66話 ベッドの上の攻防戦(健全)
「ねぇ、はじめ……今日もいい?」
夜遅く、俺の部屋に入ってきた悠莉は恥ずかしそうに頬を赤らめながら俺に問いかける。
スキルを使用して脳内で勉強をしていた俺は少し眠そうな演技をしながら答える。
「……だめ」
「なんでさ! 昨日は良いって言ってたじゃん!」
悠莉は頬を膨らませながらもちゃっかりと俺の部屋の扉を閉めながら俺のベットに向かって来る。
「あのな悠莉、先に約束を破ってきたのはお前だろ?」
「うぅ、で、でもぉ……」
悠莉は何も言い返せないのか、瞳に涙を浮かべながら口を閉じる。
そんな様子に俺は思わず心が傷んでしまう。
問題は解決したとはいえ、心に傷が残ってしまうような出来事を経験したというのには変わらない、だからこそ、今回の悠莉の要求を少しは汲んであげたいと思ってしまうのだ。
「はぁ、分かった分かった、とりあえず布団持ってきて、話はそれからだからね」
「う、うん! ありがと!」
満面の笑みを浮かべる悠莉を見て対照的に俺は深く溜息を付いた。
一件落着と思っていたが、どうやらこの事件はまだまだ始まったばかりだったらしい。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
話は悠莉が家に来てすぐの夜まで遡る。
「はじめ、ちょっとお願いがあるんだけど」
その日の夜もいつも通りに脳内勉強を行っていた俺の部屋に少し大人しい様子で悠莉が入ってきた。
いつもの元気そうな様子がどこにも見られないため、流石に精神的に辛くなっているのではないかと心配に思い、俺はすぐさま起き上がる。
「どうしたの? 話聞くよ」
俺が優しげにそう言ったのが幸いしてか、悠莉は少し緊張を解いた様子で口を開いた。
「ちょっと頼み事があるんだ」
「頼み事……?」
「うん、その……僕と一緒に寝て欲しいな……って」
「…………ん?」
一瞬とんでもないことを言われたのかと思い頭がフリーズしかけたが、今の状況で流石にそんな事は言われないと考え直すことができたお陰で、変な対応をしないことに成功した。
「あ、あぁ、もしかして、1人じゃ眠れないとか……?」
「うん、いつもはみんなと一緒に寝てたから、急に1人になって、色々と怖くなっちゃって……」
そう言いながら俯く悠莉を見て、俺は急激に心が痛くなった。
無理もない、突然環境が変わったのもあるだろうが、信頼していた人に怖いことをされたという心の傷は深いのだろう。
ここに来てからも元気な様子でいた悠莉だが、もしかしたらどこか無理をしている部分もあったのかもしれない。
しかし、何とかその頼みを聞いてあげたいとは思うものの、俺たちはもうすぐ中学生だ。
そんな年頃の男女が2人きりで寝泊まりするというのは流石に避けるべきだろう。
その為、俺は代替案を提供することにした。
「流石に僕と一緒に寝るのは良くないだろうから、僕のお母さんと一緒に寝るって言うのはどう?」
お母さんなら悠莉の気持ちを汲み取ってくれるだろうし、何よりも同性なので俺よりも近い距離で接する事ができ、心の傷も少しは癒えるだろうという俺の精一杯の代替案だったのだが、悠莉は首を横に振った。
「えっと、僕はじめのお母さんとはまだ知り合ったばっかだから、ちょっと気まづいって言うか……その、僕ははじめと…………」
悲しげに目を逸らしながら言い淀む悠莉に、俺は先程までの保身の気持ちを全て捨てる。
少しだけでも邪な考えを持ってしまった自分が恥ずかしい。
「……分かった、そういう事なら、一緒に寝よう」
「ほんと!?」
「うん、勿論!」
俺がそう答えると、悠莉はいつもの弾けるような笑みを見せる。
その笑顔が見れただけで一安心と思っていたのだが、その考えは一瞬にして消え去る。
「……ん? 待って、なんでこっち来るの?」
「え? だって、一緒に寝てくれるって」
ニコニコしながら俺の布団に潜り込もうとする悠莉を俺は慌てて止める。
「いや、流石に一緒の布団はダメだって!」
「え、けどみんなとは同じ布団で……」
「それって女の子どうしでしょ!? 俺は男!」
「た、確かに……!」
悠莉はハッとした表情をする。
しかし、俺の布団に入るのをやめようとはしなかった。
「いやいや、なんで!? ダメって言ってるじゃん!?」
「だ、だって、やっぱりこうしなきなゃ安心できないもん!」
強引に俺の布団に入ろうとしてくる悠莉をひょいっと持ち上げ、ベッドの外に追い出す。
一緒の部屋で寝るというのですら譲歩しているというのに、一緒のベッドで寝るなど言語道断だ。
それからしばらく悠莉と俺による攻防が続いた末、あまりの俺の抵抗に流石の悠莉も諦めたようで、悠莉の為に買った敷布団を俺の部屋の床に敷き、悠莉はそこで寝るということで落ち着いた。
「はい、じゃあおやすみ」
「…………ケチ」
「部屋に戻すよ?」
「…………」
俺がそう脅すと、悠莉はそれ以上無駄口を叩くことも無くなった。
時計を見るともう既に深夜に差し掛かっており、流石に寝ないと成長にも影響が出てくるため、悠莉の寝息を聴きながら俺は眠りについた。
「……なんで隣に居るんだよ」
そして翌朝、その寝息は俺の真隣にまで接近していた。




