7・遭遇1
「やはりこれは人が踏みしめて出来た道ですね、獣道ではないでしょう」
シオールのその言葉にアルスは眉を寄せる。
草むらをかき分けて出来た道は丁度人一人が通れるくらいのもので、獣道の可能性もありそうだからシオールに見てもらったのだが。
「それにここに人の足が踏んだ後があります」
言われて見てみれば道の脇、土が出ているところに人間の足跡らしきものが見える。どうやらここの住人の履物は草っぽいものを編んで作っているらしい。
「で、川の方のは……どうみもて人の手が入ってるよね」
「自然ではそうならないでしょうね」
この辺りになると普通に歩いて渡れる程度の深さしかない川の中には、石を積み上げて段差が作ってあった。ところどころ上の段を抉って道を作っているところをみると、それを使って魚を取っているのだと予想出来る。
「じゃやっぱり住人がいるのは確定だね。あとはどうやって接触するかかな。うーん、一人二人とか、少人数で誰か来てくれたら声掛けやすいんだけどね」
「そう簡単に上手くはいかないとして、どうしますか?」
シオールの質問の意味をアルスは正確に理解した。
「そうだね。一応住人がいるなら接触するつもりで来たから……こちらの方針としては、ここで隠れて誰か来るのを待つか、そっちの森の中に入って集落を探してみるか、になるよね」
「はい、どちらにしましょう」
「前者だといつ人がくるか分からないからね、集落を探しにいこうとは思うけど……」
言いながらアルスはシェノンの方に視線を移す。
「その前に、この辺りの住人について知ってる事を教えてもらっておきたいな、とか」
黙っていた彼女は、そこで表情も変えずに口を開いた。
「具体的にどういう事が聞きたい?」
「ここの住人に関する事なら何でも」
にっこり笑って即答すれば、彼女は僅かに眉を寄せてため息をついた。
「ここらに住んでるのは自称『森の住人』で、家は木の上に作って、主に狩りや魚を取って生活している連中だ。皆で集まって大きな集落を作っている感じではなく、割合広範囲に、血縁ごとにまとまった家の集まりが点在している」
「住人の傾向とかってわかります? 排他的とか、外部の人間にも友好的か、とか」
「……今の説明を聞いて友好的だと思うか?」
「ですよねぇ」
木の上に住んでる用心深さといい、同族内でも血縁同士でまとまって他と距離を取っているところといい、排他的で警戒心が強い連中……なんだろうなとは予想出来る。
「まぁでも、やっぱり先に聞いておいて良かった。聞いてなかったら上にある家を探そうとはしなかったと思うし」
「確かに」
頷いて呟いたのはシオールだ。聞いてなければ普通に下を探してしまうだろうから、上に気づくのは遅れた可能性はある。
「そういえば連中は……」
そこで唐突にシェノンが何か考え込んだから、すかさずアルスは彼女に聞く。
「何か他にあるんですか?」
彼女はこちらを見てにっこり笑う。
「いや、大した事じゃない」
怪しい。絶対何か隠している、しかも大した事あるものを――とはいえ更に追及しても教えてくれないだろうことは分かっている。シオールを見れば彼もアルスと同じことを思ったのかシェノンを睨んでいた。ただいくら睨んだところで彼女が全く動じないのは彼も分かっている。
「……そうですか」
アルスはため息と共にそう返すしかなかった。
基本的に彼女はこちらに協力的である。そして彼女はこちらが思った以上に情報も手段も持っている。だがそれは手放しで提供してくれるものではなく、彼女が定めた基準をこちらが満たしたらその分だけ提供してくれる――確信している訳ではないが、アルスはそう感じていた。
「話が終わりでしたら、集落を探しに行きますか?」
シオールが言って、森の方へ顔を向ける。
「そうだね。行こうか」
けれど、そうアルスが言っても彼はそこから動こうとしなかった。じっと向うの森……その前にある草むらを凝視している。それが示す意味を分からないアルスではない。シオールの視線の先をじっと見つめれば、背の高い草が一部、揺れた気がした。
――これは探しにいく手間が省けた、と言えるのかな。
なんて考えながらも、これで向こうが攻撃的で話の通じない人物だったら最悪だ。ただシオールが気付いたところでアルスが気付けなかったところからして、大人数という訳ではないと思う。
なんて考えたら、ひゅっと空気を裂く不穏な音が聞こえた。矢か――と思った直後に、それはシオールの槍に叩き落とされる。
――うわこれ最悪のパターンかも。
なんて思いながらもアルスは背負っていた盾を取り出した。
だが、待っても次の矢はこない。
どういうつもりだと悩みだしたところで、見ていた草むらから急に三人の人影が生えた。おそらく伏せていたところから立ち上がったのだろう。戦士っぽい感じはあるが、防具はつけていない軽装ばかりで、全員鮮やかな青い布を左肩に掛けてベルトで止めているのが印象的だ。
それから即、三人がこちらに向かって段差を飛び降り、走ってきた。
「アルス様、シェノン様は後ろへ、俺一人で問題ありません」
確かにシオールの敵ではない、と走ってくる連中の姿だけでアルスも思った。
三人共、武器は片手剣、盾もあるがうちの村で使っていたものよりももっと小さくて四角く、手に持つのではなく左腕に固定されているようだった。剣の方も短めで少し長めの短剣といったほうがいい。全員が背中に弓を背負っているところからして、ここでは弓が主流で、あとは懐に入って戦うみたいなスタイルなのだと思われた。
ってことで、他部族との遭遇、これはもう一話。




