76話 ポスター
76話
ともかく、俺が条件を呑んだことにより科学技術部の設立は実現した。
「ほんとにパソコン部じゃなくてもよかったの?」
「あぁ、やりたいことはできるみたいだしね」
悠莉は名前から俺が作りたかった部活ではないと思ったようだが、内容的にはパソコン部に近いものになるはずだし、名前くらいは先生の好きにさせてもいいだろう。
おそらくは俺が居なくなった後にも部活が残っていた場合に内容を科学寄りにしていこうという魂胆だろうが、まぁ、それに関しては俺たちが卒業した後の事だろうし、構わないだろう。
さて、そんなこんなで設立された科学技術部だったが、いくつか問題があった。
まず、第一の問題として、パソコンがあまりにも古すぎるというものがある。
この学校にはパソコン室がある。
しかし、それらはどれもかなり古いものばかりであり、現在の基準で考えればかなり性能が低い。
全く使えないといったほどではないにしろ、これでは優秀な人材を発掘できたとしても育成に手間取ってしまいそうだ。
まだましなものとして松戸先生が使っているものもあるが、普通程度の性能ではあるものの、俺が一番最初にお母さんに買ってもらったパソコンと大体同じくらいの性能だし、ぶっちゃけこれでは使えない。
今俺はある程度の資金力を持ってなかなかにグレードの高いパソコンを使っているのもあるだろうが、流石にこれでは求められた成果を出せないだろう。
それに加え、さらにもう一つ問題がある。
「はじめ、ろってどうやって打つの?」
「Rの後にOを打つんだよ」
「Rってどこ?」
そう、二人とも全くと言っていいほどパソコンが使えないのだ。
無理もないことだというのは理解している。
2人はこの年まであまりパソコンに触れてきていないだろうし、いきなり触らされてタイピングができないというのは至極真っ当なことだろう。
だが、現代のあの大人よりも精密機器を上手く扱う子供達の事が固定概念として頭のどこかに残っていたせいか、思ったよりも使えないという感想になってしまっているのだ。
「は、はじめ、なんか動かなくなったんだけど!」
「えぇ?」
今度は悠莉かと思いながら悠莉の方へ向かうと、そこには真っ黒になった画面があった。
何をやらかしたんだと思いながらよく見てみると、なにか壊してしまったとかそういうことではなく、ただ単に電源を落としてしまっただけのようだった。
「ほら、これ、このボタン押したでしょ?」
「えっ、ダメだったの!?」
悠莉が顔を真っ青にしながら俺に泣きついてくる。
この調子じゃ簡単なプログラミングなどをするのは夢のまた夢だな……。
だが、これからの時代、どう考えてもパソコンは使う。
今はまだパソコンが使えなくても何とかなるかもしれないが、これからその重要性はどんどんと高まっていくし、今のうちに触れておいて損はないだろう。
むしろ、俺がこうやって教えることができるのだから、二人にとってはかなり恵まれた環境だと言えるのではないだろうか。
「大丈夫大丈夫、壊れてないから」
「ほ、ほんと……?」
「うん、このボタンを押せばまた動くよ」
俺が電源ボタンを押すと、しばらくして見慣れた起動画面が表示される。
すると、悠莉は心底安心したように胸を撫で下ろした。
「よかったぁ……壊しちゃったかと思った……」
「まぁ、そんな簡単には壊れないから安心していいよ」
「じゃあ、もっと色々押しても大丈夫ってこと!?」
「いや、そういう意味じゃないからね?」
うん、やっぱり悠莉にはもう少し慎重になってもらう必要がありそうだ。
ともかく、こうして二人にパソコンの操作を教えているわけだが、思っていた以上に時間がかかっている。
最初は一週間もすれば簡単なプログラミングくらいは教えられるだろうと思っていたのだが、どうやらその見通しは甘かったらしい。
「はじめ、これで合ってる?」
「ん? あぁ、合ってる合ってる!」
「えへへ、やったぁ!」
一方で、陽芽は比較的順調に覚えているようだった。
まだキーボードを見ながら一文字ずつ入力している状態ではあるものの、少なくとも俺が教えたことはしっかりと覚えてくれている。
こうやって2人に少しずつ教えていくというのも悪くはない。
悪くはないんだが……本来の目的とは少しズレてしまっている。
松戸先生との約束もあるので、それもやらなくてはいけないのだが、出来ればパソコンの才能がありそうな人を見つけてその子に教えながら開発していこうと思っていたのだが、思うように人も集まらない。
「やっぱりもう少し部員欲しいよなぁ」
俺がそう呟いた瞬間、コンピュータ室の扉が勢いよく開く。
「お、新入部員ですk……」
「話は聞いたよぉ〜!」
期待しながら振り返った俺の目に飛び込んできたのは、満面の笑みを浮かべた松戸先生だった。




