69話 言い訳
俺は大泣きする陽芽を前に悠莉と一緒に正座していた。
別に悪い事をしたとは思っていないのだが、流石にここまで泣かれてしまうと罪悪感を感じてしまう。
「陽芽、これには深い理由が……」
「理由なんてどうでもいい、一言言ってくれればそれで良かったのに! なんで言ってくれなかったの!」
言ったらこうなるからとは口が裂けても言えず、俺は悠莉に助けを求める。
すると、俺の視線に気づいた悠莉は少し考えるような素振りを見せた後、ゆっくりと口を開いた。
「……はじめ、頑張って☆」
「裏切ったな!?」
いや、確かに俺が悪いのは間違いないのだが、お前だって当事者だろうが!
そんな怒りを口に出そうとするも、それは陽芽が代弁してくれる。
「悠莉も、言ってくれれば良かったじゃん!」
「は、はい!」
陽芽の怒声に悠莉は飛び跳ねるように背筋を伸ばす。
悠莉、死なば諸共だぞ。
「……私達、ずっと一緒だったよね?」
「う、うん」
「小学校の時からずっと仲良しだったよね?」
「そうだね……」
陽芽はそう言いながら涙を拭い、俺達を交互に見つめる。
「それなのに……なんで二人だけで……私だけ仲間外れにするの……?」
「…………」
その言葉に、俺は何も言えなくなってしまった。
今回の件に関しては、陽芽に意地悪をしようとか、仲間外れにしようとか、そういう意図があったわけではない。
悠莉の境遇が境遇だっただけに、迂闊に他人に話して良いことなのか判断がつかなかった。
だが、それにしたってやりようはあったはずだ。
だからこそ、俺は変に言い訳せずに謝る事にした。
「陽芽、本当にごめん、別に陽芽を嫌いになって言ってなかった訳じゃないんだ、ただ、色々と落ち着いてから話そうと思っていて……」
「……から」
「え?」
「今日から私もここに住むから!」
「…………はい?」
あまりにも予想外な発言に、俺は思わず間抜けな声を漏らしてしまった。
「陽芽、流石にそれは……」
「何!? 悠莉は良くて私は駄目なの!?」
「いや、そういう事じゃなくて……」
うーん、どう説明したものか。
そもそも、悠莉がうちに住むようになったのは孤児院での問題があったからであり、決して俺と一緒に暮らすためではない。
それに対して、陽芽は普通に両親と暮らしているのだから、わざわざうちに引っ越してくる理由などないだろう。
というか、あの親バカ親父がそれを許すはずもない。
「……陽芽、そもそもお父さんとお母さんはどうするの?」
「…………」
俺の言葉に陽芽は閉口し、キッとこちらを睨んでくる。
申し訳ないが、陽芽をうちに住まわせることはできないので、可哀そうであるがここは言い負かすしかない。
「うぅー、説得するもん」
「あのお父さんを?」
「……お母さんにお願いする」
「いや、光子さんだって許してくれないと思うけど……」
少なくとも、俺が親だったら絶対に許可しない。
中学生になったばかりの娘が突然幼馴染の男の家に住みたいと言い出したら、それこそ何があったのかと心配するだろう。
全てに反論されてしまった陽芽は涙目で俺を見つめる。
「……じゃあ、はじめは私と一緒に住むの嫌なの?」
「いや、そういう訳じゃないけど……」
「じゃあ良いじゃん!」
「良くないよ!?」
そう言い返すと、陽芽はさらに瞳に涙を溜め、そして泣きながら家から出て行ってしまった。
「あれまずくない? 追いかけようよ!」
「そうだな…………」
俺たちは茫然としてしまいワンテンポ遅れて陽芽を追いかけた。
しかし、時すでに遅しで、陽芽はすでにどこかに行ってしまっていた。
慌てて俺たちはお母さんに頼んで陽芽の家に連絡を入れたのだが、連絡を入れている最中に陽芽は帰宅したらしく、どうやらそのまま自分の部屋に閉じこもってしまったらしい。
「……はぁ、どうしたものかなぁ」
「陽芽、相当怒ってたもんね……」
「まぁ、そりゃそうだろうけど……」
俺は大きくため息をつきながら電話を見つめる。
とりあえず、陽芽が無事に帰宅したというのは良かった。
「……明日、学校でもう1回ちゃんと謝ろうかな」
「僕もちょっと話し合ってみるね」
「そうしてくれると助かるよ……」
俺は肩を落として返事する。
絶対学校でも色々と大変な事になると確信していた為、今から既に覚悟を決めなければいけない。
そう思いながらその日は一旦寝ることにした。
そして次の日……想像以上の困難が待っていることをその時の俺はまだ知らない。




