14・面倒な予感
いくら二度寝を許してもらったといっても、そこでアルスも心置きなく二度寝……をした訳ではなかった。いや、実際うとうとはしていたが眠ってまではいなかったというのが正解だ。ひたすら惰眠を貪りたいというより、まだかったるい寝起きの状態で寝転がりながらいろいろ考えるのが好きなのだアルスは。
そこへ『朝食だそうです』とシオールが起こしに来たのはいいとして、彼がやたら不機嫌そうな顔だったのでアルスはその理由を聞いた。聞いた途端、笑ってシオールに睨まれたのはおいておいて、今日カヤと話す時にそれとなく聞いておくと約束した。
『こういう事は俺から聞くのは失礼ですし、あの男のただの勘違いの可能性もありそうです。口の上手いアルス様から確認していただけると嬉しいです』
半分嫌味のお願いは彼らしい。
――ま、実際のところ彼女はここの偉い人間な訳だし、他部族の強い人間をみつけたら身内に引き入れようというのは割とありがちな話だ。
そのために女性の権力者と婚姻する、というのも普通の流れだ。勿論アルスはシオールを彼女に渡す気はないし、シオール自身もその気がないのは分かっているからその場合は断るしかない。だから、向こうが本気でそのつもりだったら、少々揉める可能性はある。
――んー……確かに、面倒といえば面倒かなー。
朝食が終わった後、アルスは例の試合についてだけではなく、この部族についての話をカヤに詳しく説明してもらう事になっていたから、こっそりとその件について聞くなら丁度良くはある。ちなみにシオールは一緒に試合に出る二人を特訓しつつ、ここの部族式の一般的な今までの戦い方を教わる事になっているから一緒ではない。
ただまずそちらにシェノンが行ってしまったから、少し彼女を待たなくてはならなくなったのだが。
――俺もここの言葉を出来るだけ覚えないとなー。
シオール達の方は最初の説明だけで、あとはシェノンにはずっとこちらに付いてもらう事にはなっているが、こちらは話が通じなければ何も出来ないので不便な事は確かだ。カヤと待っていても話が通じないのでは微妙な空気になるし、今後はこういう待ち時間で言葉を習うべきだろう……と、そんな事を考えていたところで、やっとシェノンが戻ってきた。
「さて、待たせて悪かったな」
とりあえず無言で待っている状態だったので、アルスは正直ほっとした。
それはカヤのほうもだったようで、彼女はシェノンに何かまず話しかけて少し長く会話していた。とはいえシェノンが通訳をしてこなかったのでアルスへの話ではないらしい。それでもアルスがじっとシェノンを見ていたら察しのいい彼女は気づいた。
「何、他の連中の評価についてあの銀髪の坊やが何かいってなかったか聞かれただけだ」
「シオ、何かいってました?」
「一応一人づつに対して感想は言っていたぞ。一人はかなり見込みがあるがもう一人は厳しい、他にいい人間がいないならサポート役に徹してもらうと」
見込みがある方は朝にも見たサナグスだろう。ただ折角ここでシオールの話が出てきたなら例の件も聞いてしまえとアルスは思った。
「えー、シェノンさんちょっとカヤさんに聞いてもらっていいかな。シオールは今回の族長決めの勝負に限ってそちらに貸すだけで、終わったら俺達と一緒にここを去る事になる、それは承知しているかって」
「分かった」
そこからすぐ、返事は返ってくる。
「『勿論、承知している』そうだが……『誰かに何かいわれたのか』だそうだぞ」
それには正直、アルスは返答に困った。ただ彼女みたいな人間には、へたに胡麻化そうとしない方がいいと判断した。
「シオールがそちらの戦士に、カヤ様を頼む、なんて意味深な事を言われたそうなので、どういう意味なのか確認したかったのです」
それをシェノンが告げると、相手は顔を顰めて大きなため息を吐いた。そこから何かいろいろ言っていたが、シェノンはそのまま彼女と会話をしていてこちらに話を伝えてこなかった。暫くは待ったのだがあまりにも何も言ってくれないので、アルスが見せつけるように咳払いをしてみれば、やっとシェノンがこちらを振り向いた。
「それを言ってきたのはサナグス、という人物で合っているか?」
「えぇ、そうですけど」
シェノンは何か含みがある笑みを浮かべている。それだけで嫌な予感がした。
「サナグスはカヤの許嫁らしい」
「え?」
思わずうわぁ、と呟いてしまってから、アルスはちょっと面倒臭い事になりそうな予感に顔をひきつらせた。
サナグスの思い違いの件はこの章ではここまで。
次回は居残り組の方の話。




