートがとにかく上手い。急停止や急な方向転換、相手の隙をついてすり抜けたりとひたすら逃げまくる。西側の弓もポートを撃とうとしているのだが、当たらないどころか味方にぶつける始末だった。
「いっやぁ、なんかすっごい共感しちゃうなぁ」
戦う技術を諦めて、鍛えるのは逃げ足のためと割り切ったアルスとしては、ポートの逃げっぷりには感心するだけでなく共感してしまう。
しかもこの状況でどうやら西の連中の方が先にバテてきたようで、明らかに追う側の足が鈍くなってきていた。それを見て、ポートもわざとなのか足を緩めて、走るというより歩きだした。
馬鹿にされたと思ったのか、西の一人が気力を振り絞って駆け出し、そのポートに殴りかかっていく。当然それもするりとかわされて殴りかかった男は勢い余って前につんのめる。そこへ矢が飛んでくる。東側の弓役はずっと隠れていたのだが、ここでやっと出番がきたというところなのだろう。矢が当たった拍子に大きく前に一歩足を踏み出した男は、そこで自分が外へ出てしまった事を知る。
観客がまた沸く。
それにポートはお辞儀をしてみせた後、自ら枠線をまたいで外へ出ていってしまった。勿論、そこで戦いは終了だ。
「結局、彼は何がしたかったんだ?」
そう言ってしまえば、カヤが楽しそうに答えた。
「いやがらせだ」
「は?」
「ちょっと前にポート本人に会った。その時言われた、北と西の連中は嫌いだから、もし奴らと戦う事になったら嫌がらせをして次に戦うお前たちのために疲れさせおいてやる、と。とりあえず一人失格に出来たから満足したんじゃないか?」
「あぁ……」
雰囲気からして争いが嫌いそうな彼等なら、西や北が勝つよりカヤが勝つ方がいいと思うのは納得できる。
そして目的がいやがらせなら、確かに最後まで逃げ回った末に倒されるより、このほうが西の連中にとっては後味が悪くて屈辱的だったろう。
アルスは少し考えて、カヤに言ってみた。
「よければあとでポートさんを紹介してもらえないかな。会って話してみたいんだ」
多分、きっと、彼とは話が合う筈だ。
次回は決勝。




