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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
三章:森の住人
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19・裏切り者2

 レガンの考えとして――アニが捕まるところを見たというところまではいいとして、あの馬鹿な兄が、ただ捕まった筈の彼女がいたというだけであんなに説明じみた予想をわざわざ言うなんてのがあり得ない。普段のオーレアなら『何故捕まった筈のアニがいるんだ』で思考が止まる。裏切って敵になったと決めつけるところといい、わざわざその理由までつけたところといい――嘘だからこそやたら言い訳を並べているとしか考えられない。そして頭の悪い兄がこんなにスラスラと理由付けが出来たのは……多分、彼自身の事だからだ。


 兄は、殺されない代わりに自分達を探しにきた。


 決定的なのはアニの事をイキナリ『殺せ』と言った事で……どうみても、都合が悪いから口封じをしたいとしか思えない。


――信じ……たかったんだがな。


 兄の言葉に嘘や誇張はあっても、手柄を立てて自分が英雄になるためくらいの理由だと思っていた。敵に寝返っているとは思いたくなかった。


――やっぱり、そうであって欲しい、ってのを信じようとしてたんだな、俺は。


 他の面子をみても、さすがに今の言葉……特にアニを殺せと騒いだのには皆引いていて、少なくとも無条件でオーレアの言葉を信じてそれに積極的に従おうとしている者はいなさそうだった。


「兄さん、何も殺さなくてもいいだろ。まずは捕まえて、事情を聞いてみればいいじゃないか」


 レガンは慎重に兄の顔を見ながらそう言ってみる。

 兄は即座にこちらを睨んできたが、そこでやっと周囲の空気を読んだのか表情を無理矢理やわらげた。


「あ、あぁそうだな。だがあの女は口が上手いからな、言いくるめられないように気をつけないとならないだろ」


 オーレアの顔には焦りがある。嘘を嘘で上書きして胡麻化そうとしている状態だろう。


「でもアニさんも捕まっていたところから逃げてきたのかもしれないし、裏切ったって決めつけなくてもいいんじゃないか?」


 対するレガンの声は落ち着いていた。冷たさを感じる程に。焦って視線が定まらないオーレアと対象的だった。


「いや、逃げられる訳がない。役持ちや腕がいい奴らは一人づつ閉じ込められて見張られてるんだぞ、ここにいるって事は何かしら取引して解放されたとしか思えない」


 レガンはため息をついた。そんな事まで知ってるのは、実際捕まった人間しかいないだろうと。


「いいか、もし捕まえたとしてあの女のいう事を信じるな。抵抗してきたら殺られる前に殺すんだ」


 尚も焦ってやたら饒舌に騒ぎ立てる兄に向けて、レガンはゆっくりと剣を抜いた。


「おい、レガン?」


 兄もさすがにこちらの様子が変わった事に気づいたらしい。半笑いの顔で一歩下がった。


「俺は、兄さんが生きてて嬉しかった。だから兄さんを信じたかったんだ」


 言って剣を構えれば、両脇にいたパルダとモルも剣を抜く。

 兄は後ずさりながら、どうすればいいのか分からず見ているだけの連中の方をちらちら見る。


「何言ってるんだ、俺の言う事を疑うのか? おいっ、お前らっ、こいつを止めろっ」


 けれど彼等もここで無条件に兄に付くほど馬鹿じゃない。ただまだどちらが正しいか、迷っているからレガンが怒鳴る。


「兄さんっ、捕まった人間が生きてたからって、普通はいきなり裏切ったとは言わないっ。そんな発想が出てくるのは兄さんが裏切ってるからじゃないのかっ」


 レガンの言葉に納得できる分、他の連中は手を出せない。だがそれで充分だ。兄含めて三対六もあり得ると思っていたから、他の連中が向うにつかなければそれでいい。

 それに多分、こちらは三人だけじゃない。


「おい、レガン、お前そんな予想だけで兄弟を裏切り者扱いするのか?」

「だから俺はアニさんにもちゃんと話を聞いて判断したいと思ってる。アニさんをいきなり殺せって騒いだのは、彼女から話を聞くと兄さんに都合が悪いからだろっ。とりあえずアニさんに安心して出てきてもらうため、兄さんは拘束する」


 他の連中もアニを殺せと騒いだところに一番引いていたから、そこで兄を見る目に疑いの色が強くなる。こちらの目的がオーレアの殺害ではなく拘束なら、止めに入るものはいない筈だった。


「くそっ」


 ついに何も言い返せなくなったオーレアは逃げ出そうとした……が、そこへまた、ひゅっと風を斬る音がして走り出した兄の前に矢が刺さった。


――やっぱり、まだ近くにいたか。


 アニなら隠れて近くにいると思っていた。だからオーレアが逃げたり、こちらと戦う事になったら手助けしてくれるんじゃないかと思っていた。


「逃げたって事は俺の予想が当たってるって事じゃないのか?」


 言って近づいていけば、オーレアはまた逃げようとする。だが走り出そうとした方向からは、今度は矢ではなく人影が現れた。


「逃げないでよ、私の言い分とあんたの言い分、どちらが正しいかちゃんと判断してもらおうじゃない」


 弓を持った女性――アニに向けて、レガンは軽く頭を下げた。


オーレアについてはここまでに結構オカシイ発言をしているので明らかにうさん臭かったかと。

次回からは暫く、アルス側の試合の話。

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