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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
一章:旅立ち
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10・試合前の取り決め

 村の中心、つまり族長の家近くには、村の行事が行われる広場がある。特に何かない場合は、村の戦士達が打ち合わせや訓練に使っていたりする事が多く、時折諍いが起こった時にはそこで試合をして決着をつける事もあった。ちなみにレガン達まだ戦士と認められていない若造連中は通常、村の端のほうにあるいろいろ荷物を置く場所で訓練をしている。中央の広場を使えるのは、実践に出て戦士と認められたものだけだ。

 ……という事情があるのだが、クォーラとシオールの試合はその中央の広場でやる事になってしまった。


――いや確かに、相手がクォーラ様だからそうなんだろうけどさ。


 アルスとしては出来ればあまり目立たない場所で、当事者だけで決着をつける感じにしたかった。ただ、六英雄の一人でもある村の戦士のクォーラが何かを賭けて戦うのなら広場でやるのは当然の事だ。


「で、得物はどうする?」


 族長であるギナンの隣で、父サリドがそう聞いてくる。

 約束の日の二日前、今回の戦いの方法について細かい取り決めを確認するため、アルスとシオール、そしてクォーラは族長の部屋に呼び出されていた。ちなみに族長のギナンは当然この村の最高権力者であり最終決定権を持っているが、それなりに高齢な上足を悪くしているのもあって、現場としての村の事は殆ど父達六英雄が取り仕切っている。


「勿論、武器はそちらに選ばせてやる」


 クォーラがそう言ったから、アルスは笑顔で言う。


「シオールは槍を使うそうです」


 それに応えてクォーラも口を開……こうとしたところで、アルスはすぐさま続けて言った。


「クォーラ様は勿論剣ですよね」


 ピクリと相手の目元が引きつる。そこで後ろに控えていたシオールが言ってくる。


「アルス様、基本的にこういう勝負では同じ武器を使うものです」

「えー、でも結構違う武器でやってるのも見た事あるけどなぁ」

「ですが……槍と剣では間合いに差がありすぎますので……」


 勿論、このやりとりは打ち合わせ通りだ。


「いやでも『剛剣のクォーラ』が明らかに格下のお前相手に、間合いを考えて自分も槍にするなんて言い出す訳ないじゃないか」


 クォーラのこめかみ当たりがぴくぴくと何度も痙攣している。この男は確かに戦士として腕はいいが、悪い意味でも戦士らしく、単細胞でプライドが高く、気が短い。


「ふん、そちらに合わせてやろうと思ったんだがな」


 そう言ってくるのも想定内だ。


「でもそれって、負けた場合の理由にもできますよね。いつもの武器じゃなかったからって」

「なんだとっ」

「クォーラ、族長の前だぞ」


 流石に怒ってこちらに殴りかかる勢いのクォーラを父の腕が制する。そこで引いて一度こちらを睨むと、クォーラは無理やりつくったような笑みを浮かべて言ってきた。


「いいだろう、それならこちらはいつもの剣で相手してやる」


 予想通りの答えが返ってきて、アルスは内心安堵する。


「では、武器はクォーラが剣、シオールが槍という事で良いな。一本勝負、審判役は俺がやる」


 その宣言に同意の声を上げれば、父サリドは族長に改めて伝え了承を取る。


「では、双方とも、当日は戦士として恥じぬ戦いをするように」


 お決まりの台詞とはいえ族長のその言葉には、はいと答えつつも内心ちょっと後ろめたい気分にはなったが。

 とりあえず、第一段階はクリアである。







 アルスとしてはこの勝負、ひっそりやって決着は誰も知らないで――というのがベストだったのだが、それはもう無理と分かっている。しかも困った事に、勝負については思った以上に既に皆に広まってしまっていた。


「おいアルス、お前の奴隷がクォーラ様と戦うんだって? 大丈夫なのか?」


 勝負の前日、森にいこうとしたらたまたま朝の鍛錬にやってきていた戦士連中と広場であってしまって、アルスとシオールは取り囲まれて揶揄われる事になってしまった。


「よし俺がいい事を教えてやる、クォーラ様は面食いだから顔は絶対狙ってこない。覚えとけ!」

「クォーラ様はカッカしやすいからな、適度な挑発はありだぞ」

「ま、挑発しすぎると大けがするかもしれないけどな」


 なにせ格下が格上に挑むのであるから、基本的に戦士たちはこちらを応援してくれているらしく、アドバイスとか励ましの言葉を口々に言ってくる。それ自体はありがたくはあるのだが、背中とか肩とか頭とかをばんばん叩かれるのは勘弁してほしい。というか自分はまだいいが、シオールを叩いてる連中は彼の肩やら腕を掴んで揉んだりしはじめる始末で、アルスの頭の中が『ヤバイ』という言葉で埋め尽くされる。シオールの忍耐力が持つ間に、大至急どうにかしなくてはならない。


「あーはいはい、戦士様方っ、それくらいで離して下さい。シオール相手にそんなにベタベタ触ってるとそーゆー趣味の人間かと思われますよっ」


 言うと彼らはぱっとシオールから手を離して周囲を見た。この広場自体には訓練中なら戦士以外は入ってこようとはまずしないが、村の中心にあるから周りには結構人が行きかっている。

 アルスはすかさずシオールの手を引っ張るとさっさと広場から逃げ出した。


「じゃ、当日までに特訓があるので、俺たちはこれで~」


 そうしてどうにか広場からは逃げられたものの、今回の勝負は戦士ではない者達にも広まっているようで、村をつっきる間にもあちこちから声が掛かる。


「見に行くからな、がんばれよー」

「そっちの細いのがやるのか、大丈夫か?」

「力つくようにいいもん食べさせてやるんだよ」


 基本的には好意的ではあるものの、どれもシオールが勝てるとは思っていないからこその応援ではある。あまり本人に聞かせたいものじゃない。幸いな事にこの時間は声を掛けてくる人間も大抵何かの仕事の途中であるから、追いかけてきたり捕まえたりしようとするものはおらず、とにかくアルスはシオールをひっぱってさっさと村から出ていく事にした。

 だが、もう少しで村を出られると思ったところで声を掛けられてしまった。


「アルスロッツ様っ、待ってくださいっ」


 これがいつものレガンとかマーナだったらそれでも逃げたところだったが、どう考えても無視したら問題がありそうな声だった事でアルスは足を止める事にした。


ちょっとキリ悪く次回へ続きます。

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