11・オーレア
レガンの兄弟――ドトルの子供は男三人で、レガンは末っ子である。上二人は既に戦士として認められていて、上の兄ラッザは父のサポート役を、下の兄のオーレアは兄程強くはないが足は速くて神速のエッシの下について伝令や偵察役をする事が多かった。
だから、父の傍にいたであろうラッザより、オーレアの方が生きていたのは分かる。
「オーレア、貴方、無事で……」
兄が合流すると皆やはり喜んで、特にいつもはあまり目立とうとしない母アリダが真っ先に走ってきて兄に抱き着いた。
「母さんごめん、父さんや兄さんは……」
「いいのよ、貴方が助かったのだって奇跡なのですから」
暫くは皆も母に遠慮して遠巻きにしてくれていたが、兄が母から離れた途端、一斉に皆が兄を取り囲んで、戦の様子や、村がどうなったのか、誰が生きていて誰が死んだのか、次々に質問を浴びせだした。それらを一通り聞いて皆が落ち着くのをまってから、とりあえずオーレアは戦について話し出した。
「……それで皆を逃がす時間を作るため、俺達はドナ様の家の前にバリケードを作った。これはもとからそう決めてあったことで、だからドナ様の家の裏にはいろいろガラクタみたいなのが積み上げてあっただろ?」
「あれはそのためのものだったのか!」
「そう。そこに篭ってやってきた連中をかなり倒した。そうしたら敵の偉い奴からここで一番の戦士と一対一の勝負でケリをつけようって話が来たのさ。勿論そこはサリド様が出ていった。結果は……そこでサリド様は命を落とした」
そこまで聞くと皆嘆き、あちこちからすすり泣く声が上がった。それから皆が落ち着くのを少し待った後、オーレアは言った。
「とりあえず、戦いの決着はそれでついた。約束通り皆投降して武器を捨て、その場にいた残りの戦士達は拘束された」
聞いている者達は悲しい顔をしてはいたが、それでもその言葉は少しの希望を残した。
「なら……生き残っている者は他にもいるんだね?」
「あぁ、かなりの人数が生きてて、村の中に拘束されてる」
「なぁ、うちのグロットは生きているかい?」
「うちのカカダは?」
一人がそれを言いだせば次々と自分の身内の無事を聞いてくる者が続出して、そこでちょっと収集が付かなくなった。だから婆様が一旦黙らせて、それから一人づつ質問するようにしたのだが……それでかなり遅い時間になってしまった。
「皆、これくらいにしとこう。オーレアさんはずっと一人でここまで来て疲れているだろうし、今日はゆっくり休んでもらったほうがいい」
だからある程度のところでジェアがそう言って話を止めて、それで一旦夜の見張り役を除いて皆寝る事になった。こちらを気遣ってか、今夜はジェアが夜の見張りを買って出てくれたのだが……レガンは、丁度寝に行こうとしたところで彼に呼ばれた。
「レガン、ちょっと見張りの事で相談したいんだが」
レガンは兄を振り返ったが、こちらが何か言うより早くジェアが兄に言った。
「お疲れだと思いますので、今夜の見張りはこちらに任せてオーレアさんは寝てください。その分明日以降は頼りにさせてもらいます」
それで兄はそのまま他の皆と一緒に寝床として掃除していた方へ向かった。レガンはそのままジェアに連れられて見張りのところまでやってきたが、皆と十分離れた事を確認してからジェアが小声で聞いてきた。
「すまない、レガン。冷静に考えたお前の意見を聞きたい。お前の兄、オーレアさんの性格だが、割と戦士らしく、あまり細かくモノを考えるタイプではなかったと思うんだが」
「……確かにそうだが、要領は良い」
わざわざそんな事を彼が聞いてくる理由は、レガンでもすぐに察した。
「だが、いろいろ策を考えるようなタイプではないだろ?」
「それは……そうだが」
「いいか、怒らないで聞いてくれ。 現状、俺達が逃げるために谷を下りた、っていうのは追手が来てない段階でナグラックの連中はまだ気づいてないと思っていい。となると、その連中も気づかなかった事に、オーレアさんが気付けたとは思いにくいんだ」
そこでレガンは一瞬、頭に血が上りそうになった。
だがどうにか自分を宥める。
「……兄さんを疑ってるのか?」
「念のためだ。レガン、俺達は皆を守るのが仕事だ。兄弟を疑われて怒るお前の気持ちもわかる、失礼な事を言ってるのも重々承知だ。だが一番優先すべきは皆の安全なんだ、疑わしいところが少しでもあれば完全に気を許すべきじゃない。だから……お前が兄弟として、いつものオーレアさんと少しでも様子が違ったり、なにかおかしい事があれば教えてほしいんだ」
「別に……今のところは何もない。兄さんの役目的に決着がついたその場にいないのはあり得る事だし、そこから逃げたのなら生き残れていておかしくない」
「そうだな。だけど……村の作り的に、敵に占拠された状態でこっそり逃げられると思うか? いや、俺も否定しているんじゃない。ただの可能性として頭に入れておいてくれって話だ。問題ないって、確信出来る事があったらそれを言ってくれてもいい、俺だって疑いたくないんだ。だからもし、少しでも引っ掛かる事があったら教えてほしい。俺に直接話すのを見られたくなければ、合図をくれれば後でトレックを行かせる」
レガンがそこで黙れば、ジェアは肩を叩いて今度は小声でなく言ってくる。
「話はこれくらいだ。寝るのを邪魔して悪かったな、おやすみ」
「……あぁ、おやすみ」
そう言ってレガンも寝床の方へ向かった。
ただ頭にはジェアから言われたことが残っていて、すぐには寝付けそうにもなかった。
――アルスがいたら、やはり兄さんを疑ったんだろうな。
アルスは言っていた、こちらにとって都合のいいこと程疑えと。
彼はまだ帰って来ていない。梟もやってこないから、無事に現地の人間と接触して交渉しているのかもしれない。
今アルスがここにいないのが幸運なのか不運なのか、レガンには分からなかった。
次回から何話かはアルス側の話になります。




