78話 ヤンキー襲来
「ゲームできる部活があるって聞いたんだが、ここかぁ?」
静かなコンピューター室にその声が響き渡る。
俺がその声の主に目を向けると、そこに立っていたのはオールバックに学ランのボタンをすべて外し、その中には学校指定ではないよくわからないデザインのシャツを着た男の子だった。
……うん、なんというか、すごく分かりやすい不良だ。
前世でもここまで典型的な格好をした不良はあまり見たことがないし、正直なところ少し感動すら覚えてしまうほどだ。
だが、それはそれとして、どうやら彼は何か勘違いをしているらしい。
「うちはそういう部活じゃないですよ、勘違いしているようですが……」
「あぁ? んだてめぇ、なんで女が学ランなんか着てるんだよ」
「いや、僕は女じゃ……」
「てかここ滅茶苦茶涼しいじゃねーか、初めて来たけどいいなこれ」
話聞かねぇなこいつ……。
「おい、ここって普段からこんなに涼しいのか?」
「え、えぇ、まぁ……パソコンがたくさん置いてありますからね」
「へぇ〜、いいじゃねぇか!」
そう言うと、不良は近くにあった椅子を引き、ドカッと腰を下ろした。
……いや、なんで当たり前のように座ってるんだよ。
「あの、入部希望じゃないなら帰ってもらいたいんですけど……」
「あぁ? なんでだよ、別にいいじゃねぇか」
「いや、ここ一応うちの部活で使ってるんで……」
「んだよ、ケチくせぇなぁ」
不良はそう言いながらも立ち上がる気配を見せず、むしろ机に肘をついてくつろぎ始めた。
……うーん、困った。
正直なところ、あまり関わりたくないタイプの人間だ。
俺は前世でコンビニの店長をやっていたこともあり、こういう態度の悪い客への対処はそれなりに経験している。
だが、あれはあくまでも仕事だから我慢できたのであって、今は別に客商売をしているわけではない。
それに、相手は同じ学校の生徒だ。
あまり強く出て変な恨みを買うのも面倒だし、できれば穏便に帰ってもらいたいところである。
「……あの、本当にそろそろ帰ってもらいたいんですけど」
「あぁ? だから別にいいじゃねぇか、減るもんじゃねぇし」
「いや、そういう問題じゃ……」
駄目だ、まったく聞く耳を持ってくれない。
どうしたものかと頭を悩ませていると、不良は突然何かを思いついたかのように顔を上げた。
「おっ、そうだ!」
「……なんですか?」
「ダチも呼んでいいか?」
「えっ?」
俺が聞き返すよりも早く、不良は勢いよく立ち上がった。
「お前ら! ちょっと来いよ!」
そう言って廊下に向かって大声を張り上げる。
すると、少し離れたところから返事が聞こえてきた。
「おぉ? なんだよ、どうした?」
「なんかあったんか?」
そんな声と共に、コンピュータ室の扉から新たに二人の男子生徒が姿を現した。
一人は金髪に近い茶髪で、もう一人は学ランを肩に引っ掛けている。
「おい、ここすげぇぞ! めちゃくちゃ涼しい!」
「マジかよ!」
「うおっ、ほんとだ! なんだここ、天国じゃねぇか!」
二人は目を輝かせながら室内に入ってくると、俺のことなど気にも留めず、勝手に椅子へと腰を下ろした。
「しかもパソコンも使えるらしいぜ!」
「おぉ! じゃあゲームとかもできんのか!?」
「知らねぇけど、できんじゃね?」
いや、できねぇよ。
そもそも学校のパソコンなのだから、勝手にゲームをインストールするわけにはいかない。
ゲームを作ってプレイするというのはグレーゾーンではあるもの、他の先生にその活動が大っぴらにならない限りは問題にならないだろうが、流石にただゲームをするためだけにこの部屋を使うのは許されないだろう。
何より、俺自身がそんなことをさせるつもりはない。
「なぁ、ここ明日から俺らの集合場所にしねぇ?」
「おぉ、いいじゃん! 外クソ暑ぃし!」
「菓子とか持ち込んでもいいんかな?」
「バレなきゃいいだろ!」
……おいおい、何を勝手に話進めてるんだ。
どうやらこいつらはここを自分達のたまり場にするつもりらしい。
冗談じゃない、せっかく苦労して作った部活をそんなことのために使われてたまるものか。
「……あの、すみません」
「あぁ? なんだよ」
「ここは科学技術部の活動場所なので、そういう目的で使うのはやめてもらえませんか?」
「はぁ? 科学技術部ぅ?」
「はい」
「なんだよそれ、ダッセェ名前だな!」
うん、まぁ名前については俺も思うところはあるから別にいい。
だが、この調子だと本当に面倒なことになってしまいそうだ。
それに、奥にいる陽芽や悠莉も怖がっているだろうし、このままにしては置けない。
俺はため息をつきながら立ち上がった。
「……最後の警告です、帰ってください」
「……あぁ?」
俺の言葉を聞いた不良は、先程まで浮かべていた笑みを消した。
「おいおい、聞いたかお前ら? このチビ、俺らに警告だってよ!」
「ぶははっ! 何様だよ!」
「女が俺らに喧嘩売ろうってか? 笑わせるな!」
……うん、完全に舐められてるな。
てか俺そんなに女に見えるのか……? 確かに今はちょっと髪も長めだし、勘違いされてもおかしくはないとは思っていたけど、そんな何人にも疑問を持たれずに勘違いされるとは思わなかった。
坊主にでもしてやろうか。
それはともかく、ここまで言われたら俺も黙っていられない。
「……それで、帰る気はないってことでいいですか?」
「あぁ? だからなんだよ」
「だったら先生を呼んできます」
「……おい、待てよ」
俺が扉へ向かおうとすると、最初に入ってきた不良が立ち上がり、俺の進路を塞いだ。
「てめぇ、俺らのことチクるつもりか?」
「チクるも何も、帰ってくれないならそうするしかないでしょう」
「……てめぇ、調子乗ってんじゃねぇぞ?」
そう言いながら、不良は俺の胸ぐらを乱暴に掴んできた。
「は、はじめっ!」
背後から陽芽の悲鳴が聞こえる。
……あぁ、やっちゃったか。
ここまでは何とか穏便に済ませようとしていたのだが、向こうから手を出してきた以上、流石に黙っているわけにもいかないな。―




