(19)前史文明の技術
リート石の製法が判明した翌日の夕食時、シゲルは気になっていたことを聞くことにした。
「タケルの日記を見ていて思ったんだけれど、当時の遺跡って本当に大精霊が管理している分しかないのかな?」
「うん? どういうことだ?」
シゲルの疑問に、フィロメナが首を傾げながら聞いて来た。
既にフィロメナの中では、シゲルが言った通りだと考えていたので、何を言いたいのかが分からなかったのである。
フィロメナの問いに、シゲルは一度だけ頷いてから続けた。
「うん。前史文明の技術が今に全く伝わっていないというのは分かるんだけれど、本当にそれだけなのかなと思ってね」
「……どういうこと?」
シゲルの言葉に、今度はミカエラが反応した。
ただ、声を上げたのはミカエラだったが、他の者たちも似たような顔になっている。
それらの顔を見回しながらシゲルは自分の考えを整理しながらゆっくりと話した。
「タケルの日記を見る限りでは、当時は上の遺跡もきちんと町として機能していたとなっているんだ」
「ああ、それはそうだな」
「で、前史文明はその遺跡を利用してさらに自分たちが使っていたと」
もともと利用していたのを継続して使っていたのか、放置されていた町を整備して再び使えるようにしたのかは分からない。
だが、前史文明の者たちが、きちんと使える町として利用していたことは、残っている資料からもわかっていることだ。
皆が頷くのを見ながら、シゲルは少しだけ間を空けてからさらに続けた。
「――だったら、他の遺跡も同じような状態だったとは考えられないかな?」
「同じ状態……」
シゲルの言葉を繰り返したフィロメナだったが、すぐに何かに気付いたようにハッとした表情になった。
「……シゲルは、今残っている遺跡も前史文明ではなくその前の文明の名残ではないかと言いたいのか?」
シゲルの考えを理解したフィロメナが、確認するようにそう聞いた。
シゲルはそれに頷いて、
「勿論、全部が全部そうだとは言わないけれどね。それに、もしかしたらという証拠も残っているんじゃない?」
「証拠? そんなものあったかしら?」
「リート石の製法」
首を傾げながらそう聞いて来たマリーナに、シゲルはもう一度頷いて短くそう答えた。
シゲルの答えに少しの間考えるような仕草をしていたフィロメナだったが、やがて理解が及んだような顔になった。
「そうか。そういうことか」
自分の呟きで他の者たちの視線が集中したとわかったフィロメナは、そのまま言葉を続けた。
「リート石は、前史文明でも建材として一般的に使われていた物とされている。ただ、その製法はこれまで見つかっていなかった。それは単に、それらの資料が見つかっていないと考えられていたが、シゲルは実はそうではないと言いたいのだな?」
「そういうことだね」
自分の言いたいことがフィロメナにきちんと伝わっていると理解したシゲルは、そう答えながら頷いた。
もし本当に、前史文明が自らの技術力でリート石を作っていたのだとすれば、その製法も資料として残っていてもいいはずだ。
それが、全く見つかっていないということは、実は前史文明もリート石の作り方を知らなかったのではないかと推測できる。
しかも、ノーラから話を聞いたフィロメナが、人手の問題はあっても今の技術でも作れると断言しているのだ。
数多くの魔道具の製法を開発していたと言われている文明が、それほど簡単なリート石の作り方を残さなかったというのは、何か理由があるとしか思えない。
それが、作り方を知らなかっただけで、その前の文明の遺跡の名残を再利用していただけだとしたら、そういうことも起こり得るかも知れない。
あくまでも推測の域を出ないが、決してあり得ない考え方ではないはずだ。
ただ、やはりただの想像でしかないということも、シゲルとフィロメナはきちんとわかっていた。
「まあ、ちょっと強引すぎると言われればそれまでだけれどね」
シゲルが少しおどけた顔で肩を竦めると、フィロメナは首を左右に振った。
「いや、そう馬鹿にしたものではないぞ? 何しろ、実際にそうした主張をする学者もいたはずだからな」
「え!?」
シゲルは少し両目を見開きながらフィロメナを見た。
そのフィロメナの言葉を引き継ぐように、マリーナが頷きながら続けた。
「前史文明は、借り物の知識で成り立っていた文明だ、といった主張だったかしら? 勿論、そんなことがあるはずがないと一蹴されているけれど。いえ、いた、かしらね?」
「確かに、そんなことを言っている機関もありましたね」
マリーナの言葉を聞いて、何かを思い出すかのような顔になっていたラウラが、そう言いながら頷いた。
「でも確か、その者たちは、自分たちはそれらの知識を生み出した一族の生き残りだと主張していたはずではありませんか?」
続けてラウラがそう問いかけると、フィロメナが渋い顔になった。
「そんなことを言っているから、本来の主張も見向きもされていなかったのだがな」
「あー、ということは、今の話は自分たちが出してきた妄想の類だと思われる可能性があるってことか」
シゲルがため息交じりにそう言うと、ほかの者たちも渋い顔になった。
一度それらの顔を見回したシゲルは、さらに続けて言った。
「まあ、どうせ証拠も何もないただの推論だから、あまり先走ったことをしなくてもいいんじゃないかな?」
今は推論の域を出ないので、きちんと証拠らしい証拠を集めてから考え直したほうが良いと主張したシゲルに、皆が同意するように一斉に頷いた。
二つ前(?)の文明の存在したという主張でさえ、まだ認められるかどうかが怪しい所なのだ。
その上、それをもとにしたただの推論を出したところで認められるはずもなく、それどころか二つ前の文明という主張すら色物扱いされる可能性がある。
それは避けたほうが良いというのが、皆の一致した意見だった。
とにかく、シゲルの主張は、今後の要課題ということで保留されることとなった。
もし、その主張が裏付けられるような証拠が見つかれば、合わせて話をしていくことになるはずだ。
それよりも、まずは二つ前の文明があったということをきっちりと証明していかなければならない。
そのためにもまずは遺跡の調査をきちんと進めて行こうということで、この場の話はまとまったのである。
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アマテラス号のメンテナンスは三日ということで、シゲルたちの滞在もその間だけを予定していた。
そして最後の三日目には、わざわざシゲルの所にエアリアルがメンテ完了の報告に来た。
しかも、ちょうど夕食を取り終えた直後で、狙っていたタイミングとしか思えない登場に、シゲルはつい笑ってしまっていた。
「えーと、わざわざありがとう。メンテ、終わった?」
「ええ、終わったわよ。特に大きな問題もなかったわね」
「そう。それは良かった」
エアリアルの報告に、シゲルは安堵のため息をついた。
未だに預かっているだけだという意識が残っているシゲルだけに、下手な扱いをして大きな損傷をさせてしまっては大変だと思っている。
そのため、初めての長期メンテナンスで問題が見つかったら、それこそ問題になるだろうと考えていたのである。
そんなシゲルに向かって、エアリアルはクスリと笑って見せた。
「そんなに慎重にならなくても、よほどの扱いをしなければ、大破するなんてことはないから大丈夫よ」
「そう? それならいいんだけれど」
「そうそう。あ、ついでに教えておくけれど、もしドラゴンとかち合ったとしても、向こうから避けるようにしてあるから、下手に手を出さないことね。さすがに自衛のためには攻撃してくることもあるから」
エアリアルからの重要な情報に、シゲルは真剣な顔になって頷いた。
この世界には、当然のように空を飛ぶ魔物がいて、その際にはどうするべきかと話していたことがあったのだ。
教えてくれてありがとうと言って頭を下げるシゲルを見て、小さく頷いたエアリアルは、最後に付け足すように言った。
「そろそろメリヤージュの為にも、次の場所に向かってみてはどうかしら? 折角船を手に入れたんだから。私のお勧めは、ポルポト山ね。それ以上は、自分たちで探してみると良いわ」
それだけを言って、エアリアルは手を振りながらその場から消えた。
そして、残されたシゲルは、少しの間呆然としてからフィロメナたちを見た。
「えーと、あの言葉って、そういうことだよね?」
敢えて具体的に言わなかったシゲルに、フィロメナも同じような顔になりながら頷いた。
「まあ、そうだろうな。風の大精霊のお陰で次の目的地がわかったか。……少し問題はあるが」
フィロメナがそう言うと、シゲルを除いた他の三人は、真顔で頷いていた。
その意味をシゲルが知るのは、もう少し後のことなのであった。




