62話 相談
何とか悠莉を泣き止ませた俺は、この問題の解決策について考え始めた。
家出したとは言ってもまだ太陽も沈んでいない時間帯だ、このまま怪しまれずに孤児院に帰すということもできるだろう。
だが、話を聞いてしまった以上、また悠莉に手を出すかもしれない奴がいる所に悠莉をそのまま帰すということも出来ない。
だからと言って、なんの手続きも無しに家に泊めたりすれば、それはそれで問題だろう。
まぁ、とりあえずは何をするにしてもお母さんが帰ってこないことには話が進められない為、お母さんを待つことにしよう。
「悠莉、これからお母さんが来るから、それまで待っててくれる? 大事な話がしたいんだ」
「へっ!? そ、それって……」
「あぁ、もし良かったらうちに住んで欲しいなって」
「…………」
悠莉が俺のことをじっと見つめてくる。
あれ、俺何かやってしまっただろうか?
さっき泣かせてしまったのもあるので、慎重に言葉を選んだつもりだったのだが、また不安がらせてしまったかもしれない。
俺が何とかリカバーしようと言葉を紡ごうとしていると、先に悠莉の口が動いた。
「ねぇ、はじめ」
「な、なに?」
「それってどういう意味で……」
「はじめーっ! ただいまーっ!」
悠莉が何かを言おうとした瞬間、その声をかき消すかのような勢いで扉が開き、お母さんが部屋に入ってきた。
「ごめんね、ちょっと急に急用ができちゃって……それじゃ、習い事行こっ……か……」
そこまで言うと、流石のお母さんも悠莉の存在に気づいたのか、表情が固まる。
「はじめ……その子は?」
「あっ、えと、はじめくんのお母さんですよね? 僕……じゃなくて、私は悠莉って言います。はじめくんの…………友達です」
「そうそう、僕の友達だよ」
一時はどうなるかと思ったが、お母さんの登場により悠莉も不安だった気持ちが晴れたのか、さっき感じた圧のようなものは無くなっていた。
今がチャンスだと思い、俺はお母さんに今の話を伝えようとした。
「お母さん、ちょっと大事な話がある」
「え……ちょ、ちょっと待って、陽芽ちゃんは……?」
「え?」
お母さんは少し怯えたような表情を見せながら、陽芽の名前を出した。
ちょっと良く分からないが、そんな事を考えている隙に悠莉がまた不安になったりしてはいけないので、俺はお母さんの耳元に近づき、悠莉には聞こえないようにしながら今回の事について話した。
話を聞くにつれ、お母さんの表情は次第に真面目な表情に変わっていった。
そして、お母さんは少し考え込むように視線を落とした後、悠莉の方へと目を向けた。
先程までの妙な慌てようはすっかり消え去っており、今はただ、心配そうな表情を浮かべている。
「悠莉ちゃん、だったわよね?」
「は、はいっ!」
「ちょっとこっちに来てくれる?」
「…………」
悠莉は少し不安そうな表情を浮かべながら俺の方を見た。
「大丈夫だよ、お母さんは優しいから」
「……うん」
俺がそう声をかけると、悠莉はゆっくりとお母さんの方へと歩いていった。
お母さんはその様子を黙って見つめ、悠莉がお母さんの目の前に来た瞬間、そっとその身を抱きしめた。
「怖かったよね……もう大丈夫だからね」
「…………うん」
悠莉は少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに安心したのか、お母さんの背中にそっと手を回した。
「それで、はじめはどうしたいの?」
「えっと、出来れば悠莉をうちで預かれないかなって……」
「……そうねぇ」
お母さんは少し考え込むような仕草を見せた。
俺は、もしかしたらと思い口を挟む。
「お金ならあるよ! 僕これからまだまだいっぱい稼ぐし、悠莉1人分くらいなら全然養えるくらいは余裕だし……」
「ふふ、子供はそんな事気にしなくていいのよ、お金に関しては大丈夫だから」
そう言ってお母さんは悠莉の頭を撫でる。
「私の元に来たらもしかしたらこれから少し不自由な思いをするかもしれないけど、それでもいいならうちに来て欲しいなって思うんだけど……どうかな?」
「……い、いいの?」
「もちろんよ、悠莉ちゃんさえ良ければね」
「……っ! うん! もちろん!」
そう言って悠莉は満面の笑みを浮かべた。
その表情は今日一番と言ってもいいほど明るく、俺も思わず笑みを浮かべてしまう。
「ふふ、そんなに畏まらなくてもいいのよ。これからは家族になるかもしれないんだから」
「か、家族……!」
その言葉に悠莉は何故か顔を赤らめ、ちらりと俺の方に視線を向けてきた。
……ん? 何だ?
「まぁ、とは言っても、今すぐ一緒に暮らせるという訳ではないんだけどね」
「えっ……?」
「悠莉ちゃんは今、孤児院で暮らしているんでしょう? だから、まずは孤児院の人に相談して、ちゃんと手続きをしないといけないの」
「……そっか」
少し残念そうな表情を浮かべる悠莉に、お母さんは優しく微笑んだ。
「でも、安心してね、出来るだけ早く一緒に暮らせるように頑張るから」
「……はいっ!」
……良かった。
とりあえず、これで一歩前進だろう。
あとは……悪を潰すだけだ。




