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(18)製法

 ノーラが戻って来る前に、シゲルは再びアマテラス号に戻っていた。

 それにマリーナも着いて来ており、部屋を出る際にフィロメナがちらりと意味ありげな視線を向けていていたが、シゲルは気付かなかったふりをした。

 別にやましいことをするわけではなし、何か言いたいことがあるのであれば、きちんと言ってくれるだろうと、半ば開き直っていた。

 ついでに、マリーナも当然のようにその視線に気付いていて、さらに軽く手を振ったりもしていた。

 シゲルには、その動作になんの意味があるのか分からないが、それでも仲が悪くなる様子もないので、放置することにした。

 

 アマテラス号でシゲルの日本語資料に目を通していたシゲルは、マリーナの呼びかけで目の前にノーラがいることに気付くことになった。

「シゲル、戻ってきたわよ?」

「え、ああ。ホントだ。ノーラ、やっぱり見つからなかっ……あ、ごめん。こっちにいたか」

 シゲルは、視線を上げてすぐ目の前にノーラがいたので気付かなかったが、少し視線をずらすとそこにラグがいることに気がついた。

「いいえ。もう少し分かり易いところにいるべきでした」

 そう真面目な返しをして来たラグに、シゲルは苦笑を返すことしかできなかった。

 契約精霊全員に言えることなのだが、彼女たちはシゲルを第一に考えて行動している。

 その中でも、ラグは特にその傾向が強いのだ。

 

 それはともかく、シゲルは早速ノーラが作ったリート石について聞くことにした。

「――というわけで、ノーラには一生懸命説明してもらったんだけれど、どうしても分からなくて。通訳してもらえるかな?」

 シゲルが最後にそう付け加えると、ラグは頷いてから言った。

「こちらに来る途中で話は聞いておりました。それで、リート石なのですが――」

 そこから聞いたラグの説明によると、次のようになる。

 

 まず、リート石自体は、どちらの世界でも作ることができる。

 ただし、当然ながらポーション作りの薬草のように、元となる材料が必要になるので、ほいほい作れるわけではない。

 その材料を集めるようにするか、もしくは『精霊の宿屋』の環境に鉱脈にあたるようなものを用意しないといけないようだった。

 当然といえば当然の説明に、話を聞いていたシゲルとマリーナは当然のように頷いた。

 

 問題なのは、その次からの説明だった。

 ノーラが作ったリート石(付与済み)は、その名前が示しているように魔法の付与がしてある。

 それは、建物を作った際に防御結界などの魔法の付与をしやすくするための処置なのだが、それをするためには今のノーラの力では時間がかかってしまうそうだ。

 そのため、もし建物を作る分のリート石を用意するとなると、ほとんどその作業にかかりきりになってしまうのだ。

 

 そこまで説明したラグは、一度シゲルを見ながら聞いていた。

「もしたくさん必要なら今から用意しますが、他の作業は出来なくなるそうです。――どうされますか?」

「ああ、なるほどね。そういうことか。まあ、今はとりあえず保留で。これからすぐにリート石を使った建物を建てるわけじゃないからね」

 シゲルがそう答えると、言葉にはできなくても話をしっかりと聞いていたノーラが、コクコクと頷いていた。

 『精霊の宿屋』に建物を建てるつもりはあるが、そこまで手間暇のかかる物を使って実験をするつもりはない。

 リート石を使った建物を建てるとしても、それは実験の結果が出てからになる。

 

 シゲルがそんなことを考えていると、ここで黙って話を聞いていたマリーナが口を挟んできた。

「ねえ、ラグ。ちょっとノーラに聞いて欲しいのだけれど、その石の作り方は教えてもらえるのかしら?」

 マリーナがそう問いかけると、ラグはちらりとシゲルを見た。

 こんなところでも、シゲルを優先しているということがわかる。

 すでに慣れ切っているマリーナは、そのラグの態度を見ても、特に気にすることはなかった。

 

 シゲルがコクリと頷くと、ラグはノーラから何やら話を聞くような体勢になった。

 そして、少ししてからラグからの回答があった。

「教えることは可能だそうです。ただ、やはり時間はかかるそうです。ですので、シゲル様の許可をもらってからと言っています」

「ああ、そういうことなら、教えてくれるかな? まずはそっちが優先で」

 ノーラからの説明が必要になるということは、当然通訳のラグかリグのどちらかがついていなければならない。

 それでも、リート石の作り方を知る方を優先したほうが良いと、シゲルはすぐに判断した。

 さらに、マリーナの顔を見ている限りでは、フィロメナだけではなく、ミカエラも興味を持ちそうだと考えていた。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 今はまずリート石の作り方から教えてもらおうということになり、シゲルとマリーナは再び作業員の部屋がある場所へと向かった。

 そこで、一度全員に事情を説明したところ、やはりというべきか、シゲルの予想通りに全員が集まることとなった。

 その中にはラウラも混じっていたことから、遺跡に使われている謎(?)の建材は、需要が高いという事が分かる。

 とにかく、一つの部屋に集まって、ノーラのリート石作成講座が始まった。

 

 そして、ラグを挟んで一通り説明を聞いたフィロメナが、ポツリと言った。

「――なるほど。ここまで複雑な工程なのであれば、今まで作り方が分からなくても当然かもしれないな」

「ええ。ですが、今の技術でも作れないことはないのですよね?」

 ラウラがそう問いかけると、フィロメナはすぐに頷いた。

「ああ。手間暇さえかければ出来る物だからな。ただ、やはり一般化するのはしばらくかかるかもしれないが」

「どういうことでしょう? 使われている材料もすぐに集められる物なのですよね?」

 ノーラの説明によれば、そもそもの材料となる物は、さほど珍しい物ではなかった。

 問題なのは、そこからリート石になるように抽出と精製をする必要があり、そのための技術が完全に失われていたために、今に至っても再現ができていなかったのだ。

 

 材料も問題なく調達ができて、技術も今あるもので再現が出来る。

 それであれば問題があるようには見えないため、ラウラが疑問に思うのは当然だ。

「確かに材料も技術もある。だが、それらの作業を行う者が限られているのが問題なんだ」

 フィロメナがそう答えると、ラウラが少しだけ納得した表情になってからさらに聞いた。

「ということは、加工を行う技術が特殊なのですか? まさか、精霊術をつかっているとか?」

 そもそも精霊であるノーラが作ってるのだからそれはあり得ることだった。

 ついでに、説明の際も精霊術で説明がされていた。

 

 そのラウラの問いに、ミカエラが首を振りながら答えた。

「そこは大丈夫よ。確かにノーラは精霊術を使っているけれど、土の魔法でも代用できるものだから」

「そうだな。術そのものが特殊というよりも、そもそもの人数が少ないのだ。何しろ戦いに使えない土の魔法だからな」

 フィロメナがミカエラに続けてそう言うと、ラウラとマリーナが納得の顔になっていた。

 シゲルも土属性は人気がないという話はきちんと聞いていたので、戸惑うことなく納得できていた。

 

 土属性の魔法は、土木関係の仕事には非常に利用価値のある魔法が多いが、そもそもエリートに分類される魔法使いが、その道に自ら進むということは少ない。

 そのため、土の魔法が不人気系統になってしまっているのが現状なのである。

「まあ、敢えて価値を高めるために、トップが囲ってしまうという事もできなくはないが……わざわざそんなことまで私たちが考える必要はないな」

 苦笑しながらフィロメナがそう付け加えると、ラウラもハッとした表情になってから頷いた。

「それもそうですね」

 つい為政者的なものの考え方をしてしまっていたが、今のシゲルにとっては、特に必要のあることではない。

 

 ただ、ラウラはリート石の作り方が、ほかの利用方法があることに気付いていた。

「確かにどうやって広めていくかは、私たちが考える必要はありません。ただ、上手く使えば、古代文明の件を広めるのに利用できると思います」

 ラウラの言葉に、フィロメナたちは一瞬戸惑っていたが、すぐに理解できたような顔になった。

「それは確かにそうだが……いや、そもそもリート石は前史文明でも使われていたから難しくないか?」

 シゲルたちが今広めようとしているのは、さらに前の古代文明のことであり、前史文明でも使われていたリート石の製法を利用して証明するのは難しいはずだ。

 

 そう疑問を呈したフィロメナに、ラウラは一度頷いてから言った。

「確かにその通りですが、その前史文明の遺跡からも製法は見つかっていないのですよね?」

「ああ、それはそうだが……」

 もし見つかっているのであれば、どこかの国でリート石が使われた建造物が作られているはずだ。

 だが、そんな話は、この場にいる誰も聞いたことがない。

「では、多少強引になりますが、前史文明はその前の文明の遺産を作って作られたという事には出来ないでしょうか?」

 ラウラがそう言うと、フィロメナたちは同時に顔を見合わせていた。

 確かに一考の価値はあると思われたのだ。

 

 

 その後もラウラの提案をどうするのかと話し合われたが、結局超古代文明の遺産として扱いのは止めになった。

 やはり前史文明でも同じ物が使われていたということがネックになったのだ。

 変に策を弄して無理をした場合に、余計なことでつつかれて超古代文明の話自体がおじゃんになりかねない。

 それよりは、やはり決定的な証拠となり得るような物を見つけたほうが良いだろうということになったのである。

 そんな結論に至ったのは、やはり今いる場所からそれなりに成果が上がりそうだという手ごたえがあるからに他ならない。

 とにかく、まずはここでの調査を進めようということで、皆の意見が一致したのであった。

ノーラの知識チート(?)でした。

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