65話 脅迫
「それで、話ってなんだい? もしかして家出とか?」
「いえ……」
俺は孤児院の奥にある職員用の部屋の一室に連れていかれた。
奴は気づかれないと思っているのか、こっそりと部屋の鍵を閉めたりもしているし、明らかに下心があるのは確実だろう。
「えっとその、見てほしいものがあって……」
そういいながら俺は鞄からビデオカメラを取り出す。
ロリコンは鞄から思ってもみないものが出てきたからか少し驚きながらも、笑みを浮かべながらビデオカメラを覗き込んでくる。
俺は距離が近かったので少し離れながら、淡々と操作していく。
「見てほしいのは、この動画で……」
俺はそう言いながら犯行現場の動画を流し始めた。
「…………え?」
男の表情が固まる。
先程まで浮かべていた気色の悪い笑みは消え去り、代わりに困惑の表情が浮かんでいた。
だが、それも一瞬のことだった。
「お、おい! なんだこれは!?」
男は突然大きな声を上げ、俺の手からビデオカメラを奪い取ろうとする。
しかし、それくらいは想定済みだ。
俺はすぐに後ろに下がり、男の伸ばしてきた手を躱した。
「落ち着いてくださいよ、まだ動画は終わってませんから」
「ふ、ふざけるな! そんなもの、どこで撮った!?」
うわぁ、すっごい焦ってるよ、露骨すぎるなぁ。
俺の事を捕まえようとするロリコンの魔の手を掻い潜りながら、俺はその様子もビデオカメラで撮影する。
ここまで露骨な反応なら脅しの材料にもなるだろうからな。
その後も攻防は続いたが、《運動神経》や《反射神経》のレベルが高く、その上で高い身体能力と小柄な肉体の俺をそう簡単に捕まえられる訳もなく、のらりくらりと回避しているうちに次第にロリコンの体力は尽きて行った。
「はぁ、はぁ……お前……何が目的だ!」
「何が目的って……勿論、貴方にここを辞めてもらうのが目的ですよ」
「なっ!?」
ロリコンは呆気にとられながらも、次第に顔を青くしていく。
「ま、待ってくれ、流石にこの歳で職を失うのは……!」
「自業自得でしょう、子供に手を出すなんて許されないですからね、勿論、他の孤児院に行くことも許しません」
「そんな……!」
ぐうの音も出ないのか、ロリコンは押し黙る。
確かにその歳で職を失えば転職は大変だろう。
この世界は人口が多い分、職業の競走は激しい。
少なくとも十数年は孤児院で働いている以上、同じく孤児院に就職する以外はかなり厳しいだろうが、それだけをやったんだ、可哀想とは思わない。
「あ、ちなみにここで僕を捕まえたとしても勿論バックアップは取ってるし、何かあればそれを然るべき場所に渡す予定だから、どっちみちお前はもう終わりなんだよ」
「…………」
俺の言葉を聞いたロリコンは、暫く茫然自失と言った様子で俯いていたが、やがて何かを諦めたかのように笑いだした。
「はは、そうか……もう終わりか……今までは本当に手を出すところまではしていなかったが……もう終わりだったら……」
そこまで言った瞬間、ロリコンは急に腕を広げ、俺を抱きしめようとしてきた。
「最後ぐらい、好きにしてやるっ!」
「きもいっ!」
「ぐはっ!」
俺は咄嗟のことに驚きながらも、冷静にロリコンの脇の下をすり抜け、思い切り膝の裏に後ろ蹴りを入れる。
あまりの痛みに膝をついたその隙に、背中にもう一撃蹴りを入れ、ロリコンは前方に大きく倒れる。
その衝撃で、部屋にあった本棚の上からクッキーの箱のようなものが落ちてきて、その中身がばら撒かれる。
俺は床に散らばったものを見て、思わず首を傾げた。
どうやら箱の中に入っていたのは大量の写真らしい。
それも、何故かその殆どに女の子が写っている。
恐らくこの孤児院の子供たちだろう。
「……なんだこれ?」
俺は近くに落ちていた写真を何枚か拾い上げ、確認してみる。
「…………うわっ」
思わず声が漏れた。
写真に写っていたのは、着替え中と思われる女の子の姿だった。
それ以外にも、明らかに本人の了承を得ずに撮影されたと思われる写真が大量に保管されていた。
「お、おいっ! それだけはやめてくれ!」
ロリコンは懇願するが、俺は冷めた目で睨みつけ、写真を全て破り、箱の中にもう一度しまう。
これは……後でちゃんと燃やそう。
「さて、これでよし……と、後はもうこの孤児院に近寄るんじゃないぞ」
「わ、わかった……」
男は観念したようにそう呟いた。
ちなみに、他の職員には既にこの事は話しており、しっかりと映像も見て孤児院の子供たちを守ってもらうように言ってあるので、もう一件落着だろう。
俺はそう思いながら孤児院をあとにした。
……ちなみに、この時に《脅迫》という不名誉なスキルを手に入れてしまったため、あのロリコンのことがもっと嫌いになった。




