70話 仲直り
次の日、俺は悠莉と家を出た。
「陽芽、ちゃんと学校来てくれるかな……?」
「うーん、それが心配だよなぁ……」
昨日の電話で伝えられた通り、陽芽は引きこもってしまったらしいし、そのまま学校にも来ないなんて可能性もありえはするだろう。
そうなれば謝ったりもできなくなってしまうし、仲直りまでの道程が遠のいてしまう。
そう不安になりながら登校すると、その不安とは裏腹に、陽芽はいつも俺たちが合流する位置に現れた。
「あぁ、良かった、おはよう陽芽……」
俺が安堵して陽芽に挨拶しようとすると、一瞬にして陽芽の姿が消えた。
その直後、俺の腰に衝撃が走った。
突然の衝撃に、俺は思わず後ろによろめく。
何が起こったのか理解できずに視線を下げると、そこには俺の腰に両腕を回し、思いっきり抱きついてくる陽芽の姿があった。
「ひ、陽芽!?」
「…………」
「えっと……おはよう?」
とりあえず挨拶してみるが、返事はない。
ただ、俺を抱きしめる腕に更に力が込められただけだった。
……えっと、どういう状況?
昨日あれだけ泣いていたのだから、今日は口も聞いてくれないのではないかと覚悟していたのだが、まさか抱きつかれるとは思っていなかった。
「な、何やってるの!?」
突然の出来事に固まっていた悠莉が俺たちの間に割って入ろうとするが、陽芽が睨みつけたことにより大人しく引き下がってしまう。
俺たちがなんと言っていいのか分からずに居ると、陽芽は覚悟の決まったような様子で語り始める。
「帰ってから私考えたんだ……私ははじめと一緒に住めないんだから、それ以外の時はくっつく権利があると思うの!」
「…………はい?」
「だから! 悠莉は家ではじめと一緒に居られるんだから、学校では私が一緒に居てもいいでしょって話!」
陽芽は今にも泣きそうな顔でそう叫ぶ。
いや、別にそれは構わないんだが、そんな事でいいのか?
もっとなんか毎日私の家に来てとか毎日家に行かせてとか言われるものだと思っていたばっかりに少し拍子抜けだ。
そもそも学校で一緒に居られる時間といえば休み時間や登下校中位だし、その時にくっつかれたりする程度ならなんの問題も無い。
…………俺はそう思っていたのだが、悠莉そうじゃなかったようで、陽芽の逆側にしがみついて話し始めた。
「た、確かにはじめを独り占めするのは悪いと思ってるけど…………けど別にくっついたりはしてないもん!」
悠莉はそう叫ぶ。
いや、論点そこなのか? 別に友達同士ならくっついてもくっつかなくても同じだと思うんだが…………。
俺はそう思い仲裁を試みるが、その瞬間、悠莉が火に油を注ぐ発言をしてしまう。
「はじめの布団に入ったらすっごい怒られるから、はじめが起きる前に出なきゃいけないし……」
「…………は?」
その発言を聞いた瞬間、陽芽からどす黒いものが溢れ出たような気がした。
なんだか分からないが、このままでは色々とまずい気がする!
てか、悠莉お前まだそんなことしてたのかよ!
俺は色々と言いたいこともあったが、とりあえずは事態を収拾させるために働きかける。
「わかったわかった、それじゃあこれからは毎日学校とかでも三人で過ごすって事で手を打たないか?」
俺がそう提案すると、悠莉は快諾してくれたが、陽芽はまだ不満が残っていそうな様子だった。
「けど、それだったら悠莉の方がはじめと長くいる事になるじゃん!」
「うーん、たしかに?」
恐らく陽芽が嫌がっているのは悠莉だけ特別扱いしているように見えるからだろう。
だが、それならば解決することができる。
「なら、放課後悠莉が他の子と遊んでる時は俺と陽芽だけで遊ぶってのはどう?」
俺が再び提案すると、陽芽はまだ不満が残ってそうではあるものの、渋々納得した様子を見せてくれた。
「じゃあまず先に、陽芽だけ仲間外れみたいな形になっちゃって本当にごめん」
「……うん」
「これからはちゃんと陽芽にも話すようにするから、許してくれる?」
「…………」
陽芽はしばらく黙り込んだ後、俺の腰に回していた腕に更に力を込める。
「……じゃあ、一つだけ聞かせて」
「ん? 何?」
「私のこと、悠莉より大切じゃないとか思ってないよね……?」
「当たり前だろ、二人とも大切な友達だよ」
「……本当?」
「本当だって!」
俺がそう答えると、陽芽はようやく顔を上げ、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「えへへ……じゃあ許してあげる!」
「そっか、良かったぁ……」
俺は心の底から安堵する。
それから悠莉も陽芽に謝り、陽芽も悠莉にきつく当たってしまったことを謝ったことで、俺たち三人はちゃんと仲直りすることができた。
……できたのだが。
「えっと、それで2人とも? 話し合いの結果、放課後に陽芽と俺が遊ぶことで落ち着いたと思うんだけど……なんでまだ2人ともくっついてるの?」
「……だって、くっついちゃダメとは言われてないもん!」
「いや、まぁ確かにそうだけど……」
「それに、悠莉だってくっついてるじゃん!」
「わ、私だって陽芽だけくっつくのはずるいと思うし!」
……あぁ、なるほど、どうやら二人の中では、仲直りしたことと俺にくっつくことは全く別の問題らしい。
「……あの、せめて学校では離れてくれない?」
「「やだ!」」
「息ぴったりだな!?」
先ほどまで喧嘩していたとは思えないほどの連携に、俺は思わずツッコミを入れる。
だが、そんな俺の抗議など聞く耳を持たず、二人は楽しそうに笑いながら更に強く腕に抱きついてきた。
この日から、俺の波乱にまみれた中学校生活は始まるのだった。




