77話 ポスター
77話
「話は聞いたよぉ〜!」
満面の笑みを浮かべながらコンピュータ室に入ってきた松戸先生は、何故かその手に大量の紙を抱えていた。
「……えっと、何の話ですか?」
「部員が欲しいんでしょ?」
「あぁ、はい、そうですけど……」
どうやら先程の俺の独り言を聞いていたらしい。
「ふっふっふ、そんな君達に朗報です! なんと、この松戸先生が部員募集のポスターを作ってきました!」
「おぉ!」
そう言いながら先生は得意げに一枚の紙を掲げる。
そこには大きな文字で『科学技術部、新入部員募集中!』と書かれており、その下には様々な実験器具のイラストが描かれていた。
……うん、どう考えてもパソコン部には見えない。
「松戸先生……一旦これは没で、新しいのを僕が作りますよ」
「え~、夜鍋して作ったのにぃ~」
松戸先生は恨めしそうに俺を睨む。
「それに君、私よりもいいの描けるのぉ~? パソコン小僧のくせに!」
パソコン小僧ってなんだよ、初めて聞いたぞ。
ともかく、そこまで言われちゃ俺も黙っていられない。
「先生、これ見てみてください」
そう言って俺はとあるネット記事を見せる。
そこにはとある神童についての記事が書かれており、様々な芸術のコンクールで同じ名前を見つけたといった内容だった。
「えっと、これはぁ?」
「これ、僕です」
「え?」
松戸先生は一瞬面くらったような顔をする。
しかし、ネットリテラシー教育がまだ浸透していない時代のため、その記事には俺の名前や、コンクールの受賞者一覧などの個人情報が普通に乗せられているため、これが本当に俺のことを指してるということが分かるようになっている。
そのため、松戸先生もすぐに気づき、少し考えるような様子を見せる。
「…………おーけぃ……あとは頼んだぜぃっ!」
「切り替え早いですね……」
先程までの自信満々な様子はどこへやら、松戸先生は俺の肩を叩くと、そのまま椅子に座り込んでしまった。
「いやぁ、まさか君がこんなにすごい子だったとはねぇ~、先生びっくりしちゃったよぉ」
「そうですか……」
「それで、どんなポスターを作るつもりなのぉ?」
「そうですね……」
ふむ、とは言っても特に何か考えていたわけではない。
どうしたものか……。
今回のポスターの目的は、当然ながら部員を集めることだ。
となれば、できる限り多くの生徒の興味を惹くようなデザインにする必要がある。
しかし、ただ目立てばいいという訳でもない。
科学技術部という名前から連想される活動と、実際の活動内容があまりにも異なっていては、入部してからトラブルになる可能性もある。
「とりあえず、パソコンを大きく描いて、何ができるのかを分かりやすく書こうと思います」
「ほほぉ、具体的にはぁ?」
「プログラミングとか、ゲーム制作とかですね」
「ゲーム制作!?」
俺の言葉に、それまで黙っていた悠莉が勢いよく反応した。
「はじめ! ゲーム作るの!?」
「あぁ、まぁ、作ろうと思えば作れるよ」
「じゃあ僕も作りたい!」
「お、おう……」
目を輝かせながら詰め寄ってくる悠莉に、俺は思わず後ずさる。
……そうか、ゲーム制作か。
俺にとってはプログラミングの一分野という認識だったが、普通の中学生からすれば、こちらの方が遥かに魅力的に映るかもしれない。
「よし、じゃあゲーム制作を前面に押し出してみようか」
「えぇ~、科学技術部なのにぃ?」
「先生、部員が集まらなければ科学も何もできませんよ」
「むむむ……それもそうだねぇ」
まぁ、部員が集まったところで俺がいるうちは科学を主体にやる気はないんだどな。
さて、方向性が決まったところで、早速制作に取り掛かろう。
俺はパソコンの電源を入れ、慣れた手つきで描画ソフトを立ち上げた。
ソフト制作の際に時々絵が必要になったりすることもあるので、そういう場合に使っているのだ。
「それじゃあ、まずは……」
画面上に大きく科学技術部という文字を配置する。
その下にはパソコンのイラストを描き、画面の中には簡単なゲームのようなものを描いていく。
更に周囲には小さな文字で活動内容を書き加え、最後に募集要項を配置する。
「……よし、こんなものかな」
完成したポスターを眺め、俺は満足げに頷いた。
「おぉ~! すごいじゃん、はじめ!」
「ふむふむ……確かに私のより興味は持たれそう……かもぉ」
悠莉と松戸先生からも好評のようだ。
ちなみに陽芽はというと、先程から俺の隣でじっと画面を眺めている。
「陽芽、どうかな?」
「うん、いいと思う! でも……これだと、ゲームを遊べる部活だって勘違いされないかな?」
…………確かにゲーム制作という文字を大きく配置したせいで、ゲームという部分だけが目立ってしまっている。
これではゲームを遊びたいだけの生徒が大量に押し寄せてくるかもしれない。
「……危ない危ない、ありがとう陽芽」
「えへへ、どういたしまして!」
俺は急いでゲーム制作の文字の上に自分だけのという言葉を付け加え、更に下に遊ぶだけじゃない、作る側になろう! という宣伝文句を追加した。
うん、これなら誤解も少ないだろう。
「よし、今度こそ完成!」
俺は完成したデータを保存すると、早速印刷を開始した。
しばらくして、プリンターから一枚の紙が吐き出される。
「おぉ~、いい感じだねぇ!」
「ありがとうございます、じゃあ、これを何枚か印刷して貼りましょうか」
「任せなさぁい! 掲示許可は私が取ってくるよぉ!」
そう言って松戸先生は勢いよく立ち上がり、部屋から飛び出していった。
……なんというか、行動力だけはすごい先生だ。
「ねぇ、はじめ、これで部員、いっぱい来るかな?」 「そうだなぁ……」
俺は印刷されたポスターを眺める。
正直なところ、どれだけ集まるかは分からない。
まだまだパソコンが一般家庭に普及しきっていない時代だし、プログラミングに興味を持つ中学生がどれだけいるかも未知数だ。
だが、少なくとも何もしないよりはマシだろう。
「まぁ、何人かは来てくれるんじゃないかな」
「楽しみだね!」
悠莉の言葉に俺も頷く。
こうして、科学技術部の新入部員募集が本格的に始まったのだった。




