61話 奥の手、再来
話を聞くに、どうやら悠莉は孤児院の出身だったらしい。
俺はその事についてあまりよく知らなかったが、よく考えてみれば俺自身放課後は多忙なので、友達の家に遊びにいくとかは殆ど無かったし、悠莉も放課後は最速で家に帰り、友達と公園で遊ぶようなタイプだったので、知らないのは何もおかしなことでは無い。
ただ、俺のかなり身近にそういった人が居たという事には少し驚いた。
「で、本題だけど……パパに胸を触られるのは普通のことかって?」
「う、うん」
俺は少し緊張した面持ちで俺の返答を待つ悠莉の方を掴み、目をしっかりと見つめた。
そして、確信を持った声音で語りかける。
「……おかしいようん、絶対おかしい」
「えっ、そんなに?」
悠莉は少し驚いたような反応を見せる。
お父さんに胸を触られるというのはシチュエーションによってはありえないことでは無い。
抱っこをしたり、転びそうになったところをうっかり触ってしまうというのであればおかしな話ではない。
だが、どうやら悠莉の話を聞くに、そういうことでもないらしい。
「確認だけど、お父さんはわざと触ってきたんだよね?」
「うん、胸がちょっと大きくなってきたことを相談したら、揉んだら良くなるからって…………初めはちょっと触るだけだったんだけど、最近はちょっと強めに揉もうとしてきて……嫌がっても全然やめてくれなくて……」
悠莉は瞳に涙を貯めながら俺に語ってくれた。
この話で完全に理解した。
……その人、完全にロリコンだ。
百歩譲って娘の成長を心配して確認したというのであれば……いや、それでも本人の同意もなく胸を揉む必要なんてどこにもない。
ましてや揉んだら良くなるなんて理由まで付けている時点で完全にアウトだ。
「悠莉、それって一回だけ?」
「え?」
「お父さんにそういうことされたの、一回だけなの?」
俺がそう尋ねると、悠莉は少し考えるように視線を上へ向けた。
「うーん……胸はこの前が初めて、でも、お風呂に一緒に入ろうって言われたりはするよ?」
「…………」
「あと、着替えてる時に入ってきたり?」 「………………」
「はじめ?」
俺は思わず頭を抱えた。
もちろん、それだけなら家族によっては普通という可能性もある。
中学生になった娘と風呂に入ろうとする父親だって、この広い日本を探せばいるかもしれない。
着替えているところにうっかり入ってしまうことだってある。
だが、胸を意図的に揉んだという話と合わせると、一気に意味が変わってくる。
「悠莉、やっぱりそれ絶対おかしいよ、警察呼んでもいいくらい」
「…………そうなんだ」
悠莉は暗い表情を浮かべる。
俺はパソコンの前に向かい、児童相談所の様な場所に相談しようと思い調べてみる。
しかし、そこには孤児院などの名前が連なっているだけだった。
「そうか……そういえば、この世界では孤児院が児童相談所のような所なのか」
つまり、悠莉は今まさに児童相談所にいるという事だ。
そこまで考えたところで、俺は背筋に嫌なものが走るのを感じた。
児童相談所のような役割を担っているのが孤児院。 そして悠莉が暮らしているのも、その孤児院だ。
「悠莉、その……パパって、この孤児院の人なんだよね?」
「うん」
最悪だ、本来なら子供を守るはずの場所で、その子供に手を出している人間がいるということになる。
「他の人には相談した?」
「してない……」
「…………そっか」
そうならばまだマシだ。
孤児院と言うのは基本的に少人数の大人で運営されていると聞いた。
そのため、その1人が悪事を働いているすれば他の職員もグルという可能性が高い。
そのため、悠莉がそのことを他の職員に相談したりすれば、自体の拡大を恐れた職員によって、悠莉が酷い目に合わされてしまうかもしれない。
「とりあえず、その事については他の人には相談しないでね」
「なんで?」
悠莉は不思議そうに聞いてくる。
そのまま事を伝えれば楽なのだろうが、そうなると悠莉を怖がらせてしまうかもしれない。
それは避けたいので、俺は久しぶりにあの技を使う事にした。
「悠莉」
「なに?」
俺は椅子から立ち上がると、そのまま悠莉との距離を詰める。
「えっ、はじめ?」
突然近付いてくる俺に戸惑った悠莉は、自然と後ろへ下がっていく。
それでも俺は距離を詰めていき、そして…………。
ダァン
大きな音が部屋の中に響いた。
「ひゃっ!?」
壁際まで追い込んだ悠莉の顔の横に手をつき、俺はそのまま真正面から悠莉の目を見つめる。
「ねぇ、悠莉……」
「な、なに……?」
悠莉の顔が一気に赤くなった。
「悠莉を守る為なんだ、詳しくは言えないんだけど、言う事聞いてくれない?」
「…………う、うん」
悠莉は小さく頷いた。
その直後だった。
「……ぐすっ」
「えっ」
悠莉の目からぽろぽろと涙が零れ始める。
「ちょ、ちょっと待って!? 怖かった!? ごめん! やっぱ壁ドンは駄目だった!?」
俺が慌てて距離を取るも、悠莉な泣き続ける。
俺はどうしたらいいのか分からず、アタフタとしてしまった。




