74話 駆け引き
「科学技術部?」
俺が聞き返すと、松戸先生は自慢げに話し始める。
「そうそう、科学技術部! それなら君のやりたいパソコンも、私のやりたい実験も両方できるでしょ〜?」
「いや、別に僕は実験に興味は無いんですけど……」
「んー、けど、ただのパソコン部なら私は顧問にならないよぉ?」
「…………」
この人まさか……中学生相手に駆け引きをしかけてるのか?
腹立たしいことに、松戸先生は俺に対しては非常に強力などの部活動の顧問にもなっていない唯一の先生という交渉カードを持っている。
別にほかの先生に兼任してもらうというのもできなくは無いかもしれないが、松戸先生という人がいる以上、そちらに頼んで欲しいと断られる可能性は非常に高い。
そうなれば松戸先生も断りにくいだろうとは思うが、そこまでして無理やり顧問になってもらうというのも、今後の部活動を考えるとあまり良い選択ではないだろう。
何せ、これから最低でも3年間は付き合っていくことになる相手なのだ、できることなら良好な関係を築いておきたい。
「……先生、大人げないって言われません?」
「んふふ〜、大人だからこそ使える手は全部使わないとねぇ〜」
「うわぁ……」
なんという清々しい開き直りだろうか。
まぁ、俺も中身は大人なわけだし、ここで意地を張っても仕方がない、何とかして折り合いをつけなくては。
俺が思考を巡らせていると、松戸先生はしたり顔で腕を俺の肩に回してくる。
「まぁ、別にパソコンを使わせないなんて事は無いよぉ? どうせパソコンの存在を知って使ってみたくなったとかそんな所だろうし……その欲は発散させてあげるさ」
耳元でそう囁かれるが、見当違いななめ、訂正を入れる。
「……あの、先生」
「ん〜? どうしたのかなぁ?」
「僕、別にパソコンを触ってみたいから部活を作ろうとしてるわけじゃないですよ?」
「……ほ?」
松戸先生はきょとんとした表情を浮かべる。
……まぁ、無理もないか。
普通の中学生なら、パソコンを触ってみたいという理由で部活動を作ろうとすることも十分にあり得るだろう。
だが、俺は既に自分のパソコンを持っているし、何ならそれを使って金まで稼いでいる。
だから、俺の目的は学校のパソコンを使わせて欲しいというものではなく、将来が有望そうな人材を見つけ、今のうちに育てておくことだ。
ただ、当然ながらそんな打算的な理由をそのまま伝えるわけにはいかない。
中学1年生が将来有望な人材を育てたいなんて言い出したら、どう考えても不審がられるだろうしな。
「僕、家でプログラミングをしてるんですよ」
「……プログラミング?」
その言葉を聞いた瞬間、松戸先生の表情が少し変わった。
先程までの気の抜けたような笑みが消え、興味深そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「へぇ〜、君、プログラミングができるんだぁ?」
「はい、一応自分でソフトを開発したりもしてます」
「……ソフト開発?」
さすがにそこまでできると思っていなかったのだろう、松戸先生は少し面食らったような表情をした。
「……ちなみに、どんなの作ってるの?」
「色々と作ってはいるんですけど……あ、あのパソコン使っていいですか?」
俺は機械の合間に埋もれているパソコンを指さす。
この年代になってもまだ北海道ではパソコンの普及は本州と比べても少し遅れており、準備室にまでパソコンが置かれているということはあまり常識的では無いので、おそらくは松戸先生が勝手に設置したものなのであろう。
「あぁ、もちろん……ネットにも繋がってるから、好きに使っていいよぉ」
「……ありがとうございます」
俺はパソコンを操作し、俺が作ったソフトが掲載されているサイトを松戸先生に見せる。
すると、松戸先生は目を見開き、驚いた様子で俺を見つめてきた。
「ま、まさか君がONEなの!?」
「え、知ってるんですか?」
ONEは俺がソフトなどを公開する時に使っている名前だ。
一という名前から取った安直な名前だとは思うが、特に変える必要も無いのでこれを使い続けている。
だが、どうして松戸先生がその名を知っているのだろうか?
俺が疑問に思っていると、松戸先生はおもむろにパソコンを触り始めた。
「これ、もしかして君が作ったってことぉ?」
そう言って表示されたのは以前俺が作ったソフトだった。
「あっ、買ってくれたんですね、ありがとうございます!」
「あぁ、うん、どういたしまして〜……っじゃなくて、まさか君がONEだったなんてねぇ〜」
松戸先生は少し考える様子を見せ、そして、口角を上げる。
「これなら……面白いことができそうだねぇ〜」




