20・会場にて
『森の住人』と呼ばれる彼等の部族はこの森の中で血縁関係がある家族ごとにまとまって住んでいる。その中でもこの集落の四方に住む東西南北の『守』と呼ばれる家族が権力を持っていて、族長はその四家の中の家長である守主の誰かがなる事になっていた。
――で、それを決める戦いの場は、中央にあるって訳だ。
これから戦いが始まる本会場をアルスはじっと見つめる。南の守の守護地域内に同じサイズで訓練場は作ってあるものの、本番の戦域を見るのは当然アルスやシオールは初めてだった。
長方形の戦域の周り、観客席は長辺側にしかない。短辺側はすぐ森だから弓役が木に隠れながら撃てるという訳だ。陣取り形式ではないから戦闘が始まれば弓役はどこへ移動してもいい事にはなっているが、観客席が邪魔だから、実質自軍サイドの短辺側内だけの移動になるのだろう。
基本的には本番のフィールドを見ても事前に聞いた通りで想定外という事はないのだが、こんな森の真中に草一つなく綺麗に均されて固められた土の地面があるというのはちょっと驚きだった。この場所を常に綺麗に保っておく役目の家があるそうで、だからこんな綺麗なのだという。
――なんか、これを常に維持しているのに四年に一度しか使わないのって勿体ないよね。
他の部族の決めごとにあれこれ口をはさむ気はないが、そう思ってしまうのも仕方ない。訓練にも使わせろとは言わないが、族長決めの戦い以外でも定期的に部族の若者で試合でもすれば、部族全体の戦力向上につながるんじゃないかとか考えてしまう。
――カヤさんが族長になれたら提案してみるのはありかな。
予定通り早めに会場に来たアルス達は現在、観客席に座っていた。ただそこで隣りにいたカヤがちょっと顔を近づけてきて小声で話しかけてきた。
「今やってきた奴らが北の守。守主のアッダラはあの一番背の高い男だ」
彼女もかなりこちらの言葉を使えるようになっていたからこれくらいはそのまま教えてくれる。アルスも普通会話なら十分話せるようになったから、彼女のとの会話は互いに相手の言葉で話す事にしていた。最近ではシェノンが間に入る必要はほぼない。
アルスは事前に聞いていた事を思い出しながらカヤに言われた男を見てみる。確か北の守のアッダラは相手の中で一番の脳筋タイプで獣のような男だという事だった。顔付きからしていかにも狂暴そうないかつい顔をしていた。
「あっちに座ってるのが西の守、前の列の真ん中にいるのが守主のクォット」
そっちもやはりいいガタイをしているが、アッダラと違って頭も使える男だと言っていただけあって顔付きが落ち着いている。そしてちらちらとこちら……多分視線的にシオールを見ているようだった。
「で、最後に遅れて入って来たのが東の守。先頭にいるのが守主のポートだ」
あぁうん、確かに前の二人からすると弱そう――と思うくらいに表情からやる気がないのが分かる。東の守はそもそも今回は族長争いに参加したくもなかったらしく、やる気がまったくないそうだ。その言葉通り守主に続くほかの面子をみてもやる気は感じられない。
参加者全員を見てから、そこでアルスはふと気づいた。
「……えーと、それで現族長様は?」
これは次の族長を決める神聖な戦いである。となれば引継ぎのために前任者が見届けるのが当然だろう。族長というのであるからそれこそちょっと豪華というか目立つ席にでもいる筈……と思ったものの、そういうのは見当たらない。
「現族長は代表者として出ない場合は見ない。公平に決めるためだ」
「そうなんだ」
ちょっと変だがこの部族ではそういう考え方らしい。現在の族長は前東の守主で今回守主としても引退して世代交代するため戦わないそうだ。今回の東の守主ポートは割と嫌々守主を引き継いだというのもあってそれもやる気がない理由の一つらしい。
参加者全員が姿を見せたところで、進行役らしいものが出てきて何かを告げる。ちょっと早口すぎてわかりにくいが開始の挨拶と、代表者達に出てくるように言ったようだ。
「では私たちは行ってくる」
カヤが言って立ち上がると、シオールも立ち上がってこちらに一度目礼をしてから彼女の後ろについていく。すると空いた隣りの席にシェノンがやってきた。
「勝てそうか?」
ちょっとにやついた言い方は、真面目に聞いているというより面白がっている。
「さぁ、やってみないと分からないですね」
言っている間に各代表たちは実際の戦いの場所である戦域の中に入っていた。そこで何か説明を受けているようだったが、それが終わったら四方に散ってそれぞれ戦域内で足元の感触を確かめたり、軽く準備運動のように武器を振ったりし始めた。勿論アルスは北と西の連中の動きを注意して目で追っていた。
「で、どうだ?」
暫くみていると、再びシェノンが聞いてきた。アルスは特に返事を返さなかったが、どうやら彼女はこちらの口元に浮かんでいる笑みに気づいたらしい。
「なら、期待して見ていよう」
そういってククっと彼女も笑みを漏らした。
暫くは試合の話が続きます。




