12・南の守
朝、寝ぼけ眼で部屋から出たら、いきなり木の上でアルスは危うく落ちそうになった。
「うっ、わぁっ」
それで一気に目が覚めた。というか頭がはっきりして思い出した。
昨夜自分達は『森の住人』と呼ばれる集落の中、南方面を守る南の守と呼ばれる『家族』のところに泊まったのだと。そして寝る前にその南の守の主であるカヤという女性と約束をした事も。
「てやぁっ」
そこで勇ましい声が聞こえてきて、アルスは下を覗き見る。
見れば、村の青年が木の棒を構えて必死に向かって行って……いる相手はシオールだった。
――えー、もう稽古つけてやってるの? シオがそんなにやる気あるとは思わなかったなー。
よく見ればシオールが相手をしてやっている青年は、出会いがしらでこっちを襲ってきた内の一人で、一番最後までシオール相手に粘った奴だ。確か名前は……サナグス、だったか。
アルスは昨日、寝る前に聞いた族長争いについての話を思い出す。
まず族長決めの勝負では各陣営、戦士三人、弓役一人の代表を出す。戦士三人は戦域と呼ばれる地面に引かれた枠の内側で戦う訳だが、武器は木の棒を使う。弓役は枠の外から鏃の代わりに衝撃を和らげる素材がついた矢を放つ。戦士については、戦域から出てしまったり、尻か背中を地面につけてしまったら脱落。どちらかの陣営が戦域内に一人もいなくなるまで戦う。
そのルールを聞いた時、アルスは聞き返した。
『弓役は脱落はないんですか?』
『あぁない、だから弓が邪魔で無効化したい時は、わざと弓役が相手の弓役を狙ったりする』
確かに、接近戦に自信があって弓を邪魔だと考えるならそれはアリだ。
『鏃ではないから怪我はしないが、矢が当たれば痛いし痣くらいにはなる。集中して狙われたら身動きは取れない』
そういって見せてもらった矢は、鏃の代わりに弾力のある木の重りのようなものがついていた。確かに刺さる事はないだろうが衝撃はありそうだ。それから一応、戦域の大きさも練習用の戦域を実際見て確認させてもらった。三対三で戦うには狭いかとも思ったが、それよりも弓役の近さの方が気になった。あの距離からの攻撃なら確かに相当痛い。
ただアルスとしては、そこまで聞いてまず思った。
――殺し合いをしないで戦うルールとしては結構良く出来てるんじゃないかな。
原型は何代も前の族長が決めたものらしいが、そこから危険を排除するためにルールを追加していって今の形で暫く続いているらしい。しかも族長の任期は四年と期限が決まっているから、四年ごとにこの戦い――というか試合をする事になる。
――本物の戦いでないから定期的にやれるし、任期が決まっているからろくでもない奴が族長になっても引きずり落としやすい。うん、この部族のためにいい族長を選ぼうという制度としては悪くないよね。
族長候補は四つの守の守主達。それだけ候補がいれば不正もしにくいし、一派閥の暴走があっても止められる。しかもこのルールには、また面白い事項があった。
『代表の戦士は別に自分の配下でなくてもいい。部族以外の人間も一人までなら認められている』
『だからシオールを貸してほしいって事なんですね』
『そう。強い代表者を出せるという事は、それだけそこの守主の人望があるという事だと言える。ただそれで昔、全員部族外の人間を雇って出した者がいたから一人だけというルールが追加された』
確かに外部の強い人間を雇うのは勝つ手段としては手っ取り早い。となれば当然報酬を多く出せるかの勝負になり……そういう意味では、彼女が考えていた客人からの守護料を取るというのも、外部の人間から選ばれるような仕事をしている者が裕福になるという図だから理にかなっている。
――うん、面白い。
聞けば聞くほどこの部族についての興味が湧いて来て、そういう理由もあってこの南の守のカヤに協力する事をアルスは決めた。ただしそうするからには彼女には絶対に勝ってもらわないとならない。シオールをただ貸すだけではなくアルスも徹底的に出来る事はするつもりだった。まず今日は彼女に、今までこのルール内でどんな戦い方があったかを聞く事になっていた。
「アルス様、起きたのですか」
下からシオールにそう言われてアルスは思わず手を振る。
ただ振ってからちょっとしまったと思わないでもなかった。気づかれる前に二度寝という手もあったかなーとも思ったが、一度でも下を覗いたらシオールは絶対気づいているだろうから無理だと結論を出した。
ここからアルス達は南の守のところに暫く滞在します。
次回はシオール視点。




