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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
三章:森の住人
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10・森の住人

 本当に、嫌な予感というのは良く当たる。

 アルスはしみじみ思った。


「で、どうする、だそうだぞ」


 シェノンがこちらを見て言ってくる。その発言をしてきた人物は睨むようにこちらを見ている。アルスは腕を組んで唸った。


「んー……とりあえず考えるからちょっと待って欲しいと言って貰えます?」

「分かった」


 すぐにシェノンは向うの女性、『森の住人』の南の守のカヤ、と名乗った彼女に尋ねてくれる。そしてそれはすぐに了承はされた。


――で、問題はどうするかなんだけど。


 アルス達一行はとりあえず彼女の家に連れてこられて飲み物や果物でもてなしてもらった訳だが、そこで彼女から言われた『協力してほしい事』というのが……早い話が族長争いの助太刀だった。つまるところ、族長を決める戦いでシオールを向うの戦力として貸してほしいという訳だ。


「協力するもしないも、俺はアルス様の決定に従います」


 当の本人はそれだけで、嫌だとは言ってこない。多分彼としては、自分一人が出る事で全てが解決するならそれでいいと思っているのだろう。

 アルスとしては他所の戦いにシオールを貸すなんて、と思うところではあるが、悩んでいるのはそれが殺し合いの戦いではないからだった。なんでも彼女の部族で族長を決める戦いは、ルールにのっとって勝ち負けを決める試合形式で行うものらしい。

 勿論武器を使って戦うのだから死ぬ可能性がないとは言えない。事故はあり得る、もしくは事故に見せかけて殺す事もある。それでも刃物は使わないし、なにより最初から相手を殺すつもりの戦争ではない。


「んー……正直に答えて欲しい、現状だとそちらの勝率はどれくらいなのか? それと、族長になったら貴女は何をしたいのか?」


 シェノンを通して、答えはすぐに返ってくる。


「現状ではまずうちが勝てる見込みはない。東西南北4つの守の内、うちは3位くらいだろう。だが、戦力的にこちらより上の、北のアッダラと西のクォットは好戦的で、近くの部族や旅人を勝手に襲っては現族長にたしなめられている。彼等を族長にはしたくない」


 彼女の勢力がそこまで強くない事は、シオールを貸せと言ってくる段階で予想は出来ていた。だからそこはいいのだが。


「では、もし貴女が族長になれたとして、今でも暴走しているその連中を貴女は止められるのですか?」


 そう、現在の族長がたしなめるだけで終わっている段階で、彼女が族長になってもそうなるだけではないのか。

 さすがにそれには向うもすぐに返してこない、苦い顔で考え込んでいた。返答を急かす素振りもなくアルスが大人しく待っていれば、向こうもやっと途切れがちに返してくる。


「現在、南の守、という名の通り、我々は村の南、主に川沿いにやってくる人間や危険動物達から村を守っている。北の守、東の守、西の守もそれぞれ村のその方角を守っている。守護範囲の境界はあいまいだが、まず私が族長になったらきっちり区切ってそれぞれの守護範囲には許可なく入ってはいけないようにする」


 どうやら覚悟を決めて、彼女が族長になった後に行おうとしている政策を話してくれるらしい。


「それで最近、我が村で作る布や、干し魚、干し肉等が、他村と取引材料として使える事が分かった。それを積極的に行っていきたい。そのために村に外の人間を呼んで、村人と取引をしてもらおうと思っている」


 ここまでなら、族長として村を発展させるための構想としてはいい案だ。だがこれがアルスの質問への返しなら、それだけではない筈だった。


「村へくる者が東西南北それぞれの守の守護範囲に入った段階で、担当の守はその客人を安全に村まで案内する義務がある事にする。その代わり、客人からは守護料を取れる。守護料についてはそれぞれの守が決めていい。更にどの方向の守が何組客人を連れてきたかを記録して、定期的に会議で発表する」


 正直、彼女のその策の意図に気づいてアルスは感心した。思わず口に出す。


「守らないで襲ったりすればその守の守護範囲から客人は入ってこない。高すぎる守護料をとっても同じ。会議で自分達が客人から避けられているのをつきつけられれば、彼等も客人からいい評判を得ようとする筈……ってとこかな?」

「そう、それで彼等が誠実な仕事をするようになればいい」


 今度は即答だ。

 確かに、なかなか案としては面白い、けど。


「ただ人を呼んだからといって、そんな簡単に取引をしにくる人間が増えるのかな?」


 それをシェノンから聞かされた途端、発言者の彼女の顔が得意げに笑みを浮かべる。


「我々が肩からかけているこの布だが、いい色だろ? この染めで作ったストールが、都では大人気だそうで、取引したいという話がたくさん来ている」


 アルスは目を見開いた。ストールの話ではなく、『都』という言葉にだ。


「都、ってどこの事ですか?」

「ここからずっと東にグルーマーという国があって、そこで一番大きい、王がいて直接収めている集落の事だそうだ」


 アルスは東方面の国の話は聞いた事がなかった。だがあったとしてもおかしい話じゃない。そのグルーマーという国へ向かう足掛かりとしても、彼女に協力するのはありだと思えた。

 だからアルスは、今度は彼女に協力するつもりがある前提で族長を決める戦いの細かいルールを聞く事にした。


次はまたレガン達側の話。

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