(13)学園祭の予定
「学園祭?」
シゲルは、シンディーの口から出てきた単語の意味がわからずに首を傾げた。
言葉のニュアンスでなんとなく言っていることは分かるのだが、それが正解なのかがわからなかったのだ。
「そう。学園祭。……って、シゲルは初めてだから知らないのか」
最近では学園のことにも慣れてきているシゲルだが、定期的なイベントなどのことは全く知らない。
そのことをすっかり失念していたシンディーは、何度か頷いてから説明をした。
「簡単にいえば、学園で開かれるお祭りみたいなものね」
「なるほど」
自分が抱いていたイメージ通りの内容でシゲルはすぐに納得の表情になったが、なぜ自分にその話をしたのかがわからないままだ。
そのシゲルの表情を見て、シンディーはさらに続けて言った。
「問題は、その学園祭には研究生も参加しなければならないってこと」
「研究生も?」
「そうよ。学生は誰一人としてさぼることは許されないわ」
アークサンド学園では、研究生も学生の一員として数えられている。
そのため、学生全員参加となっている学園祭にはきちんと参加しなければならないのだ。
中にはさぼる者も出てきそうなところだが、意外にも学生たちは全員がきちんと参加している。
その理由は、シゲルが元いた世界と違って、こうしたイベントごとが少ないからだ。
そのお陰で、普段は自分のことしか興味ありませんという者も、各種イベントには積極的に参加しているのである。
さらにいえば、学園祭は学園の外からお客を呼ぶことになるので、卒業後を見据えた顔見世という側面もある。
やっていることはお祭りそのものなので進路に直截関わるわけではないが、それでも普段は閉ざされた学園内にいる学生たちにとっては、開放的な気分になれる数少ないイベントなのだ。
「――というわけで、シゲルはどうするの?」
「いや、どうするって言われても、いきなりすぎてなにも考えていないんだけれど」
「まあ、それはそうよね」
学園祭があること自体今知ったのに、なにをするといきなり聞かれても答えることなどできるはずもない。
シゲルの答えに、シンディーはそれもそうかと頷いた。
そんなシンディーに、シゲルはいくつかの疑問点を聞くことにした。
「そもそも、学園祭ってなにをする行事?」
「ああ、それはね。一言で言えば、なんらかの手段を使ってお金を稼げばいいのよ」
「――はい?」
簡潔すぎるシンディーの説明に、シゲルは小さく首を傾げた。
そのシゲルに、シンディーはさらに続けて学園祭の説明を続けた。
シンディーの学園祭の説明をまとめると次のようなものだった。
学園祭はその名の通りのお祭りで、祭りの間は学園の敷地内で様々な催しが開かれている。
その催しは、シゲルのイメージする通りの出店から演舞などのパフォーマンスまでさまざまある。
それらの共通しているのが、シンディーが簡潔に言った「お金を稼ぐ」ということになる。
催しを開く単位は、個人からクラス単位まで特に縛りはない。
稼ぎの額がそのまま評価につながりやすくなることから、中には複数を掛け持ちして稼ぎをアピールする者も少なくないのである。
一通りシンディーから説明を受けたシゲルは、感心したように頷いた。
「なるほどね。なんか話を聞いていると、祭りは祭りでも学生に稼ぐことの重要性を教える場のような感じがするね」
「というよりも、学園祭を開いている学園側の建前がそれだからね」
「あー。なるほど」
いかにも楽しいイベントであっても、何事にも建前は必要というわけだ。
何度か頷いていたシゲルは、ふと思い出したようにシンディーを見た。
「そういえば、わざわざそう聞いて来るってことは、研究室でもなにかするってこと?」
「そうよ。といっても、ありきたりな出店を出すだけでいつも終わっているわね」
「出店ね。売る物はなに?」
「適当に狩ってきた魔物の焼肉」
学園祭において出店は定番中の定番の形式だが、一度に多くの店が出るために材料の調達が難しい。
そのため、独自に狩りができる戦闘系の講義を受けている者たちはその点では有利に働くのだ。
文系の学生と組んで出店を出す戦闘系の学生も、当たり前のようにいる。
ヤコミナ研究室の場合は、大抵一人は狩りができるものがいるため材料の調達という点では苦労することはあまりない。
ヤコミナ研究室で出すのが焼き鳥屋改め焼き肉屋ということが分かったシゲルは、何度か頷いて言った。
「それなら今年もそれでいいんじゃない? 自分は、肉の調達と調理、どっちでも協力できると思うし」
「それは確かにね」
シンディーは、すでにシゲル(の契約精霊)が戦闘もこなせることを知っている。
そのため、今の言葉も嘘ではないと分かっているのだ。
こうしてシゲルは、ヤコミナ研究室の一員として学園祭に参加することが決まった。
お祭り騒ぎが好きなシゲルだが、この時点ではそれだけで済ますつもりでいたのだ。
ところが、シゲルはそうは問屋が卸さないということを思い知ることになる。
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シゲルがシンディーから学園祭の話を聞いた数日後。
いつものようにシゲルと一緒に帰るためにヤコミナ研究室に来ていたフィロメナが、ふと思い出したように言った。
「そう言えば、こっち研究室は学園祭をどうするんだ?」
「適当に狩った魔物の肉を出すんだって」
シンディーから聞いたままにシゲルが言うと、フィロメナは考えるような表情になって腕を組んだ。
「……それでは面白くないだろう?」
少しだけ間を空けてからフィロメナがそう言ったのを聞いたシゲルは、嫌な予感がして改めてフィロメナを見た。
「ええと、それはまさか……」
「うむ。折角だから個人で出店を出したらどうだ?」
予想通りの答えを言ったフィロメナに、シゲルは慌てて両手を振った。
「いやいや。こっちの手伝いとかもあるからそれは……」
「あら。いいじゃない。わざわざフィロメナがそう言うってことは、なにかあるのよね?」
無理と続けようとしたシゲルを遮って、シンディーが面白そうな顔になってそう聞いてきた。
そのシンディーに、フィロメナが頷きながら言った。
「うむ。うちの料理人はシゲルともう一人が担当だからな。美味い物を作るぞ、シゲルは」
「へー。それは初めて聞いたわ」
シゲルが料理をしていると聞いて、シンディーは少しだけ驚いた表情になっていた。
シンディーは、シゲルが研究室の出店で調理も担当できると聞いていたが、それはあくまでも肉を焦がさずにきちんと焼ける程度のことだと考えていたのだ。
何故だか期待するような視線を向けてくるシンディーに、シゲルは少しだけ慌てて右手を振った。
「いや、ちょっと待って。別に個人で出店を出すことは反対しないけれど、研究室の方はどうするの?」
「あら。そっちは別に期間中ずっと開いているわけじゃないから、空いている日に出せばいいのよ」
学園祭は五日間開かれていて、ヤコミナ研究室の出店はそのうちの二日出すことになっている。
研究室メンバーは、空いている別の日にはそれぞれ付き合いのある出し物の手伝いをしたりすることになっている。
規模の大きい研究室やクラス単位になれば人をやりくりすることもできるので問題ないが、小規模な研究室だと同じような対応をしているところは多い。
シンディーの答えを聞いて、シゲルはなるほどと納得した。
「うーん。それなら別に一日くらいは個人で出してもいいのかな? でも、手伝いは必要になるよ」
「それは任せろ」
「面白そうだから私も手伝うわよ」
胸を張って頷くフィロメナに続いて、なぜかシンディーも加わってきた。
シンディーはヤコミナ研究室以外の付き合いもあるはずなのだが、その辺は大丈夫なのかと心配になったシゲルが視線だけで問いかけた。
「そんな顔をしなくても大丈夫よ。今年はまだほかの約束はしていないから」
「それならいいけれどね。――とにかく、色々と準備が必要になるけれど、道具とか屋台とかはどうなるのかな?」
「自分で用意してもいいけれど、まずは運営に確認してからかな。私が確認してくるから、どんなものが必要なのか教えて」
当日は多くの学生がいろいろなことをするために、学園が用意してある道具だけでは足りなくなる可能性もある。
そうした準備も含めて学園祭の一環なのだとシンディーから言われたシゲルは、改めてなるほどと納得するのであった。
学園もの定番の学園祭です。
研究室の二日を除くと三日空いているのですが、何日シゲルの出店を出しましょうかね。




