80話 喧嘩上等
俺は一歩前へと踏み込む。
「なっ!?」
俺が拳を避けたことに驚いていたオールバック君は、突然距離を詰められたことでさらに驚いたような表情を浮かべる。
小柄な俺が距離を詰めるために少し屈んだことによりオールバック君の視界から一瞬消え、それを追いかけて視線を下げる。
しかし、その頃には既に俺は彼の懐へと潜り込んでいた。
「よいしょっ!」
そんな間の抜けた掛け声と共に、俺はオールバック君の腹部目掛けて拳を突き出す。
「ぐふっ!?」
拳が腹部にめり込むと同時に、オールバック君の身体がくの字に折れ曲がった。
そして、そのまま数歩後ずさったかと思うと、膝から地面に崩れ落ちる。
「…………は?」
そんな間抜けな声を上げたのは、オールバック君の後ろで見物していたヤンキー達の一人だった。
どうやら、何が起こったのか理解できていないらしい。
まぁ、それも仕方がないだろう。
何しろ、自分達のリーダーと思われる人物が、自分よりも頭一つ以上小さな少年に一撃で倒されてしまったのだから。
だが、そんなヤンキー達と同じくらい驚いていたのは、他でもない俺自身だった。
「…………あれ?」
いや、俺だって一撃で倒せるとは思っていなかったのだ。
そりゃあ確かにステータスは高いし、殴り合いになれば勝てるという確信はあった。
だが、まさか一発で倒せるとは思っていなかった。
ただ痛そうな所を狙って攻撃しただけなんだが……。
「そうか、《観察》か」
俺は今まであまり俺の脳内に上がってこなかったスキルが突然頭角を現す。
このスキルはかなり補助的なものだと考えており、レベルがもっと上がって365レベルを超えれば何か面白い能力を手に入れることができそうだなと思っていた位のものだった。
しかし、今回の戦いでは、その力が相手の弱点を見抜くことに使われたのだろう。
まぁ、思わぬ発見ではあったが、今はそんなことを考えている場合ではない。
スキルの検証はまた今度にするとして、とりあえず目の前の問題を片付けてしまおう。
「て、てめぇ! 何しやがった!」
俺がそんなことを考えていると、ヤンキー達の一人が怒鳴り声を上げた。
どうやら、仲間が一撃で倒されてしまったことが相当気に入らなかったらしい。
「何って……普通に殴っただけですけど」
「んなわけあるか! なんか卑怯なことしやがったんだろ!」
「いやいや、ちゃんと見てましたよね?」
そんなことを言われても困る。
俺は別に武器を使ったわけでもなければ、不意打ちをしたわけでもない。
正面から堂々と殴っただけなのだから、卑怯も何もないだろう。
「くそっ! おい、お前、手伝え!」
「お、おう!」
そんなことを言いながら、ヤンキー達のうち二人が俺の前へと歩み出る。
どうやら、一対一では勝てないと判断したのか、今度は二人同時に襲いかかってくるつもりらしい。
「……二人がかりですか?」
「うるせぇ! 文句あんのかよ!」
「いえ、別に構いませんけど……」
俺がそう答えると、二人は互いに顔を見合わせた後、俺を挟み込むように左右へと分かれた。
「おらぁっ!」
最初に動いたのは右側にいた男だった。
勢いよく踏み込み、右拳を俺の顔面目掛けて振り抜いてくる。
その動きに合わせて俺が身体を後ろへと引くと、拳は顔のすぐ目の前を通り過ぎていった。
…………うん、余裕だな。
だが、そう思った直後、背後から足音が聞こえてくる。
「隙ありぃ!」
もう一人の男が、俺の背後から殴りかかってきたのだ。
だが、俺は素早く身体を横へとずらし、その拳を避ける。
「うおっ!?」
すると、男の拳は俺が先程まで立っていた場所を通り過ぎ、そのまま反対側にいた仲間へと向かっていった。
「ちょ、おまっ!?」
慌てて仲間が身体を仰け反らせたことで、何とか直撃は免れたようだが、二人とも大きく体勢を崩してしまう
これは……もしかして逆にいい状況なんじゃないか?
一対二というのは確かに一対一よりも不利な状況だ。
しかし、それは二人がしっかりと連携を取れている場合の話である。
今のように互いの動きを把握できていないのであれば、むしろ人数が多いことが足枷になってしまうこともあるだろう。
「くそっ! ちょこまか動きやがって!」
「お前こそちゃんと狙えよ!」
「あぁ!? お前が邪魔なところにいるからだろ!」
俺は見事な仲間割れを起こしている二人を眺めな、呆れながら勝負を決めに行く。
「……それじゃあ、次は僕から行きますね」
「あぁ!? 何を……うおっ!?」
俺は右側にいた男の後ろへと一瞬で潜り込み、その身体をもう一人の男の方へと押し出す。
「ちょ、待てって!」
「うわぁっ!?」
突然押し出された男は体勢を立て直すことができず、もう一人の男に衝突した。
そして、二人はそのままもつれ合うように地面へと倒れ込む。
俺はその隙を見逃さず二人に一撃づつ拳を叩き込み、完全に戦意を喪失させる。
「ぐえっ!」
「がはっ!?」
二人は情けない声を上げると、そのまま地面に倒れ込んだ。
よし、終わりかな?
俺が周囲を見渡すと、そこには腹部を押さえて蹲るオールバック君と、地面に倒れ伏す二人のヤンキーの姿があった。
「……それで、まだやります?」
俺がそう問いかけると、三人は揃って首を横に振った。




