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クリュース建国記  作者: 沙々音凛
三章:森の住人
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8・遭遇2

 彼等は一斉に前に立つシオールに向けて斬りかかってくる。だが、そんな完全接近戦の装備で槍のシオールに近づける訳がない。シオールはわざと槍刃を向けず、柄だけで三人ともを簡単に叩くなり、吹っ飛ばすなりして地面に転がした。


「***っ」


 ただその中で一人だけ、倒れたと同時に即起き上がった者がいた。どうやらふっとばされたのも槍の攻撃をまともにうけないためにわざとだったらしい。


――うん、あの一人だけはちょっと動きがいいかな。


 それでも勿論シオールの敵ではない。その一人がさっきまともに食らわずに済んだのは、三人同時にかかっていったからだ。一対一ではシオールの動きに反応するのすら難しい。

 とはいえ、その人物はかなり粘りはした。

 シオールが槍の柄で叩きに行く。それを左手の盾で受ける。ただ受けきれなくてよろけたところで今度は槍の突きがくる。急いで後ろに体だけを引いてどうにか避けたものの倒れるしかなく、それでもその人物は受け身を取ろうとしたのだが……次に来たシオールの槍は彼の足を狙ってひっかけた。

 それにはどうしようもなく、相手は地面に大の字で倒れた。だがそれでもその人物は、足で反動をつけてすぐに起き上がった。

 勿論、起き上がった途端、その喉元に槍刃がつきつけられて終わりだが。


「***********っ」


 そこで草むらから声がして、もう一人の人影が現れた。声からもそうだが、シルエット的にもどうやら女性のようだ。ちなみにシオールと戦っていた三人は全員男だろう。


「何者だ、だそうだ」


 シェノンに言われて、アルスはすぐ頼んだ。


「俺達はずっと遠いところから逃げてきた、ここを通り過ぎたいだけだって返してもらえます?」


 それに対する返事をせず、彼女は向うの人間に言葉を返した。

 すると向うの女性はまた何かを叫び、それから段差を飛び降りるとこちらに向かってゆっくり歩いてきた。背には弓、腰に剣はあるが抜いてはおらず、戦う気はなさそうだ。


「多分あの三人に、戻れ、と言ってる」

「あー」


 これは交渉出来そうかな、とアルスは思った。なにせ襲ってきた三人は、こちらを本気で殺す気がなかった。もしその気があったのなら、あの装備でこちらに接近戦を仕掛けてくる訳がない、そのままひたすら矢を撃ってくる筈だ。だからシオールも叩いたり突く時は槍刃を向けなかった。


――こちらを追い払うための威嚇か、それともこちらを試したか。


 少し考えて、アルスはシオールに槍を下ろすように言った。

 そうすればすぐに槍を突き付けられていた男は向うの女性の方に向かった。残りの二人もどうにか起き上がると同じく彼女のもとへ向かった。

 その女性は顔が確認できるくらいまで近づくと立ち止まって、やってきた部下らしい男三人に何かを言った。彼等は彼女に謝罪のような所作をしたあと、彼女の横について跪いた。……それぞれまだ痛いところを押さえていたり、体を丸めていたが。


「***********……」


 今度はこちらを向いて、向こうの彼女が何か言ってきた、しかも長い。思わずアルスがシェノンを振り返れば、彼女は向うが言い切るのを待ってから通訳してくれた。


「先ほどは失礼した。そちらが優秀な戦士であり、しかも無暗に相手を傷つけない思慮も持ち合わせた人物であると判断した。あなた方の言葉を信じよう」


 どうやらこちらを試した――方らしい。となるとちょっと面倒な事になりそうでアルスは微妙に警戒しつつ相手に返す。


「信じてくれて感謝します。こちらは攻撃されない限りあなた方に危害を与える気はない、ただここを通るのを許してほしいだけです」


 すかさずシェノンが向うの言葉にする。向うは一瞬考えているような素振りを見せたが、また何か長い言葉を返してきた。なんだかすごい嫌な予感がする。


「我々としてはここを通す事に問題はないのだが、他の者が攻撃するかもしれない。そうなればこちらでは止められない」


 あー……やっぱりそうなるのか、とアルスは顔をひきつらせた。

 身内ごとに固まってるというところから予想は出来たが、部族全体に許可を取るのはかなり難しそうだ。それでも一応確認はする。


「そちらの族長様に許可を取れば、我々が通る事をそちらの部族全員に認めて貰えますか?」


 それを聞いた相手は明らかに不快そうに顔を顰めた。答えは否定だろうと思うが、その理由が族長にその権限がないとくるか、族長に当たる者がいないとくるかが問題だ。シェノンも面倒な事態になりそうな事が予想できたのか、顔を顰めてこちらに言った。


「残念ながら部族全員に命令を出しても、それが守られる保証はない」


 これはアルスも少し困った。族長自体がいないのか、族長はいても権限がないのか、その言葉だけでは分からない。


「そうですか。それならこのまま進んで誰かに呼び止められるたびに交渉するしかないのですね」


 今回接触した彼等は話が分かりそうだが、部族の中でも力がない方なのかもしれない。となればもう少し力のありそうな人物に会える事を願って進んでみるのも手だろう。

 すると向うはまた長い言葉を返してきた。その表情が今までと違って、こちらを値踏みするというか……交渉のような感じだったからアルスはかなり警戒した。


「そういえばあなた方は実はもっと大勢いるのではないか? 先ほど大勢のよそ者がここにいたと報告を受けている。となると、その大勢を守って毎回交渉するのは大変なのではないか?」


――あー……やっぱバレてたか。


 見張りがいたならバレてるかも、とは思っていたから驚く事ではないが、この言い方だと向うは何か提案があるみたいだ。ただこちらからそれに食いつくのは良くない。


「正直、厳しいですがそれしか方法がないならそうするしかありません」


 だからそう返せば、すぐに向うから話を続けてくる。割と切羽詰まった何かがあるのかもしれない。


「あなた方が我々に協力してくれるなら、この辺りの行き来を好きに出来るようになるかもしれないし、あなた方の仲間全員を客人としてもてなしてもいい」


 うわー絶対にヤバイ話だよなこれ、とは思ってもここで協力内容を聞かないという選択肢はない。仕方なくアルスは向うの提案の詳細を聞く事になった。


次回は残してきた皆の方の話。

ここからは基本、アルス側の話と、残してきた面々の話を切り替えつつ進んでいきます。

ややこしくなるので、こっちが二手に分かれている間はゼラ側の話は入ってきません。

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