(12)鉱脈
ピザを出して女性陣を満足させたシゲルは、アマテラス号の自室に入って『精霊の宿屋』のチェックを行っていた。
最近の『精霊の宿屋』は、大きな変化を行っていない。
敢えて挙げるとすれば、中央部に作っていた薬草畑を拡大したくらいだが、全体の面積に比べれば大した大きさではない。
ではなぜ大きな調整をしていなかったかといえば、理由は二つある。
一つは、今でもきちんと周囲の探索を行っている契約精霊たちだが、目新しい物を見つけていないということがある。
設置できる物が増えれば、それだけ『精霊の宿屋』に変化を与えられるので調整する意味もあるのだが、同じ種類のアイテムで多少の変化を与えてもあまり意味がないのだ。
もう一つは、以前設置した鉱山に鉱脈を設置するために精霊力を貯めていたのだ。
一つの鉱脈を設置するためには、かなりの精霊力を必要とするために今までの時間がかかってしまったというわけである。
鉱脈を設置しても十分なほどに精霊力が貯まっていることを確認したシゲルは、さっそく北西の山にリート石の鉱脈を設置した。
「これでよし……っと、あれシロ、ってうわっ!?」
シゲルは、鉱脈を設置してすぐにシロが『精霊の宿屋』から出てきたことに気付いた。
だが、そのシロが自分に向かって慌てて突進してくるのを見たシゲルは、慌てて抱えるように抱きかかえた。
ちなみにシロは、精霊のお陰なのか見た目よりも軽く感じる。
『精霊の宿屋』の中で活動をしているはずのシロがいきなり現れたことに驚いたシゲルだったが、一生懸命に尻尾を振っていることに気付いてすぐにその理由に気付いた。
「設置してほとんど時間が経っていないのに、すぐにわかったんだ」
シゲルはそう言ったが、残念ながらシロからの言葉はない。
だが、振っている尻尾の勢いがさらに増した所を見ても、その言葉が間違いでないことは分かる。
一応確認のために護衛役のリグに視線を向けたが、すぐに頷きが返ってきた。
「配下の精霊から聞いたのか、自分で気付いたのかは分からないけれど、属性に関することだったら大抵はすぐに気付けるでしょうね」
「そうなんだ」
「うん。私も風に変化があったら、大体のことは分かるから」
得意そうな顔になってそう言ってきたリグに、シゲルは笑いながら「そう」と頷いた。
ラグ、リグ、シロの三体は特級精霊になってかなりの日数が経っている。
見た目での変化はほとんどないのだが、その能力も日に日に上がっているのは、それぞれから報告を受けている。
シロを撫でながらリグのニコニコ顔を見ていたシゲルだったが、ふとリグの顔が変化したことがわかった。
どうしたのと言葉で聞こうとしたシゲルだったが、すぐにその変化の理由に気が付いてそちらに視線を向けた。
「今回は随分と長かったね。魔法の改良は随分と上手くいっているってことかな?」
そう聞いたシゲルの視線の先には、ここ一週間ほど姿を見せていなかったグラノームがいた。
「うむ。順調そのものじゃ。完全にお主から離れることはまだまだかかりそうじゃが、だいぶ距離がある場所にも行けるようになったぞ」
「そう。それはよかった」
着実に結果を残しているグラノームに、シゲルは笑みを浮かべながら頷いた。
その返答に首を伸ばしながら何度か頷いていたグラノームは、ふとシゲルの胸元にいるシロへと視線を向けた。
「それにしてもそ奴は随分と荒ぶって……ふむ。そうか、やっと鉱脈を作れたのか」
さすがにグラノームはシロがなにを言っているのかわかるようで、すぐに納得した様子で首を振っていた。
ちなみにシゲルは、亀であるグラノームの表情が読める程にはなっていないが、雰囲気から感情をなんとなく察することができるようになっていた。
「ようやくね。まあ、時間がかかったのは、リート石は特別に精霊力を使ったというのもあるけれどね」
シゲルの言葉に、グラノームは「なるほど」と返してきた。
そしてグラノームは、なにやら首を伸ばしながら何度か左右に振った。
「作った鉱脈はリート石のものか。……ほかのものは置かないのか?」
言外にその方が地の精霊のためになると言ってきたグラノームに、シゲルはため息交じりに返した。
「そうしたいのはやまやまなんだけれどね。そもそも鉱脈を増やすには山を大きくしないといけないんだ」
今ある山をさらに大きくするとなれば、さらに精霊力が必要になって来る。
別にそのために山を大きくすること自体は構わないのだが、そうするとほかの部分の調整が遅れてしまうのだ。
「ふむ。そう簡単にはいかぬか」
シゲルの説明に納得したのか、グラノームは再び何度か首を上下させたが、すぐに付け加えるように言ってきた。
「じゃが、少しシゲルの考え方は偏っているようにも見えるの」
「え?」
シゲルは、グラノームの言葉の意味が分からずに首を傾げた。
そのシゲルに、グラノームはさらに説明を続けた。
「山を大きくすれば、その分吹き下ろしの風が大きくなることもある。そうすれば、当然風の影響も大きくなるのではないかの?」
思ってもみなかったことを言われたシゲルは、少しだけ目を見開いてリグを見た。
「その通りよ。ただ、風の種類は一種類だけじゃないから、山からの風が大きくなってよくなるかどうかは分からないよ?」
「そうじゃの。儂も極端に山を大きくすればいいと言っているのではない。シゲルが個別で対応しているように見えたから、言ってみただけじゃ」
グラノームの言葉に、シゲルは思わずといった様子でうめき声を出した。
確かにシゲルは、グラノームの言うとおりに東西南北、中央の五カ所でそれぞれの属性の力が強くなればいいと考えていた。
グラノームが言うとおりに、山を大きくすれば強い風も吹きやすくなるというように、連携させた考え方はしていなかった。
当たり前だが、『精霊の宿屋』は五カ所それぞれではっきりと区切られているわけではない。
山があればほかの場所に風が吹き込むというように、それぞれが影響を与えていると考えるのは自然のことである。
シゲルは、ようやくそのことがすっぽり抜けていたことに気付けたのだ。
シゲルの表情を見て、グラノームは少しだけ呆れた調子でリグに言った。
「シゲルが気付いていなかったのは仕方ないとしても、其方たちはなぜそのことを教えなかったのじゃ?」
「……ごめんなさい。てっきりシゲルは気付いてやっているものだと思っていたから……」
少しだけうなだれたようになってそう言ったリグに、グラノームは納得した様子で首を振った。
「なるほどの。それだけ今までが上手く調整をしていたということか」
シゲルは意識していなかったのだが、今までの『精霊の宿屋』の調整はきちんと全体のバランスが取れるように行われていた。
そのためリグをはじめとした契約精霊は、シゲルが分かっていなかったことに気付けなかったのである。
これまでの『精霊の宿屋』は、全体になんとなく五属性を配置するだけで上手く調整ができていた。
だがグラノームのお陰で、しっかりとそれぞれのバランスを調整しながらお互いに属性の力を高めていかなければならないことがわかった。
今後はそのことをしっかりと踏まえたうえで、『精霊の宿屋』の調整を行わなければならない。
珍しく落ち込んだ様子になっているリグを慰めつつ、シゲルはそんなことを考えるのであった。
久しぶりに『精霊の宿屋』の調整回でした。




