↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クリュース建国記  作者: 沙々音凛
三章:森の住人
110/116

16・すべき事は

 村に戻るかどうかについてはアルスが戻るまでは保留、とはなったものの、オーレアの元へは既に村に行く気満々の連中が集まって村奪還の作戦を話し合っていた。そしてそんな連中と、それを良く思っていない者との間では微妙に対立ムードが出来ていて、不穏な空気が流れるようになっていた。

 レガンは基本、兄達の話に積極的に入る事はなく、努めて冷静に兄の態度や話す内容を注意して聞いていた。それをおそらく不満に思っていたのだろう、兄はレガンに言ってきた。


「アルスっていうのは、サリド様のとこのアルスだよな?」

「あぁ、そうだ」

「なんだお前、まさかあのひょろ坊主に負けたのか? なんでお前を差し置いてあっちがリーダーになってるんだ?」


 明らかに馬鹿にするような言い方は、この兄が自分を揶揄う時のお約束だ。


「皆が選んだんだ。俺は戦闘以外では役に立てないから」

「何言ってるんだ? 強い者の意見を聞くべきだって言わなかったのか?」

「選ぶ皆の大半が戦士じゃない人間ばかりなんだから仕方ないだろ。それに強さの話なら、アルスにはシオールがいる」


 そこまで言うと兄はチッと舌打ちをして向うに行ってくれたが、兄としてはレガンが兄の提案に賛同して皆に声を掛けてくれると思っていたのだろう。先ほどの嫌味も、レガンがリーダーならすんなり話が決まるのに、という思いからかもしれない。


――そこまで必死に村へ戻ろうとするのは怪しい、気もするよな。


 兄を疑ってみれば疑う余地はいくらでもある。

 ジェアに言われてから、レガンはずっと考えていた。そしてそこから、アルスに言われた言葉が頭から離れない。


『こちらにとって都合がいいこと、こうであってほしいと思うこと程疑って欲しい。そうして常に最悪の状況を想定する。そうすればなんにでも対処できるだろ』


 あの時のアルスの言葉は、人に指示を出す側に立つ気なら希望的な考えはせず、常に最悪の状況を考えて動けという事だろう。つまり、それが自分がリーダーに選ばれなかった理由だったという訳だ。

 それを踏まえてジェアとの会話を思い出せば、自分の言った言葉はどれも『こうであって欲しい』というものばかりだったと思う。


――だけど、死んだと思ってた兄さんが生きてたんだぞ、それを疑うなんて普通出来るか?


 だがもし兄が嘘をついているとするなら、それはどうしてか。

 兄の性格上、生き残った村人の中で自分が長となるために目立った手柄を立てたい、というのが一番しっくりくる。そのためにナグラックの連中の言っていた事に希望的な内容を付与してを皆を扇動しようとしている……というところか。

 だとしてもひっかかる事はある。


――確かに、アルスの事を馬鹿にして強い者の言う事をきけって考え方の兄さんが、俺達が谷に下りたのに気づけたとは思えない、な。


 ジェアの言う通り、兄が自力で自分達を追ってこれたというのは余程幸運な偶然とかでもなければあり得ない気がする。なら、どうして見つけられたのか――そこでナグラック側が自分達が下りた形跡を見つけて兄を行かせたのでは、という事を思いついてレガンは青くなった。


――まさか、兄さんが裏切ったなんて事はない筈だ。


 アルスは言っていたではないか。ナグラックの連中は、族長や有力者の身内は全員殺すと。それを考えれば兄が生きている段階で無事逃げられたと考えていい筈だ。だがそこまで考えてから、レガンは頭を左右に振った。


――だから、そうであって欲しい、って考え方はしちゃだめなんだよっ。


「くそ……」


 アルスがいれば、兄を疑うにしてもちゃんと皆に説明できるだけの根拠を話したと思うし、うまく兄に賛同する連中を止めてもくれただろう。自分がわざわざ兄を疑わずに済んだのに――そう考えてから、レガンは気づいた。


――皆の命を背負って、疑って考えるってのは、こんなにきつい事なんだな。


 村を出てからそれをずっとやっていたアルスに対して、レガンは初めて尊敬のようなものを感じていた。






そしてそこから数日後、とうとうしびれを切らした兄はレガンを呼んで言ってきた。


「レガン、いつまでも待っていれば、折角の村奪還の機会を逃すかもしれない。ここは俺の意見に賛同する者だけで村へ行こうと思う。何、敵の部隊が常駐していて奪還が難しそうなら戻ってくればいい。まずは偵察という事なら、別に今のリーダーの許可まで取らなくていいだろ」


 正直、予想はしていた。いつ言ってくるかと身構えていたくらいだった。レガンはとりあえずはやめるようには言ってみた。けれどこちらを下に見ている兄が言う事を聞く訳がない。


「お前、いつからそんな臆病者になったんだ? 確かにそれじゃ、あの腰抜けアルスにリーダーの座を取られる訳だな。いいか、お前だって見返すチャンスなんだぞ? お前が村を取り返すところで目立った活躍をすれば、少なくともお前を置いてアルスなんかをリーダーになんて意見はなくなる。いいか、決行は明後日だ、皆に知らせておけよ」


 こうなれば兄は止められない。というかレガンでは止められない。婆様や母に訴えて止めてもらうというのも考えたが、言われたその場では従ってもあとでこっそり行くだろう事は目に見えていた。


 だから今、自分がすべき事は――考えられる最悪の事態を考えて行動を決めるしかなかった。


次回はシオールの話。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。