7話 善行でスキルが手に入るらしい
《癒しLV1》
このスキルが出てきたおかげで、俺の考察は一気に崩れ去った。
俺が今までやっていたことと言えば、体を動かしていただけだ。
百歩譲って《身体》のレベルが上がるなら分かる。あるいは、泣くのを我慢していたのだから精神のステータスが上がったりするようなスキルならまだ理解できる。
しかし、実際に手に入れたのは《癒し》だ。
これは今まで俺がやっていた行動に繋がる部分が少ない。
お母さんに休んで欲しいという気持ちがあったからこのスキルを手に入れられたとも考えられるが、メインでやっていたのはそれじゃないし…………。
だが、《癒し》のスキルを手に入れられた原因はそれしか考えられない。となると、スキルの獲得条件は何らかの行動をするだけではないのだろうか?
《身体》のレベルをあげることができた時と出来なかった時の行動の違い……特にそこまでなかったように思うが、強いて言うならお母さんが起きていたか起きていなかったかだろうか?
しかし、お母さんが喜んでいることが発動条件だと考えれば今回の《癒し》のスキルが説明できなくなる。
お母さんは寝ていたのだから、俺が泣くのを我慢していたことなんて知る由もない。 つまり、相手が実際に喜んだかどうかは重要ではないということになる。
ならば……俺自身の行動の目的が関係している?
今回、俺が泣くのを我慢したのはお母さんを起こさず、少しでも長く休ませてあげるためだ。
そして手に入ったのが《癒し》のスキル。
……そう考えればしっくりくる。
つまりは重要なのは何をしたかではなく、何のためにしたかなんだ。
ただ体を動かすだけでは《身体》は上がらなかった。
だが、お母さんを喜ばせるために体を動かしていた時には上がった。
ただ泣くのを我慢しただけなら、《癒し》なんてスキルが出てくる理由はない。
お母さんを休ませるために我慢したからこそ、《癒し》が手に入った。
つまり、スキルの獲得条件は単純な努力ではなく、誰かのためになること。
誰かを助けたり、喜ばせたり、楽にしてあげたりする…………善行によって獲得できるのだ。
……そうか、善行か。
前世での俺は世界が少しでも温かみのあるものになってくれるように毎日必ず一つの善行をおこなう一日一善を徹底していた。
それは別に何か見返りを求めてやっていた行動ではない。
しかし、今世ではそれが明確なリターンとなって俺に返ってくるのだ。
なんというか、複雑な気持ちだ。
見返りなど求めていなかったのだが、結果的に多大な報酬を得てしまったような形になっている。
…………善いことをしたから褒美をやる、と言われているようで少しだけ落ち着かない。
前世の俺が一日一善を続けていたのは、別に誰かに褒められたかったからでも、自分が得をしたかったからでもない。 大層な理由があったわけでもなく、ただ、自分一人が一日に一回だけでも誰かのためになることをすれば、その分だけ世の中は少しマシになるんじゃないかと思っていただけだ。
それなのに今は、その善行一つ一つがスキルという形で返ってくる。
…………ま、別にそれがダメだって訳ではない。
別に誰かから何かを奪ってる訳でもない。むしろ、誰かの助けになることをしてついでに俺も報酬が貰えるのだから、ウィンウィンだろう。
ま、問題があるとすれば……これから善行をする度にスキルの事が頭をよぎってしまったり、目的がすげかわったりしてしまう可能性があるってくらいだな。
果たして報酬のためにおこなう善行は本当に善行と言えるのだろうか……?
ま、やらぬ善よりやる偽善というもんな、やらないよりはマシだろうし、この習慣は変わらず続けていこう。
それに…………間違いなく、俺はお母さんを喜ばせたいと思っているのだから、この行動だけはとりあえずちゃんとした善行として認めていいだろう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「…………れで、もう本当に1人でも大丈夫なの?」
「うん、一旦は」
「そう、ならいいんだけど……」
身体がガタガタと小刻みに揺れている。この感じ……車だろうか?
寝起きの俺は何とか視界を確保するために何度か瞬きをする。
しかし、どうやらお母さんに抱っこされている状態のようでちょうどいい具合に周りがよく見えない。
車内なのは間違いないだろうし、あまり動き回るとお母さんも大変だろうから、視界による情報収集は諦め、耳に全集中する。
すると、どうやら車内には俺とお母さん、そしてもう1人車を運転してくれている女性が1人いるようで、お母さんはその女性と話しているようだった。
「これから忙しくなるだろうし、あまり面倒みれなくなっちゃうだろうから一応お手伝いさんに来てもらうことになってるから、辛かったりしたら遠慮なく呼ぶんだよ」
「……大丈夫、私一人でも問題ないから」
「そうは言っても……あなたはまだ子供なんだからちょっとは……」
「違う、私はもう……お母さんよ」
その一言で車内が少しだけ静かになった。
「……そうね」
運転手の女性はそれ以上強く言うことは無かった。
しかし、その声にはどこか納得いっていないような、あるいは悔しいような響きが混じっていた。
「……ぁぅ」
「……っと、ごめんね、起こしちゃったかな?」
思わず漏れ出た声で起きているのがバレてしまったようだ。
「大丈夫、もうすぐ着くからね」
「……ぅー」
そういいながらお母さんは俺の背中を優しくポンポンと叩く。
今は退院して、家に帰っているところのようだ。
本来ならもっと喜ぶことなのだろうが、先程の会話も相まって、俺はちっとも喜ぶことができなかった。
何故なら、今までできる限り違うだろうと否定しようとしていたことが、確定してしまったからだ。
……どうやら、俺には父親が居ないらしい。




